第7話 世界創造

疑問に思ったことが1つある。

本当に疑問に思っていることがあるとすれば1つどころではないのだが…

今思いつく限りでという話であることを前提にする。

この惑星に太陽という概念があるのだろうか?

そして月という概念も。

そう思った俺は、自分が本に書き込んだことを見比べ外の景色へと目を移す。

時間の概念。それは作り上げたものだからいいとしても、月や太陽。

そういったものは設定していなかったので、焦るが、外を眺めると砂に降り注ぐ日の光が俺を安心させた。


(あのアーノルドの初期設定か何かで太陽と月は創られていたんだろう…きっと…)


俺はそう納得することにした。

心配そうに俺の顔を眺めるガブリエルに、先ほど設定してしまったこの惑星は地球100個分という概念に頭を抱えるも、なんとか笑顔を繕う。


「大気とか、あと温度とか設定する必要もあるのかな?」


そうなってくるともう俺の頭はパンクしそうだが、そんな疑問にガブリエルはあっさり答えてくる。


「さぁ?わかりませんが、生きていけるんだから必要ないんじゃ?」


確かにガブリエルが言う通りだった。

アホみたいな笑顔で答えるガブリエルを見ていたらだんだんと自分が考えていたことが滑稽に思えてくる。


「確かにそうだな。まあ困った時に設定すればいっか」


俺は深呼吸をする。確かに鼻や口からは空気が自分の中に入ってくることを確かめると、安心したように砕けた表情になる。


「とりあえず地形創るかぁ…」


俺は、地図を創るかのようにマップのようなものを本に描いていく。

しかしその作業にあまり気は進まず、項垂れるようにテーブルに顔を置く。


「とりあえずここが砂漠じゃなければいいよなぁ」


「あ、天界作ってくださいよ天界」


「おーいいぞー」


俺はガブリエルから言われるがまま天界やら地界やらファンタジーにありそうなものを次々と描いていく。

俺はほぼ寝たようにだらけながら描いているが、ガブリエルはどんどん出来上がっていく地図に目を輝かせ食い入るように俺の作業を眺めていた。


「見てもいいけどさぁてきとうだから案外恥ずかしいんだけど…」


「そこに国を作りましょう!そして、お酒!名産はお酒にしましょう!」


俺の言っていることが耳に入っていないのか地図に書き記した俺のマップに指差し要望を出してくれる。

ミカエルとは違い、ガブリエルのこういうところはとてもありがたいが話を聞かないのはよくないと俺は思う。


4枚にも及ぶ、地形の設定にうんざりしつつ、3時間ほどずっと作業に付き合っていたガブリエルに関心を覚える。


(街だけ創っても人がいないんじゃどうしようもないな…)


俺はそう思い、俺は手を止め、ガブリエルを見つめる。

手が止まった俺に気が付いたのか、ガブリエルが俺のほうを見る。


「お酒は嫌いでした?」


不安そうに俺を見つめるガブリエルに俺は呟く。


「ん…?いや…町の設定とか国の設定とかそういうのは後回しでいいんじゃないか?」


「どうしてですか?」


「だって住む人がいないし、町はさ…人が作るもんだろ」


「それも…そうですね…」


先ほどまで目を輝かせマップを見ていたガブリエルがしゅんとしてしまう。

なんだか悪いことをしたような気がして、俺はフォローのつもりでガブリエルに言った。


「まあいずれ人は創るとして、悪魔だっけ?いてほしいんだろ?

大体、地形は創り終えたし…うおっ!?」


俺が体を起こし、ガブリエルを説得していると、急に地震が発生したかのような揺れが家を襲った。

ゴゴゴといったような音を鳴らしている外を窓から覗くと、家が浮かび上がっているのがわかる。

関心したように眺めていると、ドアがバンッという音と共に開いた。


「なっ何事ですか!?」


ミカエルが慌てた様子で家の中に入ってくる。


「あーごめん。説明してなかったけど、今地形を創ってて…」


思わず自分が言ったことに恥ずかしさを覚える。

なんだよ地形を創ったって…

今日日小学生でも言わなそうな単語じゃないか…

俺は思わず、目を伏せるがガブリエルが外を眺め、再び目を輝かせる。


「す…すげぇ…オレこんなの初めて見たよ」


そりゃあ昨日生まれた赤ちゃんみたいな奴だったら新鮮な背景だろう…

まあこいつらと同じようなものだが…

しばらくゴゴゴという音と共に空に浮かび上がっていく様を眺めていると

ある程度浮かび上がったところで家の振動が収まる。


「ちょっと外を見て回ってもよろしいでしょうか」


ミカエルが俺に進言してくる。

その言葉に思わず俺もミカエルと一緒に外へ出ると、そこには雲一面の景色が広がっていた。

ミカエルが隣でうずうずしている様子だったので、夜には帰るよう言い残すとすぐさまどこからともなく出現した羽根で飛んで行ってしまった。


そういえば、設定ではあいつ…天使だったもんなぁ…

羽根はちょっと天使っぽいデザインとは違うけどな。あれだ。気づいたけど、あの羽根どことなくガ○ダムっぽい羽根だわ。どうやって付いているんだろう…あれ…


俺は飛び立って行く、ミカエルの背中を眺めていると、いつの間にか隣にいたガブリエルに声をかけられる。


「オレも!オレも行ってきていいですか!?」


そんなに行きたそうにうずうずさせてしまったら拒否なんてできるはずもない。

俺はミカエルに言ったようにガブリエルにも夜には帰るよう忠告する。

すると、ガブリエルもミカエルと同じような羽根で飛び立つとあっという間にいなくなってしまった。


「一息つけるな…」


俺は家の中に入ると、コーヒーを淹れる。

ガブリエルが先ほど言い残したことを思い出し、悪魔でも描くかと思い立つ。


「悪魔…悪魔ねぇ…」


本の白紙のページを開きつつ、ペンをくるくると指で回す。


(やっぱり、悪魔ならサタンとか?

でもサタンだとなんとなく怖いしなぁ…リリスとかどうだろう?

ただ、あんまりベタすぎるのもなぁ…)


ふと、ミカエルとガブリエルのページを捲る。


「ネーミングセンスなさすぎて嫌だな…」


描かれたミカエルとガブリエルに溜息を吐く。

創ってしまったものは仕方ないし、ベタなのは俺の仕様だからもう考えるのはやめよう。俺は、諦めて白紙のページに戻り、とりあえず自分の中の目一杯の悪魔像を描いていく。


(名前はあとで決めるとして、あんまり怖い奴だと困るし…)


描いているうちに、弱々しい女児が出来上がっていた。


(なんだこいつ…幼女じゃないか…まあいいか…)


続けて設定を書いていく。


(銀髪で、俺に対しては無害で…んー天使と戦う理由がほしいな…

神様を奪うためとか?そしたら俺に対して無害じゃなくなるから嫌だな…)


「んーまあてきとーに人間界を征服したいとかでいいか…」


ベタだけど、悪魔としては適当だろう。


「“天使の使命と相対するため、敵対している”っと…まあこんなもんか…」


そこには、角を生やしただけのベタな幼女が描かれていた。

描き終えたところで後悔しかないが、ガブリエルもこれで満足するだろう…


「あぁそうだ。どうせならミカエルのためにもう一人創っとくか」


俺はこの幼女にメフィストと名付けるとそれらしい設定を追加で書き込む。

満足したところまで設定を詰め込むと、一枚捲り、白紙のページに再び描いていくことにする。


「あれだ。ルシファーだわ。ルシファーがほしいわ」


やけくそ気味にキャラを描き込んでいく。

地形を創るのに脳を使いすぎたためか、ただ単に面倒くさくなったためか

段々と頭がふわふわしてくる。


「ルシファーっつったらあれだろ。堕天使なんだから黒髪な」


黒髪ショートの無口キャラっぽい人物を描き始める。


「あーでも金髪っぽい姉ちゃんも捨てがたいな…そうだ…姿を変えられるとかそういう設定にしとけばいいんじゃね?」


俺は、黒髪ショートの天使っぽいキャラの横に金髪のお姉さんっぽいキャラを描き始める。胸はやはり大きめがいいだろう。


(こういうのは作者の願望が出てしまうな…。)


大方、キャラのビジュアルを描き終えると次に同じように設定を描き始める。


「あれだわ。俺には優しいっていうのと、俺の命令には従うってのは絶対条件だな…あと、エロければいいなぁ」


精一杯の男の願望といえるものを詰め込み、書き終えた後、本を閉じ、コーヒーに口をつける。外を眺めると、すっかり夕方の気配を見せていた。

目を細めながら夕焼けを見ていると、後ろから声がする。

ミカエルとガブリエルが帰ってきたのかと思い、俺はカウンターの椅子からくるりと振り返る。


「おー…おかえり。ずいぶんとはや…」


声が上がったはずの場所を眺めると、俺の知らない3人の女の子が立っていた。







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