2‐4「ダンジョンは危険がごろごろなのです」

ブルームダンジョン入口。

森の木々が囲む、地下への階段がそこにありました。


「よし、先頭は任せたぞ!」

「まあいいですけど。ちゃんと援護してくださいねー。」

「あたぼうよ!」


そう、自信満々に挑もうとしたその時です。

ダンジョンから冒険者パーティーが一組。何か刃物で傷つけられた状態で這い出てきたのです。

「なあ、ここに来たの間違いじゃないか」「激しく同意、さっさと帰ろう」とブツブツ言いながら、街の方へ逃げていきました。


「…シルルさん?見なかったことにして、さ__」

「『さっさと帰ろう』ですって?」

「いいえ!!なんでも?!」

この腰抜、ホントに恩返ししたいのか。覚悟が全く足りてないようですね。


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ところ変わってここはアクセルの街のギルド事務所。

私、「サナダ・チトセ」は、今日も暑い中お勤め中です。


「…あ、また書き間違えた。」

ため息をつく私に、セリカ先輩は冷たい水を差し入れる。

「チトセちゃん大丈夫?この席、風通し悪いから暑いでしょ?」

「うぅ…ありがとうございます…ちょっとボーっとしてますが、水飲んでるので倒れはしないかと。」


「そう、無理はしないでね。氷入ってるから、一気飲みしないでね。」

マジでセリカ先輩天使だなぁ…ありがたく頂くことにした。


「…ところで、最近新しいダンジョンが見つかったって聞いたけど…もしかしてチトセちゃん、その書類…」

セリカ先輩は私の机周辺…いや床にも山積みな書類を見て驚いていた。

「あー、そうなんですよ。」


そう、この仕事の八割は、全部同じダンジョンの報告書である。

新しく見つかった『ブルームダンジョン』という地下に伸びるダンジョン。そこはまだ探索も進んでおらず、情報も少ない。

故に、見つけた宝や貴重品、戦利品はギルドに申請すれば、自分のもの…なのだが。

「このダンジョンに潜ったパーティー全員、大量の品々を持ってくるわけでして…お陰で確認が追いつかないんですよ。」

「だから今日は早めに来てくれたのね…手伝おっか?」


「いいんですか?ありがたいです…私は少し休憩しても…?」

「勿論!チトセちゃんは頑張ってるから、ゆっくり休んでね。」

優しさが身に染みる。この人は人間界の女神なんじゃないか。

セリカ先輩にお礼を言い、休憩室へ転がり込む。


…そういえば、朝にどらどがダンジョンに行きたいとか…まさかブルームダンジョンじゃないよね。


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「_ふう。これで十体以上でしょうか?」

「えぇ…マジで疲れる。そろそろ宝の一つでも出てきてくれよー。」


ダンジョンに入って五分ちょっと。

どらどが望んでいたような宝の山なんてなく、モンスターばかりがゴロゴロと出てきて。早々に体力が削れてきてます。

「シルルぅ…。なんで俺らのパーティーって、回復役いないんだよ。」

「大半はあなたのせいですよ、どらど。今時紅魔族がいるパーティーなんて、ゴブリンが冒険者になっているようなものですって。」

「俺の顔面がゴブリンだって?!」

「んなこと言ってないです!!」


そもそも、紅魔族が人間の味方だったのはもう昔話の中だけで。

今は魔王に忠誠を誓う、完全に敵サイドの種族なのだから。そんなパーティーに入ろうとする物好きはいないようなものです。

…まあ、物好きのワタシが言えることじゃないですけども。


「ん?どうしたシルル。急に黙ったりして…まさか、俺に惚れてるとか…?」

「その妄想で埋まった脳みそを割ってみたいですねー。」

「やめろ!痛々しい…。うっ。」


そんな雑談をしている間にも、モンスターは絶え間なく襲ってきています。

「どらど、足引っ張らないでくださいね?」

「わーってる!そぉら、魔法陣起動!!」

どらどが発動した魔法陣から、頑丈な蔦がにゅっと生え、モンスターを捕縛しました。

この状態であれば、ワタシがとどめを刺しに行くだけで敵が倒れるのです。




「ふうっ…これ以上の戦闘は避けたいですね。流石にワタシも疲れてきました。」

モンスターを粗方片づけ、一息つきます。


「わ、わかった。帰ったら一番風呂を譲る。だから__」

「まあ!嬉しいですねー!どらどがそんな気遣いをしてくれるなんて!」

「好きなもの!何でも買うから!!お願いだから__」

「ありがとうございますー。で?」


「だから!!この紐を切ってくれよぉ!!!!」


どらどはあの後、トラップを踏んでしまったらしく、縄で引きずられていました。

その先にあるのが、犬のように口を開け閉めし、侵入者を食い殺す…。

まあ引きずる力は弱いので、ちょっとだけおちょくってみました。迷惑料です。


「はいはい、わかりましたよー。」

ワタシも鬼畜じゃないので、余裕を持って縄を切る。

「死ぬかと思ったぁ!!シルルコノヤロー!!」

「うふふ、さあ進みますよー。」

「謝れよぉ!!ちくしょー!!!」


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その昔。そう、原初の魔王の時代。

この世に神が産み落とした四つの神器。


太陽を貫く弓「イグニス」。

海を割る宝杖「トゥポーン」。

不治の傷を残す短剣「オロチ」。

そして…神の恩恵を受けた祝福の剣。


_その名を、「イシュタリア」。



「…このネームで呼ばれたの、いつぶりだっけ。」

そう、イシュタリアとは自分のこと。とは言っても、名前なんて覚えようとしなければ、今頃忘れていただろう。

このダンジョンに運び込まれ、それから何百年。一人で出来ることはなんだってやってみた。

…でも、この部屋から抜け出すことは叶わなかった。そして何より__。


「すっごく。暇デスネー…。」





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