2‐1「どうやっても魚っぽい名前です」
私は「サナダ・チトセ」。この世界ではギルド職員として働いている。
女神様から、私は二段ベッドから落ちて亡くなったことを知らされ、今いる世界に転生させてもらうことになった。
頼まれた魔王討伐をするため、この街のギルドへ向かい、冒険者になろうと思った矢先。
受付のお姉さん…「セリカ・マンテル」先輩に、「冒険者よりギルド職員が向いている」…と言われてしまった。
開幕早々運がないなと思いつつ、ギルドで働いて一か月くらい過ぎた。
そんな中、魔王の手下である『第五災害のマジッククリエイター』がこの始まりの街に来襲。
自分が唯一持っていた強化スキル「フラウブレッシング」を使うことで、冒険者たちを強化、立ち向かう予定だった。
しかし冒険者たちが負傷する中で、私は彼らを信じ切ることは出来ず、スキルの発動条件を満たせずにいた。
そこで、獣人である彼女「シルル・ベルメール」と出会った。
彼女は魔王に忠誠を誓った種族『紅魔族』と一緒にいたことが原因で、
どれだけ負傷しても、回復魔法をかけて貰えることはなかったそう。
私は彼女を信じ、スキルの効果を与えることに成功。
その効果は絶大で…傷が完璧に回復するだけでなく、彼女はスキルの効果で、『マジッククリエイター』を一太刀で、
見事討伐をして見せたのだ。
それから、はや一年が経過した。
私は一軒家を買うことに成功…とは言っても、購入資金のほとんどはシルルが集めてくれた。恩返しだと本人は言う。
彼女はクルセイダーでありながら、大のメイド好き。
誰かに仕える方法は知り尽くしている…というか、ここまでする必要はないんじゃないか。別に私はお嬢様でもないわけだし。
シルルは私に向かって、こう答えた。
「チトセさんは、ワタシの恩人ですからー。まだまだ役に立ちますよー!」
…嬉しいけど。確かに嬉しいけど。なんだか無力感がある…。
「早速ですけどー。模様替えも済ませちゃいましたー!」
「家具買う余裕…あったんだね。」
「えへへー。この前のオーク討伐でガッポリでしたのでー!
…あ、ついでに地下も改装しましたよー?」
シルルは行動力の化身か。
家の中は、中古物件だったはずが、その面影がない程綺麗になっていた。
ソファーもフカフカ。暖炉も綺麗。
窓は輝き、個人の部屋も用意されていて…。
何よりこのベッド!横になると、あっという間に眠りにつけそうで__。
「あーっ!!やめろぉー!!許してくれ…いや許してくださーい!!!」
…うるさい。地下から誰かが叫ぶ声。
シルルは地下に行ったはず…いったい何をしているんだ…?
恐る恐る地下の階段を降りる。
その先には、看板が下げられた鉄の扉が。
「やめてくれぇーー!!間違えただけだって…って!それで切られたらシャレにならないって!!」
相変わらず、うるさい。
しかし…声はこの扉の奥から聞こえてくる。
そして看板には『♪お仕置き部屋♪』…。
震える手で、私は鉄の扉をゆっくりと開けた。
「あ、あの…シルルいますかー…。」
「…チトセさん。来ちゃいましたか。」
手前には刀を持ったシルル。
奥には…変なローブを着た男が、椅子に縛られていた。
「えっと…これは何をしていらっしゃるのでしょうか…シルルさん…。」
「紹介しますね。コイツは『どらど』。以前話した紅魔族です。」
なるほど。このアホそうな男がシルルの仲間か。
「お、お前がサナダ・チトセか!シルル…シルルさんの手紙にあった__」
「言葉はよく考えて発言してくださいね?どらどさん?『お前』なんて…そんな風に呼ばないでくださいよ?」
「だ、だから悪かったって!サキュバスの店に行ったのは確かな事実だが!間違って入ったことも事実で…!」
「まだそんな口を叩けたんですね。いい加減に自白したほうが、ワタシも楽に済みますよ?」
サキュバス…この世界にもいるんだな。
つまりこの『どらど』とかいうアホはシルルがいるにも関わらず、ああいう店に行ったのか。なるほど。そういう奴なのか。
「シルル。」
「えっと…何でしょうかチトセさん。」
「おお、まさか助けてくれるのかチトセ!ありがとう、ありが__」
「コイツ。後三日くらいはここに閉じ込めてもいいよ。シルル、できるだけサイレントでお願い。」
どらどの表情が石のように固まる。
「チトセさん…!はい!じゃあ口に縄を加えておきますね!」
「や、やめろぉー!ここに三日?!死ぬ、マジで死にかねない!!」
…私は鉄扉を閉め、自分の部屋に戻った。
すまないどらど。しかし、乙女の仲間なのにそんなことをするからいけないのだ。
そういえば…私のいた世界には「ドラド」っていう珍しい魚がいたなぁ。
アイツももしかしたら、紅魔族の中でも人間に友好的な、珍しい奴なのかもしれない。
それから三日が過ぎた。どらどは死んだ魚のような目で地下から出てきた。
「さて、改めて。ワタシの仲間の『クリエイター』。どらどです。」
「『クリエイター』…珍しいね。マイナー職って呼ばれてるけど…ホントにいたとは。」
「あー…あーー…。」
ゾンビのような声を出すどらどに、シルルは自己紹介を促す。
「…ハッ!お、俺の名はどらど!紅魔族のクリエイターにして、人類の英雄となる者っ!!
これから世話になるが…俺の戦闘力は無量大数!敵は全てぶっ飛ばしてやる!ふっ…よろしく!」
…中二病の域ではない。小学生みたいなかっこつけ方だ。
こんな奴が、これからここに住むのかと思うと。…かなり不安だ。
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