王子の嫁取り

いとわしきかな、うじむすめたるや」

 なかノおおえノはそうって、かまたりいやだというまゆせる。あのおんなというのは、ちノいらつめというひめのことで、そのちちおやがノくらノやまだノいしかわノろノおみといい、いる鹿従兄弟いとこたる。

 このえんだんたのは、蝦夷えみしいる鹿おおおみを、如何どうしてつかというぼうなかであった。いしかわノというおとこは、いる鹿大臣おおおみぐだろうことをねたんでいるので、こちらにれて、ふたつにってしまおうというけいりゃくなのである。そのためにはまず婿むこしゅうととしてえんむすんでおき、さくぼうくわわることをなくさせようと、かまたりていあんした。

 だがそんなそんぶんおんななどは、そのうじせいりょくたのみとしてなにをするかれぬ、どうかするとくびでもかれぬでもなかろう、となかノおおうったえる。

 なかノおおえんだんげんわるくするのは、もうひとつのげんいんもあった。

やまとひめめとるべし」

 とははたからノからのさいそくに、なかノおおんでいる。

 やまとひめというのは、ふるひとノおおで、なかノおおにはめいたる。めいきさきにすることは、おうぞくだんにとって、でんとうてきいっしゅえいてんなのであった。ちちははとのかんけいもそうであり、おうけいしょうにはゆうじょうけんでもある。だからこれはなかノおおてんのうくらいそうぞくするけんみとめるというふくんでいる。しかしなかノおおとしては、そのけんちちからすでにあたえられているとおもっている。むしろやまとひめきさきとしてれれば、げてははじつじょうおうけんにぎったしょうにんすることになる。

 ははかえ使いつかつかわして、

やまとひめめとるべし」

 としきりにさいそくする。この使つかいにはよくおおしまノた。ると、かまたりにはいやける。

 おおしは、おとうととしてなかノおおささえるつもりであった。おさなころからあにしたい、やがてあにくにきみたるときには、われこそとなるべきと、そうしんじていた。それなのに、あにはこのおとうととおざけて、そのわりのようになかとみノむらじなどというものを、がわちかくにいつもいている。わるいのはかまたりというやつだ。あにたぶらかして、なにひそかにわるそうだんをしているらしい。

 如何どうにかして、あにをこちらにもどしたい、というおおしを、

けがらわしきこと、夷狄えびすならわしのごとし」

 となかノおおしつぼうさせる。めいけっこんするなどとは、どのしょもつひらいてみても、かいがいぶんめいこくにはおこなわれていず、むしろまれている。ぶんめいこくであるべきこのやまとノくににてもりうべからざることで、こんなならわしがつたえられているのは、あやまっていにしえぐもえきなどといわれたばんぞくから、れでもしたにちがいあるまい。いまこそはこのしつあらため、よごれたすじあらわねばならぬ、とうのである。

 使つかいのたびに、おおしむなしくかえみちあるいた。

 やまとひめを、とそれでもははかえさいそくをよこす。なかノおおはこうしてそとからけっこんはなしなどくのがいやになって、ぶんひくおんなおもいをけることであっぱくからのがれようとしている。

やか

 というが、なかノおおくちかられる。それはがノくによりうねとしておうしつけんじょうされたじょせいで、いまかるノみやつかえている。かるノあねなかわるおいあわれんで、そのしきやすりすることをゆるしている。そこでなかノおおやかめた。

 やかうたとどけてよ、となかノおおるようにかまたりおおせる。そのうたは、かまたりだいさくするのである。


はろはろに ことこゆる おちかたの あさきぎし とよもさず われしかど しまやぶはら


 みちあるきながら、このごろみみにしたぞくようからてきとうひろって、それらしくととのえる。こんなのは、ありげでさえあればい。どうせいをうねことわることなどないし、しゅじんとしてかるノよろしいとさええばむ。かるノうねひとしむようなひとではない。わからないうたでもかまうことはないのだ。

 かえしのうたうつもりで、くまでにつくっておく。


はろはろに こそかせよ おちかたに あさきぎし とよもさましかば おもてらまし いえらまし


 かまたりがこのうたってかえると、

やかおもわばかくはうたいけむや」

 なかノおおうたこころけとう。それもかまたりはもうかんがえてある。とおくのきじにまでかせなさいまし。そのときには貴方あなたなにものなるかをりましょう。そのがんは、がまずおおいなるのぞみをかなえたならば、そのもううけたまわりましょう、ということなのだとく。

やかがかくもうすならば、しのがたきこともえてせばや」

 となかノおおかまたりねらったとおり、ちノいらつめきさきとすることをしょうだくした。

 かまたりはまたなかだちをするために、こんいしかわノいえかう。いしかわノおうぞくえんくとなれば、ことわるはずもない。いる鹿よりゆうつこともるかもれないのである。

 いしかわノにはおんなふたあり、ちょうじょなかノおおがぐずっているあいだに、そのおとうとよめとなっていた。ちノいらつめじょであった。それでいしかわノちょうじょからげて、なかノおおけんじょうしようとしたが、かまたりかんがえでそれはやめさせた。かまたりちノいらつめしゅしょうにも、ぶんからあねわりにとつぐとったのだ、ということにして、なかノおおめあわせた。

 このとしうちに、なかノおおちノいらつめいちじょませた。あくとしには、もうひとはらた。こうなるともうえんはなすわけにはいかないであろう。

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