2‐2「メイド兼クルセイダーの本気です」

「頼むよ!このクエスト、受けてみたいんだよ!」

「…いやそう言われても。私行けませんから。」


段々と暑くなってきた夏の朝。起きて早々にどらどに絡まれた。

どうやら私を「シルルが認める最強冒険者」と本気で思っているらしい。


「何でそこまで拒むんだよ!あ、もしかして…真の力を隠しているとか_」

「いやない。私はただのギルド職員『サナダ・チトセ』ですから。」

「そんな訳ないだろう?だってあのシルルが認めた冒険者じゃないか。」

だから違うって言っているだろう。もう七回くらい。


「とにかく、遅刻するのでドアの前からどいてください。」

「い・や・だ・ね!クエストに付き合ってくれるまで、動くものか!」

…見た目に反して、思った以上に小学生の頭をしてる。


「なら、こっちも手はあるんですよ?」

「ほう…やはり本気を隠していたか。いいだろう、見せてみろ!」


後悔するなら今のうちだっての。

私は息を大きく吸って…

「あー!どらどが私の出勤を邪魔してるー!このままじゃ遅刻するー!!」

大声でこう言った。


「…へっ、その程度の音波では、俺を倒すことは一兆年かかっても無理なんだよ___」

「どーらーど?なぁにやっているの?」

「ヒッ?!」

狙い通り。シルルが恐ろしい顔をして、どらどを睨み付ける。

そしたら、あたかも偶然を装って…。

「あ、シルル!ちょうどよかった!どらどをどかしてくれないかなぁ?」

「なるほどー。どらどはチトセさんを妨害していたんですねー?」

「いやちがっ…俺はクエストの付き添いを…。」


ふっ、決まったな。

「とりあえずー。ここからどきましょうかー?」

「く、首を、首がしまる…!待て待て、ぐるじい…!」

シルルはそのまま、どらどを連行していった。


…あっ、ヤバい。遅刻する!

私は急いで支度を済ませ、冒険者ギルドに出勤した。




「__でー、なんでまだ、チトセさんを『冒険者』だと勘違いを?」

「いや…だって、朝早いし。シルルが認めてるから、強いかなと。」

ワタシは今、どらどを説教しながら、チトセさんを出勤させまいとした動機を問い詰めています。


「違いますよー。あの人は、本当にギルド職員さんでー、ワタシは助けられたからこうしているだけですー。」

「…シルルが言うならそうなんだろうな。…悪かった。」

こう見えても、どらどは素直なんですよね。

まあこのことを言うのは三回目…寝たら忘れるんですかね。


「それでー、そのクエストってーどんなものですか?」

「…!シルル、一緒に行ってくれるのか?!」

「付き合わないとー『クリエイター』一人で行っちゃうでしょう?」

「あ、ありがとうシルルぅ!!!やっぱ持つべきは盟友だな!!」

ちなみに、『クリエイター』は後衛職なんです。罠を設置して敵を弱らせるのが得意でして…。

そんなクリエイターのどらどを一人で行かせては、流石に死んでしまいますからね。


どらどはウキウキしながら、クエストの内容を聞かせてくれました。

この街からそう遠くない場所に見つかった『ブルームダンジョン』の攻略。

ダンジョンで手に入れたものがそのまま、報酬として渡される…とのことです。


「__それでだな!そのダンジョンに『凄いお宝』があるらしいんだ!」

「んー?どんなものなんですー?」

「なんでも、『女神が宿った剣』がある…って噂で。」

なるほど。どらどはそれを取りに行きたい、ということですね。


「…で。その…毎日飯出してくれたりとか、装備の相談とかしてくれるしさ。…アイツの誕生日に、その剣をプレゼントしようかと。」

「ほー。やりたいことは分かりましたー。それじゃあ、行きましょうかー!」

「お、おう!!アイツが帰ってくる前に用意しないとな!!」


…どうやらチトセさんに、ワタシのクルセイダーとしての本気を見せる時が来たようです!




「…さーいしょーはグー。じゃーんけーん…ポン!

…よし、右手の勝利。やっと別々の手を出せるようになったわね。

はぁ…誰かワタクシのところに来て、封印を解いてくれないかしら?…いい加減一人じゃんけんも疲れてきましたの…。」

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