第5話 天使創造2
ガブリエルと述べたその女の子は、ミカエルが初めて俺と会った時、同様に首を垂れたままこちらの言葉を待っていた。
「ガ…ガブリエル…?」
俺が不安な声を上げると、ミカエルは振り返り、ガブリエルと言ったその女のことを見つめ、ワナワナと震える。
「神様!どうしてこの女を創ったのですか!!」
ミカエルが、思ってもみない大声をいきなり上げた。
俺がびっくりし引いていると、ガブリエルがミカエルに対し、発言する。
「お前が、使えないから、オレが呼ばれたんだろ。胸だけしか取り柄のないアホエルが」
ガブリエルはミカエルに対し、そう挑発すると、顔を真っ赤にしたミカエルがガブリエルを指差しながら、俺のほうを向き声を荒げる。
「神様!私はこいつのことが大嫌いです!お願いです!こいつを今すぐ消し去ってください!!」
ちょっと優しそうな顔からは予想もつかないセリフがミカエルから発せられる。
この本の設定の効果は、思ったより絶大らしい。
「大声を出すなよびっくりするだろ…。まあ…ガブリエルを創ったことは偶然の産物だからあんまり気にするな。ぼーっとしてたら出来上がっただけだから」
「ぐっ…」
俺がミカエルを宥めるようにそう言うと、ガブリエルはどこからともなくダメージを受けたかのような顔を浮かべ胸を抑える。
「神様…オレのことはいらないと仰られるのですか…」
苦しそうな声で、胸を抑えるガブリエルに対し、ミカエルは機嫌が良くなったのか、調子に乗ったように挑発する。
「そう!お前は“偶然”創り上げられた存在!だからいらないのです!さっさと砂の藻屑にでもなりなさい。そしてこの世界に少しでも貢献しなさい!藻屑として」
「まあでもよくよく考えればミカエルも偶然の産物な気がしてきたな…」
俺の呟きをミカエルが聞くと、ミカエルの顔が引きつり、震えているのがわかる。
俺は何か2人の女の子に対し、とてつもなく失礼なことを言ってしまったことに気が付き、謝ろうと思わず座っていた椅子を立ち上がり弁解する。
「いや、嘘、嘘、2人共必要だったから!」
その俺の言葉に、安心したのか、2人揃って胸をなでおろす。
そんな2人に座るように促すと、ガブリエルも、ミカエルの横に腰かける。
(まあこれでこの本の力が再認識できたということであれば、これもまたよしだろう…)
俺は、生み出してしまった偶然の産物に後悔しないよう免罪符を作る。
ガブリエルのことを改めて見つめ、軽く咳払いをする。
「少し、確認したいことがある。ガブリエルにいくつか質問してもいいか?」
「はいっ!」
元気よく挨拶するガブリエルに、自分のたった今創りあげたキャラが生きているという感動を覚える。
(ミカエルの時にはそんなこと考える余裕あんまりなかったしなぁ…)
少しにやけそうになるが、その感情を振り払い、質問を続ける。
「えーっと、君はどこから来たの?」
「天界…?」
なんで疑問形なんだろうか…
確かに設定では天界とは書いたけど…
「じゃあ…身長は?」
「162㎝です!」
ガブリエルが気持ちよく答える。
さすがに元気っ子キャラと設定した甲斐があるな。
ちょっと楽しくなってくる。
「うーん…じゃあ君は何ができるのかな?」
「近距離戦闘。主に魔法槍を使った戦闘なら誰にも負けません!」
面接かな?
まあいいか続けよう。
「じゃあミカエルとの関係は?」
「……」
そう言ったことでガブリエルが黙ると、ミカエルのほうとちらっと見る。
ミカエルは黙りつつも、ガブリエルのことを威圧しているようだ。
「関係っていうか…なんか天使の仲間みたいな感じですかね。
…オレはこいつが天使っていうのを認めてませんけどね。このカスエルっていう天使はクソゴミカスビッチなので。」
そのガブリエルの回答に眉をぴくっとさせるミカエル。
今にも殴り掛かりそうな雰囲気を醸し出すが、俺がガブリエルに対し、重要なことをしているとわかっているのかミカエルはじっと堪えている。
「続けるよ…日本っていうワードや地球っていうワードに心当たりは?」
「神様が住んでいた場所です!」
「じゃあスリーサイズを教えてくれるかな?」
「はい!上から…」
うん。確かに俺が創ったガブリエルと相違ないな。元気で素直でいい子そうだ。
俺は本を閉じ、わかりやすく咳払いをすると、ガブリエルに、自分精一杯の格好いい声で言う。
「じゃあ、早速だけど…脱いでみようか」
「は…え…はい…」
少しもじもじし、恥ずかしそうにしながら胸の鎧に手をかけたガブリエルに対し、
俺は唾をごくりと飲み込む。
「神様?質問は終わりましたか?」
そんな俺を見かねて、ミカエルが笑いかけながら俺に声をかける。
あぁ…ミカエルいたんだ。いやわかってたけど。
少し怒っているのだろうか…童貞の俺にはよくわからない。
「ガブリエル、とりあえず服を脱ぐのはやめていい」
そう言わないと、ミカエルの機嫌が直りそうにない雰囲気を感じたので、思わずガブリエルを静止する。
まあこういうのは、夜にするのが定番だ。まだ日は出ている。焦ることはないのだ。
んんっと今度はミカエルが咳払いをし、俺に問う。
「神様、ガブリエルはさて置き、次は何をするのでしょうか?」
ミカエルが珍しく俺に対し発言をした。
これだけで、ガブリエルを創った価値があるだろう。
このまま柔らかくなってくれれば俺も気が楽になるんだが…
「うーん。とにかく、時間の概念がないなら創ってしまおうかなって思う。ちょっと待っててくれ」
俺は、本を開き、白紙のページに書き込んでいく。
時間の概念を絵で表すのは非常に困難なので、今回は文字のみで表現することにした。
「へー…そうやって書いていくものなんですねぇ」
ガブリエルが興味深そうに、俺が本に書き記しているのをまじまじと見つめる。
「ガブリエル、失礼ですよ。神様が作業している時に、まじまじと見てはなりません。それに声をかけるなど言語道断です」
「相変わらず硬いな、ゴミエル。だからお前は老け顔なんだよ。別にいいだろ。減るもんじゃないし…ですよね?神様」
こいつらは口が開けば、煽り合いだな…
まあ確かにミカエルは硬すぎるから俺も初期設定に反省しているんだが…
「別に見てもいいし、喋っててもいい。ただ絵を描くときは恥ずかしいから見ないでほしいかな…」
「だってよ。ドロエルさん」
ミカエルを挑発するようにガブリエルが精いっぱいの生意気ボイスでミカエルに言う。確かにその顔で言われたらムカつくかもしれないが、いきなりガブリエルにグーパンをかますのはやめようミカエルさん…
「顔はやめろよ…くそ…いてぇな…」
ミカエルに殴られたガブリエルは椅子から転げ落ち、殴られた頬っぺたを摩りながら嘆いている。
俺が作業をしている時に仲のいいことだ。
そのまま仲を深めていってほしい。しかし机が揺れるのは困る。
「あんまり机は揺らさないでほしい。ペンがぶれる」
ガブリエルが設定上、物凄く強い設定にしていたので、殴られたことに心配することもなくペンを走らせていた俺は、ページと睨めっこしながら呟く。
「し…失礼致しました!」
席を立ち、咄嗟に跪き俺に謝罪するミカエル。
こういうところが硬いんだよなぁ。まあこれはこれでいいけど…
「まあもう大体完成したからいいよ」
俺はそう言いつつ本を閉じる。
本に書いたことは、大体の日が暮れる時間と、朝になる時間、夜になる時間、日の暮れ方、季節、1日何時間あるかなどを書き込んでいた。
一作業終えた俺は、目を閉じほっと息を吐くと、目を開けた。
すると、辺りは暗くなり、ミカエルやガブリエルの顔がぼんやり見える程度になっていた。
「…明かりをつけようか…」
俺は、そう言い窓の外を見つめた。
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