鳰の嗤い声

 おうみノみかどそくがんねんは、とうさんせいこうていそうしょうがんねんたる。このぜんねんけんぽうねんあきがつとうろうしょうせきは、まノくに西せいへんようしょうであるしんじょうめ、たいぐんもっあつりょくけ、かいもんいてかんらくせしめ、ここにけいひつりょくいてまもらせると、そのまましんげきしてじゅうろくじょうをもくだした。

 かいがいからのじょうほうは、こうとさえすればみみはいるものである。

 しんじょうこうがいには、ほうとうせんこうかんじんしていたところに、なんこんつかわしたへいおそったが、せつじんけてこれをやぶった。かんすすんでこんせんいたり、高麗こまへいたたかってやぶれ、げたというのはせかけで、またじん高麗こまへいおうげきして、まんにんあまりをころしたとごうした。さらにしんげきしてみっつのしろとし、こくないじょうなんしょうぐんわせた。

 しらきノこにきしはすでにちょくめいけて、はちがつこんしんさんじゅうにんしょうぐんりょうしてみやこて、がつにはかんじょういたってまり、せきからのれんらくった。せきふゆじゅうがつびょうにょうじょうきたひゃくせまり、にんかんじょうってしょおくり、ごうりゅうやくした。しかしふゆはばかって、じゅういちがつにはかえし、せんきょしたところまもることにてっした。それで新羅しらきへいかえった。

 けてとしはるがつせきらはじょうめた。じんせんじょうち、さんぜんにんひきいてじょうこうがいけた。そのしょうらは、へいすくないとしてめたが、じんは、

へいかならずしもおおきをもとめず。もちかた如何いかんによらんのみ」

 とい、せんぽうとなってすすみ、てきじんんだ。じょうかんらくすると、そのいきじゅうじょうあまりがふうのぞんでこうふくした。

 こうしたせんきょうすいを、おおしまノむなかたノきみとくぜんや、によってることをおこたらない。ときにはみずかみなとかけてきゃくうこともあるし、そうでなくてもひとってなにつぬらせ、なにかあればすぐにつたえさせるようにしてある。

 なつろくがつとうゆうしょうりゅうじんこうていみことのりほうじて新羅しらき西にしみなといたり、しらきノこにきしおとうとにんもんつかわして、れいくしてこれをむかえた。こにきしあきしちがつにかけてたいぐんおこし、びょうにょうじょうかわせた。

 あきはちがつちゅうじゅんとうしょぐんかくしょうかさねて、ふたたびょうにょうじょうせまった。りょくじょういちばんやりけ、せきがこれにいで、しょしょうさしをしてほうかためた。

 このさいきんじょうせいを、おおし新羅しらき使しゃがつちゅうじゅんらいこうしたこんとうごんらによってった。とうごんらのらいは、ぬの綿わたかわなどをけたいということであった。これがぐんようきゅうするためのものであることは、だれわずともれたことである。

 おおしはこのことをやくってて、おおつノみやうまはしらせた。ことじゅうだいである。しらきノくにものわたせば、それはまノくにほろぼすたすけとなるかもしれないのだ。

 みかどばんしゅうあたたかなぎるのをしんで、ふねかべてゆうらんている。おおしかいがせてう。ぎょみんなどがちかかぬように、ほこかかげたふねふねとおきにまもって、ゆるゆるとうごいているなかに、おおしふねむ。なみしずかで、におおだやかにおよいでいる。

 みかどさかずきにしたまま、おおしむかえる。かまたりへいってはべっている。おおしとうごんのことをつたえると、みかどかまたりみみせる。

しらきノこにきしほりするところのままに、ものらせるべし。よろしくくばりをせよ」

 みかどなにかんがえるようせず、すぐにそうみことのりする。かまたりおうじて、はこぶためのふねけてやるのがのぞましいとうと、それもそのままに、そうせよ、とおおしめいじるのである。

 おおしにはあにかまたりいている。新羅しらきものれば、そのつぐないとしてきんぎんられる。れんねんかくぼくぎょうおこし、これからもまだおおきいじょうけんせつかんがえているあにには、そのようとなるものがしいのだ。ひとくにがどうなろうとったことではないのだ。

 おおしにはあにかまたりたいまんであったが、それはいてはらそこみ、たださかずきらせるというのをだけ退たいして、ふねかえさせた。


おもうにし あまりにしかば におどりの 足沾なづさいしを ひとけむかも


 どこかのせんどうがそんなうたうたっている。

 あきがつじゅうさんにちせきいっげつあまびょうにょうじょうかこみ、新羅しらきぐんごうりゅうしてせいげると、高麗こまノこにきしはいよいよきゅうはくして、なんせんらをじょうがいつかわして、しろはたかかげてこうふくうた。せきれいもってこれにせっしたが、なんこんはなおもんざしてまもりをかためていた。

 なんこんしんじょうというものたいしょうとしてぐんのことをゆだねていたが、しんじょうひそかにひとって、せきないおうすることをうた。のちいつして、しんじょうもんひらき、せきへいこえげ、つづみらしてにゅうじょうし、おうきゅうもんけ、ほのおほういた。なんこんさつしようとしてたせず、こにきしとともにらえられた。

 このことはふゆじゅうがつになって、しらきノくにからのれんらくによって、なにこくじゅんをしているとうごんつたえられ、とうごんはこれをおおしものしらせた。

 このときたって、おおしおおつノみやこてられた、

はまノうてな

 とばれるところにいた。これはみずうみいちぼうできるようにてられたたか殿どので、みかどようさえければここにさけいてたのしみ、このおとうとにもるようにけていた。おおししぶしぶながらかおし、ひるなかからにがさかずきめている。

よ、よ」

 とあにみずうみして、かれたようにう。

ちちうえははうえむつまじく、ふねかべてあそばすこと、あれにゆるべし」

 おおしおきても、におたからかに……といてつだけである。

にもさよう」

 とみかどげいごうするかまたりは、きさきでもないほどにぎょくたいっている。

 そこにひとて、おおしふみとどける。ただちにみかどにもそうじょうせねばならないことである。

みかど……、あにうえッ」

 とぶのもこえないのか、あにとうぜんみずうみを、いやみノくにをでもるもののように、

ちちうえ……ああ」

 となげいて、いにくずしたからだかまたりあずけている。なにをしているのか、くすでもれるのをはばかるものではないか……。

かまたり!」

 とおおしさけぶなり、ってさかさにち、ゆかてた。あっとおどろいてあにいちいをましたか、がってき、

「な、なんゆえありてかかまたりそこなわんとはするやッ」

 とこえふるわせていまにもおとうとりかからんとするところ、はっとかまたりなかはいって、

「このあやまところあらばこそおとうとぎみいかりたまうことあるべし。ねがわくばみかどまずこのかまたりつみせよ」

 とゆかひたいけてばつう。これをてウンとおおしいかりをみ、みかどげたうでろしたのであった。

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