第19話

依頼は取り消されているかもしれないが、一応報告する事にした2人。いつも仕事を斡旋してくれる受付嬢だった事もあり、スムーズに依頼のペンダントを受付に渡して依頼達成を伝える。


「・・・・・。確認いたしました。こちらが報酬です。」


受付から差し出される銀貨3枚、それを受け取りながらも2人は受付に確認をする。


「依頼主さんはどうしました?」

「お2人を送り出した後戻ってこないとギルドに伝えに来られましたよ?依頼失敗の手続きをして欲しいとお願いされましたが、確認が必要な為保留にしていました。依頼失敗の手続きには1週間の待機時間と遺体又はギルド証の持ち込みが必要だと伝えるとまた来ると言って出ていかれました。その後は見ていませんね。」


受付嬢の言葉に「やっぱりか。」と納得する2人。そんな時2人にさらに衝撃的な情報が伝えられる。


「しかしよくご無事でしたね?下水では現在ハンター襲撃事件が連続して起きていて危険地帯になって居るんですよ?」

「それ本当か?」

「襲われたハンターはどうなったんですか?」


受付の言葉に詳しい情報が欲しいと質問する2人。


「3日程前に一人の男性ハンターが下水で襲われる事件があったんです。男性に怪我はありませんでしたが、突然眠らされて意識を失ったそうです。その後も下水に向かったハンター達が一定の場所で睡魔に襲われ倒れるという事が続出しました。現在下水は調査の為に立ち入り禁止なんです。」


受付の言葉に頭を捻る2人、自分達が出てきた時はそんな事は起こっていなかった。


「俺達が出てきたときはそんな事なかったけどなぁ。」

「本当ですか?なにか変わった物を見つけたりしませんでした?」


その言葉に考え込む2人、そして「あれか?」とグロウスが言葉を漏らしてしまった。


「何か発見されたのですね?」

「んっ?いやあそこにダン「わーわーわーわー!!」突然どうしたんだよシンク。」


突然大声を出したシンクに訝しげな顔を向けるグロウス。受付も何事かと注目している。


「いやぁ思い出した事があって!!僕たちが帰って来る時に黒い影が下水から飛び出して空を飛んでいったのが見えたから!!」

「そんなの居たか?」

「居たの!!」


必死で何かを誤魔化そうとするシンク、そしてシンクはグロウスの首を抱え込み耳元で内緒話を始める。


「ダンジョンの事は秘密にしとこう。」

「どうしてだよ?言っておいた方が良いんじゃないか?」

「下手にダンジョンの存在を伝えちゃうと攻略の為にハンターが大量に向かう事になるよ?今は大人しいあのスライムさんも攻撃されたら反撃しないわけにも行かないでしょ?」

「あ~、それで<魔物暴走>起こされたら堪らないってか。」

「そう言う事。」


内緒話を続ける2人に受付が声を掛ける。


「どうされました?その影の情報を詳しくお聞きしたいのですが?」

「あー今その影の事を2人で思い出してたんだ。」

「翼がある人の様な形だったよ!!」

「後は分からねぇな、一瞬の事だったし。」


必死に言葉を繋げる2人、受付嬢はその情報を紙に書き留めていた為2人の表情を見る事は無かった。もし見ていたら冷や汗を流し、目が泳ぎまくっている事に気が付いたかもしれない。


「ではこの情報はギルドマスターにお伝えしてもよろしいですか?」

「一度ちゃんと調査したほうが良いと思います!!」

「見間違えかもしれないしな!!」


肩を組み引き攣った笑顔を浮かべる2人。そんな様子に気が付かず受付嬢は頷いて了承の意を伝えた。


「では下水調査をしているハンターにそれとなく情報を伝えるようにしましょう。ではお疲れ様でした。」


頭を下げる受付の元を離れ。2人は孤児院までの道のりをゆっくりと歩き始めた。


「しっかし大変だったなぁ。」

「本当だね。でも依頼が取り消されていなくて良かったよ。」

「これであいつらに腹いっぱい食わせてやれるな!!」

「そんなにすぐ使っちゃったら駄目だよ。これからの事もあるんだし。」

「わかってるって。」


そう言いながら今回の報酬を使って食料を買い込む2人。持ちきれない分はシンクの収納に入れて、さらに服や生活に必要な物を買い込み孤児院に戻った。


「「ただいまぁ~。」」


のんきに入り口から入った2人。そんな2人を見た手伝い最中の孤児がしばらくその動きを止めた後に大声を上げた。


「シン兄とロス兄が帰って来たぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その声に孤児達がわらわらと玄関に集まる。その様子に戸惑う2人。


「えっと・・・ただいま。」

「帰って来たぞー。」


戸惑いながらも再度帰って来た事を報告する2人の元にこけそうになりながらも飛び込む影が見えた。


その影に押しつぶされ倒れる2人、しかし当の本人は気にすることも無く力一杯2人を抱きしめた。


「よくぞ・・・・。よくぞ無事に帰って来た・・・。」

「「院長・・・。」」


涙を流しながらもう離さないという風に強く、強く抱きしめるラブニエル。そんな院長の様子に2人は落ち着かせるように手を当てる。


「ほら院長僕達は帰って来ましたよ。」

「無事だから安心しろって。足もちゃんと付いてる。」

「そうじゃ!!怪我はしておらんのか!!」


思い出したかの様に2人の体を調べるラブニエル、そんな様子に苦笑しながらも怪我はしていない事を伝えた。


「これ報酬な。」

「食料も買ってきましたよ。」

「はぁ・・・・、まったくお前達は・・・。心配して損した気分じゃ。」


涙をぬぐいながら2人を解放して立ち上がるラブニエル。そして子供達を解散させた後、2人を院長室まで連れて行った。


2人を椅子に座らせた後、ラブニエルも対面に座る。


「さて事情を聞かせて貰おうかの?」

「そう言えば護衛に付けてくれた人はどうなったんですか?」

「一切見なかったよな?」

「あぁ、ギルドで話は聞かなかったか?下水で襲われ寝ておった様じゃよ。その所為でお前達の安否が不明になってしもうた・・・。犯人も分からずじまいじゃ。」

「あぁその話か。」

「一番最初の被害者だったんですね。」


護衛の姿を見なかった為、どうしたのかと思っていた2人。ここでその真相がわかり頷きながら納得した。そしてラブニエルからの視線で次はこちらの番だと解り話始めた。


下水の中に入った事、ダンジョンがあった事、魔王と遭遇しそれを倒した事、ダンジョンの主が変わり安全になった事。最初隠すつもりだったが、親代わりであり信頼出来るラブニエルならと全てを隠さずに話した。


話を聴いた後頭を抱えるラブニエル。そしておもむろに立ち上がった後、2人に拳骨を落とした。


「あれほど危ない事はするなと釘を刺したじゃろうが!!」


ガンッ!!コンッ!!


「痛いっ!!」

「ぬあっ!!」


頭を抱えて俯くシンク、そして腕を抑えながら床を転がるラブニエル。その中でグロウスだけは平気な顔をして座っていた。


「なんちゅう固さじゃ・・・。腕が砕けるかと思ったわ・・。」

「へっへっへ、俺は頑丈だからな!!」

「ずるいよグロウス・・・。」


その後グロウスは危険な事をした罰として孤児院のトイレ掃除一週間を言い渡される。シンクは鉄拳制裁を受けた為に免除とされた。


「ずるいよなぁ。」

「トイレ掃除の方がましだと思うよ。」


今だ頭をさすりながら涙目のシンクがそうグロウスに愚痴った。


その後は本当に無事で良かったと泣き始めるラブニエルを慰め。買って来た食料で帰還記念パーティーを行った。


ラブニエルは久しぶりの酒に酔いしれ、孤児たちもお腹いっぱいご飯を食べる事が出来た。その後は服やおもちゃを配りパーティーは大盛況のうちに幕を下ろした。片づけを終えた2人は自分の部屋に戻る。


「無事に帰って来れて良かったな。」

「そうだね。」

「でもこれからだよな?」

「うん、今のままじゃ駄目だね。」


2人は蛇魔王と対峙した事を思い出す。最初その威圧で動けなくなり、途中何度も命の危機があった。楽に倒したように見えるが、自分達の持ち得る最高の攻撃力を持つキャノンボールアタックが効かなければもう打つ手が無かった。


今回は運が良かっただけ。


2人の頭にはずっとその考えが浮かんでいた。


「よしっ!!明日からも訓練頑張るぞ!!」

「僕ももっといろんな魔法を使える様になるぞ!!」


2人は明日からも自身を鍛え続けると誓い眠りに付くのだった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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