第23話
「うん!!やるー!!」
翌日、ニアにネルダの元で薬師の修行をしないかと言う話しをすると軽い感じで返事が返って来た。
ラブニエルはもう孤児院で生活できないかもしれない。皆と会えないかもしれないと考え付く限りニアが嫌がるであろう話をしたが、それでもニアはネルダの元で修行する事を選んだ。
「おばあちゃんがほんちょうのおばあちゃんになるでしゅ!!」
と目を輝かせて言うニアにラブニエルは肩を落として許可を出したのだった。
シンクとグロウスはニアを連れてネルダの店に向かう。
「しっかし院長も往生際が悪いよなぁ。」
「しょうがないよ、皆の親代わりだからね。子離れ出来てないんだよ。」
「それにしたってニアを脅す事ないだろうに。」
「にあね!!にあね!!おくすりちゅくってみんななおちゅの!!」
「そうだね、怪我や病気になったらお願いするよ。」
「うん!!」
2人に手を繋がれ楽しそうに歩くニア。そんな様子に2人は院長の引き留め工作は元から無駄だったなと確信した。
「でも本当に良いの?皆と離れ離れになって?」
「うん!!がんばゆ!!」
「ニアは偉いなぁ。まぁ同じ街に居るんだからいつでも会えるって。」
「うんっ!!(*^-^*)」
「あっ着いたよ2人共。」
ネルダの店に着いた2人は店に入りネルダを呼ぶ。すぐに店の奥からネルダが姿を現した。
「こんなにすぐ来るとは思わなかったよ。薬草はあったみたいだね。」
「その件でお願いがあって来ました。」
「ちょっとニアを弟子にしてくれねぇかなばーさん。」
「うん?詳しく話な。」
シンクとグロウスの話を聞いて顎が外れんばかりに驚くネルダ。当のニアはニコニコしながらネルダの事を見ていた。
「・・・・・・。本当なのかい?」
「一緒に畑の世話してる奴が確認してた。」
「雑草だと思ってたそうで、増え過ぎたら処理して捨てるつもりだったみたいです。」
「にあがふやしたんだよ!!」
「それが本当だったらほっとくのはまずいね。この子が酷使されるのも可哀そうだ・・・・。解った。本当に薬草の栽培が出来るのかの確認の為に少し預かるよ。もし本当だったら弟子にする。それでいいね?」
「はい!!よろしくお願いします!!」
「ニア良かったな。」
「うん!!」
栽培できるように鉢に土と一緒に採取してきた薬草を渡し、店の裏に植える事になった。細かい事はラブニエルと話をする事で決まった。
シンクとグロウスは植え替えを手伝い、ネルダの店の裏に簡易の薬草畑が出来た。その畑を作る為にシンクの魔法が活躍した事は言うまでもない。
「さて、シンクのおかげであっという間に畑が出来たね。」
「感謝しろよばーさん。」
「あのぅその見返りじゃないんですけど・・・。」
「なんだい?これだけ働いたんだ言ってみな。」
2人はネルダに調合に使う道具を貸して欲しい事。作るのは今王都や領主の元で流行っている奇病の治療薬になるかもしれない薬だとネルダに教えた。
「あんた達!!そんな事を簡単に教えるんじゃないよ!!」
「いやぁばーさんなら悪いようにしないかなって。なっ?」
「うん、いつもお世話になってるから大丈夫かなって。」
「いくら善人でもその信用を裏切る事もあるんだよ!!そこん所をしっかりと自覚しな!!あたしの所で良かったよ全く・・・。」
少し2人に説教したネルダは道具を貸す事を快諾。その調合方法を教える事で対価は必要ないとした。
許可が出た2人は早速と言う事で畑の傍に蛇魔王の体を出した。それを見たネルダは声も無く絶叫した。
「っ~~~~~~!?」
「こりぇなにぃ~?」
「あっこれは・・・・。」
「多分奇病の原因。下水で死んでるのを拾ったんだぜ。凄いだろ!!」
どんな言い訳をしようか言い淀んだシンクをすかさずフォローするグロウス。ネルダは目を白黒させながらもあの下水であればこれほどの魔物が居ても不思議では無いと納得した。
「でどうするんだい?」
「まずは解体だな!!」
「必要なのはこの魔物の肉なんです。」
2人はこれが蛇の魔王だという事は隠す事にした。ネルダの手も借りて解体を始める2人。頭はあの戦闘で粉々に吹き飛び無くなってしまったが。体だけでも相当な量の肉が確保出来た。
皮も2人分の鎧が作れる程取る事が出来、これは後日革職人の元に持っていくためにシンクが収納に入れた。
「次は何するんだ?」
「乾燥させて粉にするよ。」
「乾かすのかい?そうすると相当固くなりそうだね。」
「粉にするのは任せろ!!」
シンクの魔法により水分を全て抜かれた肉は赤黒く染まり、鉄の様に固くなった。その塊をグロウスが削り取り、握りつぶす。
グロウスの固さに負けた乾燥肉は容易く粉になり容器の中に積もって行った。
「シンクの魔法も凄いが、あんたも凄いね。」
「なんせ<頑丈>だからな!!固さなら負けねぇ!!」
「調子乗ってるといつか痛い目見るよ?」
「負けねぇように修行するさ!!」
肉を砕きながら会話を続ける2人。ネルダはニアを抱っこしたままそんな2人の様子を見守る。ニアは飽きたのかネルダの腕の中で眠ってしまった。
「よっしゃ全部粉になったぜ!!」
「それではネルダさん、道具借りますね。」
「あぁ、壊さないでおくれよ。」
シンクは蒸留機に手を伸ばした。これは容器に入った水を蒸発させて細い管に流し、管を冷やして結露させて成分を抽出する物だった。
井戸から汲んだ水を熱して冷却し、純水を作ったシンクはその水に粉になった魔王の肉を溶かす。水はみるみるうちに元の色からは想像できない程綺麗な黄色に染まっていった。
その染まった水を加熱、その横でグロウスに薬草をすり潰すように指示を出した。
加熱された水はゆっくりと水分を飛ばしてゼリーの様に固まってくる。そこにグロウスがすり潰した薬草を加えて捏ねる。
捏ねたゼリーは薬草の成分と反応してグミの様に固くなり手で丸められるようになった。グロウスとシンクは2人で親指程の量を手に取り丸めた。
途中起きて来たニアとネルダにも手伝って貰い、大量の丸薬が出来上がった。
「ふぅ~出来たな!!」
「できちゃ!!」
「こんな薬があったんだねぇ。これ一粒であの奇病が治るのかい?」
「たしか読んだ本によるとそうです。」
シンクは自分のスキルの事を隠す為に古本屋でかつてこの奇病の事が掛かれた本を立ち読みしたと説明していた。後日本屋に行くとその本はすでに売れていた事にした。
「材料の粉はまだありますから奇病がもっと広まっても問題無いです。」
「でも限度ってものがあるだろう?材料の確保が問題だね。その蛇はこの街の近くに居るのかい?」
「下水で運よく拾っただけなので・・・。」
「多分もういねぇぞ。下水で魔物の一掃依頼が終ったばっかりだからな。」
「探すのは無理か・・・。あんた達それを売る気はあるかい?」
ネルダの提案に驚いた2人。まだ作った薬に治療効果が有るかわからない状態で譲って欲しいと言われるとは思っていなかった。言われるとしても薬の効果が確認されてからと思っていたのだ。
「売るのは構いませんが・・・・。」
「いいのかばーさん?効果あるかわからねぇぞ?」
「そこは安心しな。これでも薬師やってんだ、薬の鑑定はお手の物だよ。この薬は確かに薬効がある。それがあの奇病に効くかまでははっきりしないが、何かの薬である事は間違いない。だったら買い取るのに問題は無いよ。」
顔を見合わせる2人。そして持っていても厄介事にしかならないと思った2人は売却する事に同意した。
「それじゃあ代金は後日払うって事でいいんだね?」
「えぇ、問題無いです。」
「貴族の連中からたっぷり搾り取ってから払って貰えばいいよ。」
「こらグロウス!!」
「分かったよ。それじゃあこの薬が売れたら代金は孤児院まで持って行く事にする。聞かれたら流れの薬師が作り方と一緒に置いて行ったと説明しとけばいいね?」
「お願いします。」
後の事はネルダに任せて2人は孤児院まで戻る事にした。ニアも一度孤児院に戻り、荷物を纏めて後日改めて薬屋に来ることになる。
金貨5枚は惜しいがその依頼を受けたせいで変に貴族に目を付けられる事を嫌ったシンクが、ネルダの手を借りてグロウスを説得。薬は見知らぬ薬師がふらっとネルダを訪ねて製法と一緒に置いて行った事にすると決まった。
「それでは後の事はお任せします。」
「ニアは院長が明日連れてくると思うぜ。」
「あぁ任せな。ニアも明日待ってるからね。」
「うん!!よろちくおねがいしまちゅ!!」
3人は孤児院まで仲良く手を繋いで戻って行くのだった。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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