第25話

森の中を掛けるシンクは鑑定で調べた場所に到着していた。


「居ない!?一体どこに・・・。」


常時鑑定を発動しているシンクの目に、地面に置かれていた檻の後と人の足跡が見える。


「こっちか!!」


足跡を追うシンク、そしてとうとう逃げるテイマーの背中を発見した。


「待て!!」

「ちっ、もう来やがった。」


黒いローブを纏ったテイマーの手には小さな檻が抱えられ、その中には子熊がぐったりとした様子で収まっている。


「その子を離せ!!」

「はっ!!魔物を助けようなんて酔狂な奴もいたもんだなぁ!!」


そう言いながら短剣を投げるテイマー。その刃は何かの液体で濡れている。シンクはそれを毒だと判断して即座に魔法ではじき返した。


頭上高くに飛んでいく短剣をみて舌打ちをするテイマー。その隙にシンクはテイマーの周りに風の壁を作りだし、動きを制限した。


「さぁその子を離すんだ。」

「それ以上近づくんじゃねぇ!!こいつを殺すぞ?」


懐からもう一本のナイフを取り出したテイマーは子熊の首筋にそのナイフを当てシンクを脅迫する。


「ぐっ・・・。」

「へっへっへっ、形勢逆転だなぁ。さぁこの壁もさっさと消してもらおうか?」

「・・・・。そうだね。もう必要ない。」

「なにっ!?」


シンクの言葉を受けて驚愕に目を見開くテイマー、何故なら持っていた檻がいつの間にかシンクの手の中にあった。


「なぜ!!」

「君が見ていたのは幻だよ。」


その言葉と同時にテイマーの前に立っていたシンクは煙の様に消え、そして檻を持ったシンクがテイマーの後ろから現れた。


「いやぁグロウスの鍛錬の為に闇魔法を上げといてよかったよ。」

「っ!?返せ!!」

「元々あなたのじゃないでしょ。」


檻を取り返そうと手を伸ばしたテイマーの体はいつの間にか黒い帯の様な物で拘束されていた。


「ぐぅっ!!」

「しばらく大人しくしていて下さい。」


シンクはテイマーを魔法で拘束したまま持ち上げ、グロウスの元に駆けだすのだった。


一方グロウスの方はと言うと。


「ガァウ!!」

「奥さんよ、そんな熱烈なキスされても俺答えられないんだわ。旦那が泣くよ?」


4本の腕を脇に抱えたまま、ブラッディベアに噛みつかれ続けていた。


「グゥゥゥゥゥ。」

「ほれ、意味が無いって解っただろ?大人しくしとけって、な?俺の相棒がガキ連れて来るまで大人しくしとけ。」


抱えた腕から爪が伸び、背中を突き刺そうとするが爪は通らず。牙も皮膚に刺さらずに止まるだけ、このままシンクが戻るまで膠着状態が続くかと思われたその時。森の中からグロウスに向けて一本の矢が飛び出して来た。


矢は狙いを外すことなくグロウスの頭に直撃した。ブラッディベアはこのチャンスに拘束から抜け出そうと力を入れる。だが抜け出す事は出来なかった。


なぜならば、矢が当たったはずのグロウスが一切動かず力を緩める事も無かったからである。


「んっ?なんか当たったか?」


しかも、攻撃されたことに気が付いていなかった。


「まぁ良いか、さてさてシンクは何時になったら戻るかね?」


その後も森の中から矢が何本も飛んできてグロウスの体を直撃するも、グロウスの“頑丈”な体を貫く事が出来ずに終わった。眼や耳等の人体の弱点を狙った攻撃でさえ通用しないのだから射手としてもたまったものでは無いだろう。


「さっきから鬱陶しいんだよ!!こんな攻撃通じるわけねぇだろうが!!」


森に向かって叫ぶグロウス、その声に反応したのかはわからないが今までと違った矢がグロウスに向かって撃ち出された。


その矢は何かに濡れているかの様に怪しい光を放っていた。それでもグロウスは動かなかった、何故なら彼に毒等は効果が無いからである。


正式なハンターとなってから最初に行ったのは各種状態異常に対する耐性の強化であった。盾であるグロウスが動けなくなればそれだけシンクの行動に支障が出る。


その為、市販されている者から魔物が分泌する毒まで全てをその身に受け。耐性を獲得していた。


だが敵の狙いはグロウスでは無かった。その矢はグロウスが拘束しているブラッディベアに命中し、その瞬間彼女の様子が急変した。


筋肉が盛り上がり、体毛が赤く染まる。口から出る涎の量が増し、目が真っ黒に染まった。


「GUAAAAAAA!!」

「ぬおっ!!」


突然今まで以上の力で腕を振りぬかれ、グロウスは拘束を解いてしまった。そして目の前から消えたブラッディベアが自分の後ろにいると感知した時にはすでにその身を吹き飛ばされ、木に激突していた。


ベキベキベキッ!!ズズーン!!


「GYUOOOOOOOOOOOO!!」


グロウスが激突し、その衝撃で折れた気が倒れるのを見たブラッディベアは勝利の雄叫びを上げる。


「あー、やられた。強化薬とか暴走薬とかそんな類か?しまったなぁ、俺じゃ解らん。あいつ早く戻って来ないかなぁ。」


しかし、土埃の中から声が聞こえじっとその声の主を見つめる。土埃が晴れるとそこには折れた木にもたれかかりながらも無傷なグロウスの姿が現れた。


その姿を確認してすぐに攻撃に移るブラッディベア、しかしその攻撃は先ほど体に直接攻撃を加えたのとは別の音を響かせながら弾かれてしまった。


ギィィィン!!


「まぁ付き合ってやるからちょっと落ち着けや。薬撃たれたから無理か。」


グロウスの腕にはいつの間にか、銀色に光る盾が握られていた。今彼はその盾を使ってブラッディベアの攻撃を防いだのである。


「GYUOOOOOOOOOO!!」


4本の腕を巧みに使いラッシュを繰り出す、だがそのことごとくをその“両手”にそれぞれ握った盾ではじき返すグロウス。


この盾はグロウスのスキルアーツが進化した物だった。


スキルアーツ <双盾>


小盾を両手に持ち運用するスキルアーツ。その強度はより上がり、金属製の盾を両手に生み出す。盾の性能は小盾の時の物を引き継ぐ。


「そらよっっと!!」

「GYAU!!」


ブラッディベアの右からの攻撃を盾ではじき、隙が出来た胴体に反対の盾で打撃を加える。それだけでベアの体は数メル後ろに下がった。


「しっかし使いにくいよなぁ。これなら籠手の方がまだ使いやすいぜ。」


そう言いながらも盾同士を打ち合わせ ガインッガインッ!! と音を立てるグロウス。


「さぁて、こっちはまだまだ余裕だが。そっちはどうかね?」


ベアに向かって挑発するように笑顔を向けるグロウスの前には、弾かれた衝撃で爪が砕けたブラッディベアが映っていた。


「GUOOOOOOOOOOO!!」

「まだまだやる気満々って感じだな。森ん中に余計なのも居るみたいだし。さっさと気絶させちまうか。」


四つん這いになり、腕と足に力を籠めるブラッディベア。それを正面から受け止める為、グロウスは盾を両方目の前に構えた。


「さぁ来いっ!!」

「GUOOOOOOOOO!!」


叫びながら突っ込んでくるベアに臆することなく盾を構え続けるグロウス。そして両者が激突するその瞬間、森からまた矢が放たれた。


グロウスを狙って放たれた矢は彼に当たる事は無かった。なぜならグロウスは突進してくるブラッディベアを前にしゃがみ込んだからだ。


矢が頭上を掠めていった事を音で確認したグロウスは目の前に迫ったブラッディベアの顎を盾で持ち上げる様に打ち貫く。地面すれすれに在った顔が持ち上げられ、さらには打撃による衝撃にブラッディベアはひっくり返った。


突進の衝撃によりその体は浮き上がり、空中にて3回転程下後地面に落ち脳震盪により気絶する事となった。


「ふぅ、何とかなったな。」


その言葉と同時にグロウスは森に向けて手に持っていた盾を両方投げる。別々の方向に飛んでいった盾は狙いを外すことなく目標に命中した。


「ぐっ!!」

「ぐえっ!?」

「見えてねぇと思ったのか?ハンター舐めんなよ?」


戻って来た盾を腕に嵌め直しながら、グロウスはそう呟く。そして相棒の進んで行った先に視線を向けてからブラッディベアの横に腰を下ろした。


「さてと、どれくらいで戻って来るかね?」


その声には相棒を心配する気持ちは微塵も感じられず、必ず戻って来ると確信している物だった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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