第6話 概念創造
これが俗に言う、異世界転生というものであれば、どんなによかったのだろう。
俺は少し硬いベッドに寝転がりながら物思いに耽る。
起こった出来事がいくら考えても現実離れしすぎて、考えても俺の頭では理解が追い付かない。
部屋にあるランタンの明かりが微かに揺れる。
「神様。まだ起きてます?」
ふとドアから声が聞こえてくる。
恐らく、この声は先ほど俺が創り上げたガブリエルの声だろう。
俺は軽く返事をすると、ガブリエルに部屋の中に入るよう促す。
「神様。もう寝るんですか?」
部屋に入ったガブリエルが俺の横たわる姿を見て、首を傾げる。
「まあな。今日は色々あったし、さすがに疲れたよ」
「そ、そ、それならオレがえっと色々と…」
何か恥ずかしそうにもじもじしているようなガブリエルに、目線を動かすと、下着姿のガブリエルがそこにいた。
「な…なんだその恰好」
俺が慌てて体を起こし、ガブリエルを凝視すると、ガブリエルは自分の身体を手で覆い隠す。
なるほど。いい体だ。
健康体というか…まあミカエルほど胸はないが…うん。実っている。
「さっきの…ほら…脱げって言われましたから…」
「ほう…なるほど。いい心がけだ」
俺は咄嗟にいい声を出しつつ、ガブリエルの身体を舐めるように見渡す。
中々白い肌ではあるが、ミカエルほど白く透き通っているわけではない、
ただ綺麗な肌色をしている。
そう設定しているのだから、それもそうなんだが…
「うん。もう少し、近くに寄るといい。体に異常がないか確かめたい」
最もな理由を並べ、ガブリエルを近くに寄せる。
ガブリエルは俺の要求に答えるかのように、恥ずかしながらも俺の目の前まで来る。
「ふむ…。なるほど。そうだな。異常はないようだ。今度は後ろ姿を確認したい。背中を見せたまえ」
「は…はひぃ」
ガブリエルは目をぎゅっと瞑るとくるりと回転した。
綺麗な背中が姿を現し、俺は生唾を飲み込む。
少し食い込んでいるパンツに、引き締まったウエスト。
ブラはホックなどはついていないようだ。
設定通りの身体に少し恐怖を覚えるも、興味がわいた俺は、ガブリエルの背中に指をつんっと当てた。
「ひゃっ!?」
可愛い声と共に、指の感触が伝わる。
柔らかい。
「ふむ…背中に異常はないようだぁ。こっちを向くがイイ」
緊張し、紳士スタイルな俺も声が裏返ってしまう。
俺の顔を見れないのか恥ずかしそうに目線を外すガブリエルは腕で胸を隠している。
俺はそんなガブリエルに、腕をどけるよう指示する。
顔を真っ赤にさせたガブリエルは腕を胸からどける。
すると、ミカエルには負けるが形のいい実った胸の谷間が現れた。
「なるほどぉお!んんっ…少し触るぞ…」
俺はそう言うと先ほどと同じように左胸へと指を伸ばす。
指が触れるとぷにゅんという感触と共にガブリエルが喘ぎ声をあげた。
こんな状況、生まれて初めてだったので、俺はガブリエルの様子を伺う。
「ど…どこか変なところはあり…ますか?」
「い、いやぁ!う…うん。もう少し確かめてみないとわからないな…」
俺は、何度も何度もガブリエルの胸に指を押し当てる。
なるほど。これが、俺の追い求めていた安らぎだ。
慣れてくると、その触れる指と共に僅かに揺れる胸を目線が追いかける。
その胸に誘惑され、何度かつんつんしていると、ある場所から突起した何かが現れてくる。
「ガ…ガブリエルゥ…?これは何かね…?」
俺は布ブラからでもよく見える突起した何かに指を移す。
ピタっと指を当てるとガブリエルが大きく声を上げる。
「神様ぁ…それ以上は…」
ガブリエルがイヤらしい息遣いをしながら俺を見つめてくる。
もっとしてほしいということだろうか。
俺は何度も突起した場所に指を当てる。
指が当たるたびに、喘ぎ声をあげるガブリエルに俺は辛抱堪らなくなり…
「ガブリエル君。少し中身も確かめ…」
そう言いかけた瞬間、ドアが激しく音を立て、粉々に粉砕された。
俺は咄嗟に音のしたほうへ顔を向ける、ガブリエルも俺を見た後、同じ方向へと顔を向けた。
そこには、笑顔で怒り狂ったミカエルの姿があった。
「何を…何をしていらっしゃいますでしょうか?ガブリエル?」
これがお約束というやつなのであろうか。
ミカエルはつかつかと俺のいるベッドのほうへと歩みを始めた。
「チッ…ゴミエルが…邪魔しやがって…」
どこから出したのか、ガブリエルはミカエルのほうに槍を構え、臨戦態勢を取る。
「あの…戦うなら外でやってね…」
俺は絞り出したかのように呟くと、ミカエルがガブリエルのほうに首をくいっと合図を送ると、部屋の外へと出て行った。
「神様。オレがあのゴミエルに勝ったら、続きしてください」
ガブリエルが可愛い声で俺に言うと、そのまま部屋の外へと行ってしまう。
少しすると外から怒号と、戦闘音のような激しい音が鳴り響く。
俺はランタンを消し、何も知らないと目を閉じるのであった。
目が覚めると、朝日のような日差しが、部屋に差し込んでいるのが分かり、気だるい体を起こし、伸びをする。
カーテンを開け、外を眺めると、そこには相も変わらず砂漠が広がっていた。
(やはり夢ではなかったか…)
そう残念がるも、これから何をしようかワクワクする心もどこかにある。
2階から1階へと降りると、昨日創ったであろう酒場のような一角が姿を現す。
喉も乾いているし、お腹も減っていたこともあり、バーカウンターの奥へと行く。
そこには、木で作られた冷蔵庫があり、寝ぼけつつもその冷蔵庫を開ける。
「何もないな…」
冷蔵庫の中には期待したものは入っておらず、ただ冷たい冷気が顔に当たるだけであった。
はぁ…と溜息を零すと、俺はテーブルがあるほうへと歩みを進め、バーカウンターの一人用の席に腰かける。
「何か書くか…」
自分の寝室から持ってきていた本を手に取ると
俺は本とペンを取り出し、この家の冷蔵庫の設定に書き加える。
「まあ料理は俺がすればいいし…、とりあえず適当に補充できるようにしとくか」
元から作業する時は独り言が多い俺であったが、
若い女の子2人がいると考えると、少し控えなければならないか…
大体書き終えた後、本を閉じ、再び冷蔵庫を開けると、様々な食品が補充されていた。
俺はその補充されていた食品を手に取り、料理を始める。
水やコンロも正常通り動作していたので、調理はつつがなく終わり、適当な朝食が完成する。
「炊飯器を創っといてよかったわ…」
俺は米を茶碗に掬い、料理と一緒にお盆に乗せバーカウンターまで持っていく。
「へぇ。美味しそうですねぇ」
俺がバーカウンターまで辿りつくと、そこにはガブリエルの姿があった。
「食べたいの?」
よだれを垂らしながらじっと俺が作った朝食を眺めているガブリエルに問いかける。
「え…あぁいえ…オレは別にそのぉ…」
罰が悪そうに答えるガブリエルに軽く笑うと、ガブリエルが腰かけていたカウンターの前に朝食を置く。
「味噌汁とか結構あるから食っていいよ」
「へっ!?本当ですか!?」
もらえると思っていなかったのか、犬のように喜び、箸を急いで持ち、急いで朝食を口に掻き込む。
(食べ方が荒々しいな…山賊かよ…)
口にたくさん含みリスみたいになったガブリエルが泣きながら、俺に朝食の感想を述べる。
「ほいひぃ、はひめてほんなものはへはひた」
「何言ってるのかわからんから飲み込んでから話しなさい」
俺に言われたことに従い、しっかりと噛みしめて全てを飲み込むと、さっき言っていたことを再び述べた。
「美味しかったです。こんなもの初めて食べました」
「ん?まあ普通の朝食だぞ」
「はぁ…なんせ生まれて初めて食べたものなので…」
確かに、創造した後、何も食べずに寝たっけ…
俺は少し罪悪感を感じつつ、こいつらがきちんと生きているということに実感し、感傷に浸っていると、あることに気が付く。
「そういえば、ミカエルは?」
「あぁ…あのクソ真面目エルなら外ですよ」
ミカエルに対し、呼び名が安定しないガブリエルが少し機嫌が悪くなったのか、膨れながらそう言う。
「なんで外なんかに…砂しかないぞ」
「さぁ…?なんか警備するって言ってましたけど…」
砂しかないんだから、警備も何もないだろうに…。
「オレは、外にいてもつまらないんで、中に入ってきたんですけど」
「まあ確かにつまらんよなぁ…」
俺は窓から見える砂だらけの景色にうんざりしつつも、自分の分の朝食を作り、ガブリエルの隣で朝食をとる。
俺の横で朝食を羨ましそうに見るガブリエルに俺は尋ねる。
「何があったら面白いと思う?」
「何があったら…ですか…?そうですね…」
ガブリエルがうーんと唸りながら頭を悩ませる。
味噌汁をずずっと啜っていると、ガブリエルが何か思いついたのかあっと声を上げる。
「悪魔とかいたら盛り上がりそうですけどね。何せ景色が景色ですからまずは海とか森とか?あと島とか…」
確かに漫画に敵は必要だよな。しかし悪魔か…。
俺は、なんとなく自分の中にある悪魔像を想像する。
しかし、俺の頭の中にある悪魔は、いやらしい恰好をした姉ちゃんかキモイクリーチャーしか浮かばなかった。
「まあ確かに、まずは地形を弄ったほうがよさそうだな…」
そう考えるも、どれくらいの広さがあるかもわからない土地を無暗やたらに弄るのもよくないと考えた俺は、本を開きつつも書きあぐねる。
「ここってどれくらいの広さなんだ…?」
「広さ…ですか?」
ガブリエルが俺の呟きを拾う。
「広さは神様次第じゃないですか?」
あぁ…そこも俺次第なのか…
なぜかガブリエルが言ったことに納得し、俺は広さの概念について考えることにした。
この本の性能がどうかわからないが、例えば地球ほどの惑星と書いたらそれくらいになるのだろうか?
改めて疑問に思い、乱雑に…
“この惑星の広さは地球100個分”
と書いた。我ながら小学生みたいだと鼻で笑い、消しゴムを取り出す。そこで気が付いた。
これ消えなくないか?
俺は焦りつつ、ボールペンで書いたことを後悔しつつ修正液を筆箱の中から探す。
「どうかしたんですか?」
異変に気が付いたガブリエルが声をかけてくる。
俺は消すことを諦め、ガブリエルになんでもないと空笑いをするのだった。
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