噂の膨らみ

いわに さるこめく こめだにも げてとおらせ 羚羊かまししおじ


 こんなうたを、わらべどもがうたいながら、みちあるいていたとう。かまは、このことを高市たけちいえやツこからいたので、げんてはいない。そのやツこも、きんじょものからつたえられたので、ぶんではていないとった。じっさいにはそれはやましろノおおまえのことで、けんきざしをむしらせて、わらべどものくちなぞかけのようにうたわせたと、うわさになっているらしい。

 うわさといえば、かまつくばなしもよくひろまっていた。しかもうわさにはいつも、ひれくものなのだ。あれからいつほどったゆうに、はしためひとがそののことをひとづていたと、かまはなした。聞説きくならく――


 ――やましろノおおたちは、げのびてすうじつこまやまかくれて、ものえないありさまであった。そこでともをするものわノきみふみというひとった。

「これよりやましろノくにふかくささときたまい、うましたまいてあづまノくにいたらば、たみしたまい、いくさおこかえりてたたかいたまえ。さすればちたまわむことはかならじ」

 やましろノおおこたえてった。なんじところのようにすれば、そのとおつであろうが、

「ただしわがこころねがわくは、とせたみどもをつかわじとちかいをてき。なんとしてわがひとゆえにて、ひとわずらわしめむや」

 またのちにあって、やましろノおおのためにほろぼされたとわれることをのぞまない。それにたたかってみだれるより、わがててもくにかためたほういではないか、と。

 そこにひとがあってやましろノおおたちをはるかにさんちゅうけ、もどってがノいる鹿かノおみにそのことをつたえた、とか。


 それが昨日きのうのことだというけれど、とそのまたあとりたそうなのこしをした。かまかいである。くちからまかせをしたことに、かっつづきがいてかえってくるとはおもしろい。はなしにげをけてやろう。またたきょぞうかぶ。

やましろノおおゆくきて、いる鹿かノおみおおきにじけること」

 とす。


 ――やましろノおおきているといて、いる鹿おおいにおそれた。そこでたかむくノおみくにおしというひとに、

すみやかにきてかのからるべし」

 として、こまやまかわせようとしたが、くにおし

てんのうみやまもつとめにて、えてにはでじ」

 とってうごかない。そこでいる鹿みずかいくさひきいてこうとしたときに、ふるひとノおおいきらせてけ、何処どこかうのかとうた。いる鹿つぶさじょうくと、ふるひとノおおは、

ねずみあなかくれてき、あなうしないてはぬと」

 となぞめいたことをった。いる鹿みずかるのを止めてほかひと遣っこまやまさぐらせた。しかしやましろノおおはもうかへったらしく、もとることはなかった。

 やましろノおおたちは、もうやまからかえって、ほうりゅうしゃとうにあった。いる鹿ものどももあとってほうりゅうかこんだ。ここにやましろノおおわノきみふみそとつかわしてみことのりし、われこそへいこしてたたかわばつにまっているのだが、

しかるにひとゆえによりてたみどもをやぶそこなわむことをほりせず。このゆえにわがひとつのもちいる鹿さす」

 とつたえさせると、きさきたちとともに、そろってくびくくってんだ。そのときそとでは、しゃとうりんより、くもみちしててんじょうとおり、びゃくだんかおりがふくいくただよって、しゅじゅてんにん姿すがたや、しゅじゅがくすがたあるいてき、くうかがやいた。

 ひとびとさんたんして、いる鹿よとしめすと、すべてはくろくもわった。それでいる鹿のみはなにることがなかった――。


 このけつまついて、やましろノおおげきは、くちからくちへとつたえられて、なかノおおえノみみにもはいった。なかノおおがくもんがあるだけに、出来できぎたはなしをそのままみにはしないとはいえ、おおすじいてしんじつあらわされているとかんがえたようであった。つまりやましろノおおにはせいとうゆうく、がノおみせんおうによるものであり、それをゆるしているははたからノせいにそもそものげんいんがあるにちがいないのだ。

なんじかまわれとともにおおしきはかりごとれ」

 なかノおおほうこうそうぼうひとって、かまふたきりになり、そうめいじた。がノおみはかつてかしきひめノみことと、いままたたからノと、ふたじょしゅささえ、そのうえやましろノおおとうなせた。これはおうもうとうたくたぐいであって、ほうっておけばくにほろぼすことになると、がくもんおしえている。がノおみつみし、ははには退しりぞいてもらわねばならない、とうのである。

われかくは、おおきなることをはかるには、たすけあるにはかずと」

 れいのためにひたいゆかけているかまあごけて、なかノおおおもてげさせる。せんえつなほどのちかさにかまかれている。じゅうはっさいうつくしいの、ほおあかさがす。

ねがわくはしきはかりごとべよ」

 というなかノおおこころざしを、かまりょうとしてれ、かるはずみにうごかず、ときつようにとさとした。


 このとしに、かま叔父おじくにかいし、もうひと叔父おじあらっていて、ちちだいにはひとくなった。よくねんしょうがつって、さんじゅういっさいになったかまは、せいしきなかとみノむらじこノかみくらいそうぞくした。

かまたり

 というをそのいわいとして、なかノおおかまおくった。あたえることで、ぶんのものにしたつもりなのだ。かまちちからけられたそのてて、ぶんかくとくしたものとして、なかノおおこうった。かまたりは、はじめてしんそのものになることがたようなおもいであった。

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