第21話
下水でのペンダント捜索依頼の後、グロウスとシンクは正式にハンターギルドのハンターに・・・・なれなかった。
そもそも今回の依頼はハンターになる為の試験では無く、唯の遺失物の捜索依頼。実績としては薄い。
又依頼人が失踪した為、目的のペンダントを渡せていない事から実績として見なされなかった。(捜索自体は成功している為、依頼料は支払われた。)
2人はハンター見習いとしての活動を続ける事になった。
あれから半年、2人は今日も街中での依頼を受ける為にギルドに顔を出す。ギルドは相変わらず賑わい、併設している酒場では多くの人が酒を飲み交わしていた。
その中で気になる話題を話している者達が居た。
「なぁ聞いたか?」
「なんだよ?」
「王都に奇病が蔓延してるって話だよ。」
「あぁ領主様の所でも出たらしいぞそれ。」
「マジかよ!!」
「この前依頼で薬の材料届けに行ったんだよ。そこで説明された。娘さんに鱗が生えたんだってさ。」
「一緒だな。」
「あぁ、それで珍しい薬草や薬が見つかったら持って来て欲しいとお願いされた。報酬は金貨5枚だとよ。」
「ヒュ~♪太っ腹だねぇ。」
「ただし成功報酬な?病気が治ったらって話だ。依頼としても出てるぞ。」
男が指さす先には依頼が張り出される場所があり、そこには話に出て来た依頼票が貼られていた。
「まっ、受けたいなら受ければいいだろ。おそらく無駄だが。」
「どうしてだ?」
「エルフの万能薬も効かなかったらしい。」
「そりゃ無理だ。」
そこでその話題は終わったのか男達は別の話に移って行った。そんな会話を聞いていたグロウスは顎に手を当てて何かを考えていた。
「どうしたの?」
「さっきの話を聞いたろ?」
「奇病の事?」
「あれってさ、お前が言ってた蛇人になったって話じゃねぇの?」
「あっ!?」
グロウスの言葉に驚いた顔をするシンク。
「確かにそうだね。」
「で魔王の体はこっちにあるわけだ。」
さらに何かを考えこむグロウス。シンクはそんなグロウスの様子を見て、言いたいことを理解した。
「魔王の体から薬を作れないかって事?」
「加護を与えていた本人の体だろ?何とかなりそうじゃないか?」
2人は下水で打ち勝った魔王の体をまだ持っていた。院長であるラブニエルには包み隠さず報告したが、ギルドには報告していない。
それは報告を忘れていたというのもあるがラブニエルに止められたからだ。
この世界で魔王を倒せるのは勇者だけと伝わっている。弱っていたとしても魔王を倒したとなれば教会から使者が来て、勇者は強制的に教会所属になってしまう。
まだ子供のシンクが勇者として酷使される事をよしとしないラブニエルは、しばらく隠すように2人に言い含めた。
2人はお世話になっている院長に迷惑を掛けると思い、報告しなかったのだ。その為、魔王の体は換金する事が出来ずにまだシンクの収納の中にある。
「それに、金貨5枚も貰えたら孤児院の修理終わるんじゃないか?それに訓練場も作って貰えそうだろ?」
「たしかに・・・。」
あの日からも訓練を続けている2人。その成果もあってかシンクの魔法の威力は格段に向上して孤児院の裏の林を半分消失させるまでになっていた。
そしてある日、やり過ぎてしまい孤児院の一部が崩壊、2人には訓練禁止令が出されてしまった。
2人は壊してしまった孤児院の修理に必要なお金を稼ぐ為、ずっとギルドで仕事を受け続けている。
金貨1枚でもあれば孤児院の修理は終わり、残りで訓練場を作って貰い訓練を再開する。2人はそんな未来を考えてしまった。
「ちょっと方法探してみるね。」
「おー、よろしく。」
遠い目をして酒場の席に座るシンク、グロウスは席代として2人分のジュースを頼み一緒に座った。
それからしばらくの時間が流れた。グロウスのジュースはすでに空になり、新たに注文した物を飲んでいる。
その時シンクの目の焦点が合い戻って来た事を知らせた。
「おっやっと戻って来た。」
「お待たせ。方法が分かったよ。」
目の前に置かれたジュースを口に運びながらシンクはそう言った。
「で、俺達でも出来そうか?」
「うん。でも薬草が必要みたい。後は魔王の体があればなんとかなるよ。」
「薬草かぁ。買うしかねぇかな?」
「取りに行ければ良いんだけどねぇ。」
薬草は回復薬の素材となるとてもありふれた物だ。草木が生えている場所に自生し、繁殖力も高い。
しかしその場所は魔物の領域、人の子供がおいそれと行くことの出来ない場所だった。
「とりあえず婆さんの所に行くか。」
「そうだね。」
2人は薬草を求めて薬屋に行くことにして、ハンターギルドを出た。
薬屋にたどり着いた2人。木造の平屋で軒先には薬草と思われる物が干してあり独特の匂いを放っていた。
「ばーさーん、ちょっと相談があるんだけどーーーー!!」
「うるさいね!!聞こえてるよ!!」
あけ放たれていた玄関を潜り、大声で中に話しかけるグロウス。その言葉に対して不機嫌な声が返ってくる。
そして店の奥から杖を突き、ローブを被った老婆がその姿を現した。背筋はピンとしており、その手は節くれだっている物の震える事無く杖を掴んでいる。
「なんだ、あんた達かい。」
「お久しぶりです。」
「ばーさん久しぶり!!」
「今度は誰が体調崩したんだい?とっても苦い薬を用意してやるよ?」
ニヤリと顔を歪ませる老婆。孤児院ではこの薬屋に時たまお世話になっており、2人もお使いでちょくちょく来ている。
この薬屋の薬は苦い事が有名で、孤児院では体調を崩すとその薬を飲まされる事から孤児達は体調管理にかなり気を配っている。
「あっ今回はそう言う事じゃなくて。」
「薬草あるか?」
「薬草だって?はぁ・・・あんた達もかい・・・・。」
溜息を吐き、肩を落とす老婆。その姿に2人は疑問符を浮かべる。
「何かあったんですか?」
「領主様の依頼は知ってるね?」
「ギルドに張り出されてる奴だろ?」
2人の言葉に頷く老婆。そして続きを口にする。
「その奇病を抑える為に薬草を大量によこせと命令が来たんだよ。」
「効果はあったんですか?」
「そんな事は知らないね。何せ偉そうな役人が命令書を持って来ただけだからね。」
忌々しそうにその事を思い出しながら話す老婆。そして2人に対しては申し訳なさそうな顔をした。
「薬草は全部持ってかれちまってね。だから今薬草は無いんだよ。」
「えっじゃあ薬はどうなるんですか?」
「そうだぜ、それだとばーさん薬作れねぇじゃねぇか。」
「病の薬は別の薬草だから作れるよ。ただ怪我を治す薬がね・・・・。」
(´Д`)ハァ…とまた溜息を吐く老婆。
「だから怪我をしたんなら申し訳ないが、しばらく薬は出来ないよ。」
「そっか薬草無いのか・・・・。」
「どうする?グロウス?」
「どうするったってなぁ・・・・。」
落胆する2人、そんな2人に老婆はそう言えばと2人の顔を眺める。
「あんた達の孤児院の裏に林があったろう?」
「えぇありますね。」
「あるぜ!俺たちの遊び場だ!!」
「あそこは元々外にあった場所でね。街を拡張する際に飲み込まれるように残った場所なんだよ。そこなら薬草が生えていても不思議じゃないね。」
老婆の言葉に顔を見合わせる2人。孤児院の林は人があまり訪れる事は無く、可能性は十分あった。だが同時にその可能性が潰えている事に思い至り冷や汗を掻く2人。
「どうしたんだい?」
「いや、なんでもねぇよ。」
「えぇ、なんでもないです。貴重な情報ありがとうございました。」
急いで薬屋を後にする2人、そんな2人の後ろから老婆の声が聞こえた。
「もし薬草があったら少し分けておくれ!!代金は払うからね!!」
「分かりました!!」
「あったら持ってくるぜ!!」
手を振りながら2人はいつも訓練をしていた林に向かって走り始めた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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