第17話

「ふぅ、ひどい目に合ったぜ。だがこれであとはあそこから外に出るだけだな。」


埋まった壁からスポッっと抜け、体に着いたホコリを払いながら立ち上がるグロウス。その後天井の景色を見ながらそう呟いた。


「そうだね、さっさと外に出ちゃおうか。」


シンクが魔法を使い脱出を図ろうとしたその時、天井に開いていた穴が急速に縮まり始めた。


「ちょっ!!おい急げシンク!!穴が塞がっちまう!!」

「そんな急に言われても!!さっきの戦闘で体内魔素をほとんど使っちゃって・・・。あぁ!!間に合わない!!」


あたふたする2人の目の前で天井に開いていた穴は塞がり、石造りで作られた天井がその姿を現した。


「一体全体どうしたってんだよ・・・・。」


グロウス達は知らなかったが、この場に居た蛇魔王がその約定を守りながらも外の景色を見たいが為にダンジョンの天井を破壊してその維持に力を使い続けていた。


さらに魔王の強さとはその場にある魔素の汚染を持って強さに変えるが、蛇魔王は暴れないという約定の為にそれも出来ず、かなり弱体化していたのだ。


そんな中現れた2人が弱っていた蛇魔王を倒してしまい。天井の大穴の維持に使っていた力が消失。ダンジョンの自己修復能力が復活して塞がってしまった。


「どうしよう・・・・。」

「そう言えばスライムはどこ行った!?あいつに案内させれば・・・。」

「ピギッ!!」


いつの間にかどこかに隠れていたスライムが姿を現し、体を左右に振る。あたかも自分はここから帰る道等知らないとでもいう様に。


「駄目みたいだな・・・。」

「奥に進む道は無いから、来た道を戻る事になるね。」

「「(´Д`)ハァ…」」


溜息を吐く2人。


「とりあえず行くか。」

「あっ倒した魔王は収納に入れておくね。」

「ペンダントも忘れるなよ。」

「わかってるって!!」


シンクの収納に蛇魔王の残った体とペンダントを収納した後、来た道を戻る2人。床の引き摺った後が蛇魔王の移動した後だと気が付き、その後を追う。その先に出口があると信じて。


だがここからが長かった。激しく入り組んだ配管に通路。蛇魔王が勝手に掘ったであろう穴も見つけ、その穴を拡張しようにもダンジョンの壁としてすでに認識されているのか壊した傍からすぐに修復してしまった。


幸い水はシンクの魔法で作り出せる。食事も徘徊している鼠を捕り、焼いて食べた。いくつか収納に入れていた食料もあった為、何とか食つなぐことが出来ている。


変化の無い道を進み始めて2日、2人は光輝く結晶が浮いている部屋にたどり着いていた。


「なぁこれってコアか?」

「ちょっと待ってね。<鑑定>・・・・・・・。そうみたいだ。えっと『下水ダンジョンのコア』?状態は・・・・。新たなダンジョン管理者の選定中?」


ダンジョンコアを鑑定して状態を確認するシンク。鑑定結果を無意識に呟いておりそれを聞いたグロウスも現状を一緒に確認する。


「ダンジョン管理者の選定ってぇのは俺達でもいいのかね?」

「んっとね、駄目みたい。今このダンジョンに居る生き物で一番強い生き物を選ぶんだって。で選ばれた管理者が過ごしやすい環境に変えて生まれる魔物も偏るみたい。」


それを聞いたグロウスは首を傾げる。


「でも俺達蛇の魔物を見てないよな?」

「魔王がコアの力を独り占めする為に魔物の発生を止めてたみたいだよ。<アカシックレコード>が教えてくれた。」


シンクの言葉に納得して頷くグロウス。そして次第に冷や汗を掻き始めた。


「なぁそれってやばくね?下手な奴がコアのマスターになったら・・・。」

「<魔物暴走>が起きるね・・・・。」


沈黙する2人、そして光り輝くコアを見つめてからゴクリと唾を飲み込む。


「どうなるかわからねぇけど壊すしかないんじゃないか?」

「僕もそう思うんだけど、壊しちゃうと下水がどうなるか分からないんだよね。」

「<魔物暴走>よりはマシだろ?」


そんな2人の会話を知ってか知らずか、突然コアから強烈な光が発せられた。その光は現在いる部屋を明るく照らし、目も開けられない程になる。


「まぶしっ!?」

「一体なんだ!?」


光から逃れる様に目元を隠しながら2人は輝くコアを注視する。そしてコアの光が収まると、自分達が居る場所がいつの間にかあの巨大なスライムが居る地底湖になっていた。


「一体全体どうなってんだこりゃ?」

「・・・。管理者の設定完了?当該生物がコアルームに入れない為、コアルームを当該生物のいる環境に設定した。だって。」

「なんでもありかよ・・・。」


突然現れた2人に周りに居たスライム達が驚き、ピチョンピチョンと近づいて来る。そして地底湖がまた形を変えあの巨大なスライムが現れた。


『人の子よ、どうして戻って来たのじゃ?』

「あっやっぱりここはあの地底湖か。」

「どうやら飛ばされちゃったみたいだね。良かったのか悪かったのか・・・・。」

『どういう事じゃ????』


グロウス達は巨大スライム、クイムに事情を説明した。


『なるほど、ダンジョン管理者が倒されたと。』

「一応対話をしようとしたのですが・・・。」

「奴さん聞く耳もちゃしなかったぜ。」

『仕方ないのう。本来魔王とは生きとし生ける物の敵じゃからな。良く無事に戻ってこれたの。』

「死にかけたけどな!!」

「倒した後の方が大変でした・・・。」


話が終わるのを待っていたのか、コアから一筋の光がクイムに向かって飛びその体に命中する。


「ちょ大丈夫か!?」

「スライムさん!!」


2人は今だクイムの名前を知らないが、それでも親切にしてくれたこのスライムの事を心配した。


『心配など不要じゃ。どうやらダンジョンの管理に必要な情報を送っている様じゃの。』

「って事はつまり?」

「スライムさんが管理者に選ばれたの?」

『どうやらその様じゃ。』


目の前のスライムが無事だとしってほっとする2人。そして光は物の数秒で収まり、コアは鈍く輝くだけになった。


『・・・・なるほど。』

「えっと・・・・何がなるほど何ですか?」


光が収まり納得しているスライムにシンクが問いかける。


『ダンジョンの管理方法が分かった。2人を入り口まで送る事も可能になったのう。』

「「本当(か!!)ですか!?」」

『あぁ、もちろんじゃ。』


地上への帰還に一筋の光明が見え喜ぶ2人。持ち込んだ食料はすでに無く、ただ鼠を焼き食べる事にも苦痛を感じ始めていた。


「早速お願いしても良いですか!?」

「そろそろ地上に戻らないと院長が怖えんだよ。」

『構わんよ。』


スライムが了承を伝え、体を震わせると2人の足元に光り輝く魔法陣が現れた。


『転移陣を稼働させたのじゃ。これでダンジョンの入り口まで瞬時に戻る事が出来る。』

「サンキューな!!」

「スライムさんはどうするんです?ダンジョンの管理者になって。」


シンクの言葉にスライムは体を揺らし笑いながら答える。


『わらわかえ?そうじゃのう・・・。スライムダンジョンにでもして下水を常に綺麗に維持するのも面白そうじゃ。眷属も増えるしの。』

「それいいな。でも俺たちの小遣い稼ぎの場が無くなるのはなぁ。」

『なぁに、人の手が届いておらん場所に限定すれば良かろう。』


自分の小遣い稼ぎの場が無くなる事を心配するグロウスに、クイムは笑い続けながら人の手の入っていない場所に限定すると伝える。グロウスの横に居るシンクはおずおずとクイムに聞かなければならない事を問いかけた。


「<魔物暴走>を起こしたりとかは・・・・・。」

『安心するが良い。その様な事はせぬ。まっ信じられんとは思うがの。』

「俺は信じるぜ!!」

「どうして?」

「勘!!」

『あっはっはっはっは、人が全てお主の様であったらこの世は住みやすくなろうな!!』

「もう、グロウスってば考え無しなんだから・・・。」


グロウスの言葉にため息を吐くシンク、しかし現状このスライムの言葉を信じるしか無い。なぜならばスライムが<魔物暴走>を起こそうとしても止めること等出来ないのだから。


『まぁ安心するが良い。街には迷惑は掛けんよ。さてそろそろ送ろう。』

「・・・その言葉を信じます。」

「じゃよろしく頼むな!!」

『任された。』


2人は体に浮遊感を覚え、次の瞬間には光に包まれその場から消え去っていた。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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