1‐3「魔王の部下を退けた英雄か」

「セリカ先輩…正面門に…いったい何がいるんですか!」

スティールカメラには、一人杖を持った冒険者だけが映っていた。

魔物の姿はどこにも見えない。

先輩は繰り返し集合命令を出すと、マイクを切って私に教えてくれた。


「チトセちゃん、アイツのオーラが見えないの?!」

「オーラ…見えません。もしかしてヤバいやつですか?」

「ヤバいやつよ!アイツは『マジッククリエイター』…魔王軍部下の『第五災害だいごさいがい』よ!」


魔王軍の部下で災害…聞いたことはある。

『闇のオーラをまと邪炎じゃえんの第五災害』。その名は『マジッククリエイター』。

紅魔族こうまぞくという魔王軍の直属種族にして、高度な魔法を容易く操る。

百年くらい前は人間に味方した、紅魔族の英雄がいたらしいが…今では人間に牙をむく集団。

その中で魔王に忠誠を誓った一人の女が『マジッククリエイター』と呼ばれている…と本で読んだことがある。


「そんな奴が…なんでこの始まりの街に?!」

「分からないわ。…でも、冒険者の力じゃないと、あんなのに太刀打ちできない…!」


「…サナダ・チトセ。ここにいるか。」

事務所に入ってきたのはギルマスだった。私を呼んでいる。

「はい、ここにいます。どうされましたか。」

「サナダ。君には今から正面門へ行き、君自身のスキルで冒険者の強化を頼みたい。」


…え。私が…戦えないのに、前線へ?強化って何?

そもそもそんなスキル持っているはずが…。

「…ギルマス!チトセちゃんは戦闘能力がほとんどありません。自分自身の身を守ることなど…!」

「しかしそれでなければ倒せない相手だ。…チトセ。行ってくれるか。」

「…そんな!チトセちゃん…!」


…正直言って、状況は分からない。

私は戦闘なんてできない。スキルなんて大したものではないのだろう。

でも。女神様から頼まれたこと、そして何より、信頼されている状況で…。


…断ったりなんかしたら、後々後悔する羽目になるかもしれない。

「…セリカ先輩。私は絶対に、先輩を悲しませることにはなりません。…行かせてください。」

「チトセ…ちゃん…。」


「…ギルマス。サナダ・チトセ。正面門へ行ってきます。」

すると、ギルマスは一枚のステータスカードを手渡してきた。

「これは、君が水晶に触れた時に現れたステータスだ。…無くすんじゃないぞ。」


そこには、他の冒険者よりも低い能力値と…

…スキル『フラウブレッシング』。使用者が心から信じた者全員に祝福を与える_絶大な強化を付与するスキルが記されていた。


私はギルドを出て、正面門へ走っていった。

街に響く爆発音。…早くたどり着かなくては。



正面門の近くには、傷を負った冒険者たちが回復魔法を受けていた。

「痛い」「熱い」。中には声すら上げることができない人たちも。

私が出来るのは、冒険者たちを信じること。…でも、傷ついた人たちが視界に入るたび、「もしかしたら」と最悪の想定をしてしまう。

それが原因で、スキルは発動したようには見えなかった。


「お願い…します。助けて…ください…。」

ふと横を見ると、獣人じゅうじんの冒険者が倒れていた。

彼女の羊のようなつのは折れ、体には無数のあざと傷が。

「…!待っていてください!直ぐにプリーストに…!」

「ごめんなさい…それ…無理なんです…。」


獣人は私を呼び止め、力なき声でこう言った。

「…私、紅魔族に会って…仲間として…扱って…。私は『魔王の手先』って言われて…何度も…優しかったって、言っても…。信じてくれなくて…。」

「…。」

「あなたなら、手当くらいはって…無理、ですよね。あなたも、きっと…他の人と同じこと__。」


…私は、彼女を抱きしめた。そんなことない。

「…あなたが魔王の手先なんて、思えない。だって、あなたは街のために、信じる者のために戦って、傷ついて…。

だから、私はあなたを信じる。私はそれしかできないけど、しかできないけれど__。」


すると、彼女はあわい光に包まれる。

体の傷はえて、焦げたよろいも再び輝き始めた。

彼女は立ち上がり、大きな剣を持つ。

「…ありがとうございます。元気いっぱいになって、これなら活躍できるかもです…!」



今のが…『フラウブレッシング』の効果__。

「『マジッククリエイター』。あなたはこのワタシ、『シルル・ベルメール』が討伐します!!」


信じた者に、祝福が与えられる__!

「あたしを倒す?さっき深手ふかでを負っていた、へっぽこクルセイダーが?」


彼女ならこの街を、冒険者たちも___!!

「半分正解ですね。私は傷を負っていました。…でも!」


「今のワタシはへっぽこでもひよっこでもありません!!」


「その剣の光…まさか!」


「覚悟してください…これは痛いですよ!!」




「『タウラスホーンストライク』!!!」





その日、私がスキルの力で、祝福を付与した彼女『シルル・ベルメール』は、

『マジッククリエイター』を見事に討伐。「曲角まがりつのの英雄」として話題となり…。


「…チトセさん!」

「シルル!話は聞いたよ!あの第五災害を討伐したって__」

「チートーセーさーん!!!」

「うわぁ!カウンター越しに抱き着かないでよ…!」

「えへへ…だってだってー、ワタシが『マジッククリエイター』を倒せたのはー!」


彼女は、私も信じていてくれた。

…ありがとう、フラウ様。

おかげで、彼女とも巡り合うことができました。


「チトセさんが信じてくれたから、この街を守れたんですからねー!」

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