第27話
「すみませーん。薬を届けに来ましたー。」
教会に向かう途中、孤児院で見た馬車を見つけたシンクは並走しながら御者に来訪の理由を告げる。御者は驚き馬車を止めて中に居る人に説明を始めた。
ほどなくして馬車の中から先ほどの神父がシンクの前に姿を現した。
「これはこれは、わざわざ届けに来て頂いたのですか?」
「はい、お困りの様でしたので一刻も早くと思いお持ちしました。こちらになります。」
懐から出したと誤認させるように動いたシンクは、収納から魔王の体から作り出した薬を取り出す。それを見た神父は目に力を籠める様にした後に笑顔を浮かべた。
「・・・・本物の様ですね。疑ってしまって申し訳ない。」
「鑑定されたのですか?」
「えぇ、そのために私が派遣されましたので。」
神父の話によると、種族が変わってしまった聖女を治す薬に不備が在ってはいけないからと鑑定が出来る自分が指名されたのだという。
「それはお疲れ様です。ではこちらをどうぞ。」
「・・・・。どうでしょう?直接聖女様にお渡し頂けませんか?あの御方も直接感謝のお言葉を伝えたいと思うのですが・・・。どうでしょう?」
神父の提案に少し考えこむシンク。だが悩む程の事でも無いかと考えなおしその提案を承諾した。
「おぉ!!では馬車にお乗り下さい!!あの方も喜ばれると思います!!」
神父に促され馬車に乗り込むシンク。ほどなくして馬車は移動を始め教会までの道をすすみ始めた。
教会に到着するまでの間、シンクは神父からの質問攻撃を受けていた。生まれは何処か?今は何をしているのか?薬はどのようにして手に入れたのか?
シンクは勇者である事や前世の記憶持ち、元貴族である事等秘密にしている事をうまくぼかして当たり障りのない事にだけ答えていった。そうこうしているうちに教会に到着する。
「少々お待ち頂けますか?準備をしてまいります。」
「わかりました。」
教会の応接間で待つように言われたシンクは椅子に座りしばらく待つことになった。お茶とお菓子を出され、これはしばらく待たされるかな?と考えているとすぐに先ほどの神父が準備出来たと呼びに来る。
案内された先に居たのは白い髪に青い瞳をした女性だった。その首元と手には鱗が見ていてその色は濁った黒色をしていた。
「聖女様、こちらが薬を提供して頂いたシンク殿です。」
「お初にお目に掛かります。シンクと申します。この度は御身を回復させる薬をお持ちいたしました。」
「私はコルネと言います。聖女の役目を仰せつかった者です。此度の事感謝の念に堪えません。」
頭を下げるシンクに微笑みを返し、自身も頭を下げるコルネ。そんな様子を見た神父は早速とばかりに薬を聖女に渡すようにシンクに伝える。
「こちらが薬になります。」
「では早速・・・・。」
粉薬を飲みなれないという聖女にシンクは薬を飲ませる。その効果は絶大で先ほどまであった鱗が嘘のように消えた。
「ありがとうございます!!」
しばらく自分の手足を見ていた聖女が感極まったのかシンクの首に抱き着く。慌ててその体を支えようと体に手を回したシンク。
その瞬間に2つの事が起こった。
1つ、今まで2人の様子を見ていた神父がその服の中で魔道具を起動した。
2つ、聖女がシンクの体から離れる際に カチッ と言う何かが嵌る音がした。
しかしてその行動を起こした2人は、その表情を歪めそして笑い始める。
2人のそんな行動に目を白黒とさせ居たシンクは、自身の首に何かが取り付けられている事に気が付いた。
「これは・・・一体どういう事ですか?」
「フフフフ・・・・。それは“支配の首輪”と言います。かつて強大な力を持った魔物に言う事を聞かせる為、教会が神より賜った“神器”ですわ。」
「・・・。はぁ、残念ですが私はそのたぐいの物に対策していますよ?こんな物・・・・・。」
首に嵌った首輪を引き千切ろうとしたシンク。だが首輪は千切れる事は無かった。
「なっ!?なぜっ!!」
「それは私から説明したしましょう。」
意気揚々とシンクの前に立つ神父。その手には形容しがたい造形をした像が握られていた。
「こちらは“冒涜者の神像”と言いましてね?対象に掛かっているすべての守りを打ち砕く事が出来るのですよ。」
ニヤニヤとした笑みを隠す事をしない2人。ここに来てシンクは自身が何かの罠に嵌められたと確信した。
「なぜこの様な事を?」
「そうですね・・・。意識を消す前に教えて差し上げましょう。私たち教会は戦力として“勇者”が欲しかったのですよ。」
口元を隠しながらの聖女の答えにシンクは狼狽した。
「なぜ・・・その事を・・・。」
「我々の手の物が調べ上げ、そして先程の依頼で確認させていただきました。我々には人の職業を見抜く魔道具があります。それに闇の魔法と治癒の魔法を同時に仕える者は勇者以外に御座いませんから。」
今日受けた依頼は教会が裏で手を引いていた。その事実に驚き、さらには失敗したとシンクは思った。魔法に関しては独学で、ラブニエルも詳しい事を知らず。まさか使った魔法の種類で特定されるとは思っても居なかった。
「これで我々教会がこの世界を手に入れる事が出来ます。わざわざ我々の手の内に飛び込んで来て頂きありがとうございます。」
恭しく頭を下げる神父。しかしその言葉を聞くか聞かないかの刹那にシンクはこの場から逃亡を図る。
しかしいつの間にか聖女の握っていた杖の光を受けてその場で倒れ伏した。
「貴方様はすでに私の物です。さぁ明日から忙しくなりますよ?なぜならば“勇者”の覚醒の日であり、我々教会の威信が世界に轟く記念日なのですから。」
聖女のそんな言葉を聞きながら、再度杖からの光を受けてシンクは意識を失ってしまった。
一方、孤児院で子供達の世話をしていたグロウスは何か嫌な予感がして外に飛び出していた。
だがその予感が何によるものか分からず。ただただ胸の内に在る不安感と焦燥感に苛まれていた。
「っんだよ。落ち着かねぇなぁ。」
何処かイライラしながら星を見上げるグロウス。そしてふと、教会に薬を届けに行ったシンクの事が頭を過ぎった。
「・・・。まっ、あいつの事だ。心配ないだろ・・・・・・。心配無い・・・よな?」
そう呟きながら孤児院に戻り、子供達を寝かしつけるグロウス。最後に自分の部屋に戻り、イライラした気持ちを押し殺して眠りに付いた。
翌日、朝になっても戻って来ないシンクを探そうと孤児院の用事を済まして出かけようとしたグロウス。しかし門の外で大勢の人達が何やら騒いでいる事に気が付いた。
「んっ?なんかあったのか?」
走り回っている人はその顔に喜びの表情を浮かべて喜々として人々に何かを話している。それを聞いた人々もその表情に喜色を浮かべて喜ぶ。
「祭りかなんかか?」
遠くの方で パァーン!! パァーン!! と魔法で色鮮やかな火の華が咲いていた。
「確かあれは花火という物だったか?」
首を傾げながら門の外に出たグロウスの元に先ほど何かを言いまわっていた男が近寄って来た。
そしてその男が発した言葉にグロウスは驚愕する。
「なぁ聞いたか!!“勇者様”がとうとう見つかったぞ!!魔物に苦しむ我々を助ける為に立ち上がって下さった!!今日この街でお披露目があるらしいぞ!!なんたってこの街から勇者が生まれたんだ!!領主様も大々的にお披露目をするとのお達しだ!!」
「なんだとっ!?」
そんな事有るわけがない。あいつは今日15歳を迎えるこの日に一緒に旅立つと決めていたのだから。
権力に惑わされない様に一人のハンターとして活動すると約束していたのだから。
グロウスはそのお披露目が行われるという大通りに向かって慌てて走って行った。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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