第18話
視界を覆う白い光が収まり、2人は以前に見た蛇の紋章があり配管が無数に飲み込まれている入り口に立っていた。
「やっともどって来れたぜ!!」
「後は戻るだけだね。」
「ピギィッ!!」
「「えっ!?」」
やっとダンジョンから脱出し、戻るだけという所で聞こえるはずの無い声が聞こえて驚く2人。そしてシンクの服が波打ち、その中から一匹のスライムが飛び出して来た。
「あちゃー、付いて来ちまったのか。」
「そうみたい。でもどうして着いて来たの?」
「ピーギ!!ピギッ!!」
「なんだって?」
「一緒に冒険したいから連れてって!!だって。」
「俺達まだ街の外の依頼受けられないんだが?」
スライムの言葉に頭を悩ませる2人。そんな2人の様子を感じ取ったのかスライムはシンクの体に取り付き動き始める。
「ピギッ!!ピギィッ!!」
「ちょ!!くすぐったいってば!!やめっ・・・うひひひひひっ。」
「何してんだ?」
しばらくシンクの体中を這い回ったスライムは、一仕事終えたとでもいう様に汗を拭う仕草をしながら地面に降りる。
「ピギッ、ピーギッ。ピギィッ!!」
「えっと・・・・。マーキングしたからどこに居ても分かる?大人になったら迎えに来てくれ。だって。」
「良いんじゃね?正式にハンターになったら外に出る事もあるだろうし、スライムが付いて来るってんなら色々便利だろ。」
「テイムしてる人も居るくらいだしね。あっ!!・・・・・・・・。<テイム>スキル覚えた・・・・。」
突然スキルが増えたことに驚くシンク、そんなシンクを見ながらグロウスは腕を組み頷く。
「こりゃこいつを連れてけって神様の思し召しじゃねぇかな?」
「有り得そうだから怖いんだけど・・・・。でも貰ったものはしょうがないかぁ。僕らが成人したら迎えに来るって事で良いんだね?」
「ピギッ!!」
「分かった。それじゃあそれまではこの場所で自分を鍛えておいてね。<テイム>!!」
シンクがスキルを発動すると、光が体から溢れスライムに注がれていく。スライムに注がれた光はある量に達すると輝きを増し、吸い込まれるように消えていった。
「終わったか?」
「うん、これでこの子は僕の従魔になったよ。」
「ピギッ!!ピギュッ。」
「よろしくね。」
これからよろしくと言う様に体を跳ねさせるスライム。そんなスライムをシンクは笑顔で歓迎した。
「名前決めてやらねぇとな。」
「もう決めてるよ!!君はスラ太郎だ!!」
「ぷっ!!」「ぴぎゅ~。」
グロウスの言葉に考えていた名前を発表するシンク。しかしそのネーミングセンスはあまり良くない様だ。グロウスは吹き出し、スライムは体を溶かすように地面に広げた。
「あれ?ダメかな?」
「お前、スラ太郎はねぇだろ・・・。嫌がってんじゃねぇか。」
「ぴぎゅぅ。」
「良い名前だと思うんだけどなスラ太郎・・・。」
グロウスに駄目だしされスライムからも不機嫌な鳴き声を貰い落ち込むシンク。そんなシンクにグロウスは助け船を出す。
「雫見たいな奴だからティアで良いんじゃないか?ティアドロップって言うだろ?」
「ピギュッ!!」
「え~。」
グロウスの提案に「それだ!!」とでもいう様に嬉しそうに飛び跳ねるスライム。シンクは不満そうだが本人が喜んでいる為名前はティアに決まった。
「それじゃあティア。あと4年掛かると思うけど待っててね。」
「俺の事もちゃんと覚えとけよ。じゃあな。」
「ピ~ギュ!!ピギュッ!!」
将来の約束を交わし、2人を見送るティア。2人は手を振りながら地上を目指して移動を開始したのだった。
それからの移動はとても速い物だった。ダンジョン内部で過ごして来た2人にとって防衛用の罠等簡単に避ける事が出来、足場の悪い地形を歩く術も学んでいた。
「ふぅ、結構楽なもんだな。」
「ダンジョンの中で過ごしてたからね。楽に思っても仕方ないよ。」
「おっ地上だ!!」
「久しぶりの太陽だ!!」
地上に出た2人はその体いっぱいに日の光を浴び、久しぶりに見る太陽に目を細めながらもすぐにハンターギルドに報告に向かう。
ハンターギルドはいつものように賑わっており、併設されている酒場では仕事終わりのハンター達が酒を酌み交わしていた。そんな中気になる会話が聞こえ、2人はカウンターに向かう列に並び聞き耳を立てる。
「しっかし街中でラミアが出るとわなぁ。」
「お前まだ言ってんのかよ。」
「一昨日の事だからな、しっかしあのラミアは別嬪さんだったなぁ。」
「止めとけ止めとけ、魔物だから食いちぎられて終わりだぞ。」
「従魔にして囲い込んでる貴族も居るって聞いたぞ?」
「そりゃ<テイム>スキル持ってる奴だけだ。諦めな。そのラミアもすぐに討伐されただろ?」
「そうだな。」
ハンター2人の会話はすぐに別の話題に移って行った。2人は今聞いた話に着いて考える。
「なぁ、今の話聞いたか?」
「うん聞いた。街中に突然魔物が出る何ておかしいよね?」
なぜそのような事にと頭を捻るシンク、しかしグロウスは心当たりがあるのか真剣な顔で話を続ける。
「それって依頼を出したあの姉ちゃんじゃねぇか?」
「そんな馬鹿な!?」
突然大声を出したシンクに注目が集まる。自分が視線を集めていると解ったシンクは頭を下げて謝罪をした後、グロウスに静かに問いかける。
「どうしてそう思ったの?」
「蛇の魔王が言ってたろ?加護を取り上げるって、それってつまり呪いも掛けられるって事じゃねぇかと思ってな。調べてみろよ。」
「うん、ちょっと待ってね・・・・。」
グロウスの提案を受け入れアカシックレコードと鑑定を使い調べ物をするシンク。この時鑑定の熟練度が上がっておりより詳しく情報を引き出す事に成功する。
「あちゃ~。」
「どうだった?」
「グロウスの予想は半分正解。」
「もう半分は?」
「呪いじゃなくて元に戻っただけみたい。」
シンクの話によると、魔王の加護を受けた血族と言うのは昔テイムされたラミアの一族だった。
ラミアの一族はその当時、このあたりを領地としていた貴族の男にテイムされ過ごしていた。
その男はラミア一族を丁寧に扱い、一族の中から男に心底惚れる者が現れた。
そんな中、街の整備の為に作っていた地下下水道の一部がダンジョンと繋がってしまう。貴族の男は領主として慎重に今後の検討をしていたが、一部の建築業者が暴走してダンジョンを処理槽として改造してしまった。
それに怒った当時魔王では無かった蛇のダンジョンマスターは地上に出て暴れた。数多くの人を喰らい、魔王となった蛇は暴れ続けた。
領主は何とか話合いで解決できないかと使者を送ったが相手にされず、最後には自分自身で魔王の目の前に立つ事にした。
話合いで決着がつかなければ勇者に魔王の討伐を依頼する事を残った者に伝え、魔王の前に立つ領主。
しかし魔王は領主の傍らに居たラミアに目を奪われたのだ。そして話し合いに応じる事になった。
魔王からの要求はその「マリア」と呼ばれていたラミアだった。しかしすでに恋仲となっていた領主がそれに反対、マリアも自分が行くことは出来ないと魔王に断りを入れる。
すでに2人の子供が生まれつつあり、愛し合っている2人は離れたく無かった。断られた魔王はこのまま暴れ続けてやろうと2人を脅した。
そして領主とラミアの2人は泣く泣く娘が成人すれば魔王に差し出す事を約束した。ラミアの子供は生まれてくると性別が全て女になると決まっていた。
その約束の代わりに魔王はラミア達に加護を与え人の姿にした。ラミアと恋仲になっていた領主は他の貴族からも毛嫌いされ、王から貴族としての権限を剥奪されそうになっていたのだ。
2人はその後正式に人として結ばれ、今日に至るまでその血族が続いたという。
「つまりその加護が消えたから・・・・。」
「人じゃなくなったって。依頼を出した彼女、先祖返りで一番ラミアの血が濃かったみたい。姿までラミアに戻って討伐されちゃったんだ。」
「他の人はどうなったんだ?」
「人との混血が進んでたから蛇人っていう種類になったみたい。」
「そりゃ騒ぎになってそうだな。」
「確実にね。」
「次の方どうぞ。」
話をしているとあっという間に自分達の番になった。2人は報告の為に受付まで進んだ。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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