第22話

急いで孤児院まで戻って来た2人はその足で林まで進む。林の中の訓練場まで来た2人は手分けして薬草を探し始めた。


「まさかこんな所に薬草があるなんてな。」

「まだ可能性の話でしょ?それに僕たちの訓練で吹き飛んでる場合だってあるんだから。」


2人が最初訓練をしていたのはこの林の孤児院寄りの場所だった。だが魔法の威力が上がり中心部にまで訓練する場所を広げていた。


何度か地面を吹き飛ばし、その都度シンクの魔法で修復していた。薬草が魔法で元に戻っていればいいがそうでなければ無くなった可能性は高い。


何せ薬草は人の手で栽培する事は出来ないとされる物だったからだ。過去に何人もの薬師が栽培に挑戦して挫折している。


必死で薬草を探す2人。訓練場の付近にはもちろん自生しておらず、そこまで大きくない林の隅々まで探したが見つからなかった。


「無いね・・・。」

「ねぇな・・・・。かぁ~~~やっちまったなぁ!!」

「薬草なんてすぐ買えると思ってたもんね。」


とぼとぼと孤児院に戻る2人。林から出て孤児院の畑まで来た2人は目の前に現れた物に驚いて声を上げた。


「「薬草っ!?」」


そこには青々と茂った薬草が畑の傍に沢山生えていたのだ。


「にいちゃんたちどうちたの~?」


そこに小さな桶に水を汲み、一生懸命運ぶ緑の髪の幼女が現れた。


「ニアちゃん?どうしたのそれ?」

「持ってやるよ、どこに持ってけばいいんだ?」

「えっちょね、えっちょね、おみじゅあげゆの!!」

「「水をあげる?」」


2人が頭に疑問符を浮かべている間にニアは桶をその場に置き、小さな手ですくって薬草に水を撒き始めた。


水を掛けられた薬草達は少し光ったかと思うと風に吹かれてそよそよと音を奏でる。そんな様子をニコニコしながらニアは水を掛けながら見つめていた。


「ニアはどうして水やってんだ?」

「えっちょね、えっちょね、おみじゅほしいってこえがきこえちゃの!!」

「それでお水をあげたの?」

「うん!!」


ニパッと笑うニア。そして驚くべきことを口にした。


「さいちょはね、ひとちゅだったんだよ?おみじゅあげたらふえたの!!」

「「なっなんだってぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~!!」」


薬草は栽培できない、そんな常識が1人の幼女によって覆された瞬間だった。


いつも畑の世話を担当している孤児のリーダーにニアの言う事が本当か確認を取り、それが事実だと判明した。(それが薬草だとリーダーも気が付いていなかった。)


2人はニアを連れて急いでラブニエルの所に報告に行く。2人の慌てた様子に不安になったニアが泣きそうな顔をしていた。


そんな様子を見たラブニエルはニアに何があったのかと鬼の形相で2人を問い詰めるのだった。


「・・・・と言うわけなんです。」

「俺達も驚いて慌てて来ちまったんだ。不安にさせてごめんな?」

「ぐすん・・・・。おみじゅ、あげちゃだめやの?」

「ニアや、良くお聞き。お前は今まで誰も出来なかった事をしたんじゃよ。2人はそれに驚いただけで、怒っているわけじゃないんじゃ。それよりもお水をあげた草たちを見に行ってもいいかの?」

「・・・・うん・・・・。」


シンクとグロウスを先に行かせ、ラブニエルはニアを抱っこして孤児院の畑に向かった。そして畑の傍に青々と茂る薬草を見たラブニエルはニアの頭を撫でながらやさしく語り掛けた。


「ニアは凄いのぉ~。これはな、薬草って言うんじゃ。」

「やくちょ~?」

「そうじゃよ。これはな、人の怪我を治す薬になるんじゃ。今まで沢山の人が薬草を増やそうと頑張ったがだれも出来なかったんじゃ。でもニアにはそれが出来た。これは凄い事じゃよ~。」

「にあね、おみじゅほしいってこえがきこえちゃの。だからおみじゅあげただけだよ?」

「そうかそうか、ニアは優しいのー。」


頭を撫でながらニコニコと笑顔をニアに向けるラブニエル。ニアはラブニエルの笑顔を見て元気を取り戻し、一緒にニコニコと笑い始めた。


そんな様子を見守っていた2人はニアに薬草を取って良いか声を掛けた。


「えっちょね、こりぇとこりぇはだめ。こっちならいいっちぇ!!」


ニアが薬草と会話をしているように指示を出した。2人はニアの言葉に従い採取していい薬草を取る。薬草は10本程取る事が出来た。


「さてニアはそろそろお昼寝の時間じゃろ?皆と一緒にお休みしておいで。」

「うん!!まちゃね!!」


ラブニエルの言葉に頷いた後、薬草に手を振ってニアは孤児院の中に戻って行った。


その場に残された3人はお互いに顔を見合わせ、院長室まで戻る。そしてこれからの事を話始めた。


「驚いたなぁ。まさかニアが薬草を栽培してるとは。」

「何かスキルを持ってるのかな?それともギフト?」

「それはわからんの。じゃがこのままではまずい事はたしかじゃ。」


スキルかギフトかは分からないがニアの能力は貴重だ。今まで出来なかった薬草の栽培が出来るとあっては権力者はその力を欲しがるに決まっている。


ニアも孤児の1人である為、身請けは出来る。だが行った先が幸せであるかは未知数。もし奴隷の様に薬草を育てるだけの人生では可哀そうだ。


秘密にしていたとしても子供の口は軽い。何かの拍子にぽろっと広まってしまう可能性もあった。薬草の存在を教えてしまった事をラブニエルは後悔した。


頭を抱えるラブニエル。そんな様子を見た2人の頭にはある人物が浮かんでいた。


「なぁ院長。薬師の婆さんって確かかなり偉い人だったよな?」

「うん?ネルダ様の事か?あぁ薬師ギルドの長をしていた事もある人じゃ。今は隠居してこの街で薬屋をやっておるが、その伝手はまだあるはずじゃ・・・・。それがどうしたのじゃ?」

「何か思いついたのグロウス?」

「確か前に聞いたんだよ。薬師の弟子って確か師匠が身請けして一人前になるまで面倒見るんだろ?で貴族であろうと王様だろうと薬師の秘伝知ろうとしちゃいけねぇから手が出せねぇって。」


グロウスはかつてネルダから聞いた話を思い出していた。


昔ある薬師の秘伝を奪い、その利権を独占しようとした王が居た。王は自分に仕える貴族に命令を出し、その薬師を幽閉してしまった。


その事に怒った薬師はその皮を脱ぎ、本性を現した。それは魔女と呼ばれる厄災の表れだった。


薬は毒にもなる。薬師達は一致団結し王と戦った。都には病が蔓延し、都市機能が完全に止まってしまった。


多くの市民もその犠牲になるが、魔女達の訴えに賛同した者は助けられ味方をどんどん増やしていった。


その病が王の身内にまで及ぶと、魔女達は王に選択を迫った。薬師の解放か王国の滅亡か選べと。その時すでに国民の8割は魔女達の味方だった。


王は薬師の解放を約束し、それ以降薬師の秘伝を独占する事を禁止した。その話は諸国に伝わり各国は調査に乗り出した。そして他の国の薬師も同じ力が在る事が判明した。


その力に恐怖し魔女狩りを行う国もあったが、薬師が迫害されるたびに薬師が魔女に代わり国を滅亡まで追いやった。その後、薬師たちと協定が結ばれ国からの要請には極力答えるが、自由を約束する事を義務付ける事になった。


「だからさ、ニアをばーさんの所に修行に出せばと思ったんだ。薬草が増やせるなら感謝されるだろうし、元ギルド長の弟子になれば変な薬師は簡単に手が出せなくなるだろ?国も貴族も元々手がだせねぇしさ。」

「むぅ、じゃがまだニアは3歳じゃぞ。」

「だから良いんじゃねぇか。今からなら婆さんの娘になっても問題はねぇ。魔女は寿命長いみたいだしな。将来的にも安定するしよ。」

「娘は無理があると思うよ?でも僕も賛成かな。このままだと絶対権力者に狙われるだろうからね。」

「しかしじゃなぁ・・・・。」


煮え切らないラブニエルを説得する2人。その後も話し合いを続け、明日ニアの意思を確認した後にネルダの元に行き詳しい話をするという事で決着がついた。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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