第12話
グロウスの視界は今、水中に居ると錯覚を起こすような状態になっていた。
最初は勢いに飲まれ体が流されそうになった、だがシンクの魔法により足元を固定されていたおかげで倒れる事も無く耐えられた。
顔の周りに結界を張ってくれたのか呼吸も問題はない。
青く透明な粘体にまとわりつかれ、服はすでに溶かされてしまった。皮膚も溶かされていて痛みを常に与えてくる。
だが徐々に酸の耐性を獲得しているのかその速度は遅くなっている。
グロウスは態勢を整えた後、さっそく暴れ始めた。
スライムには火の他にもう一つ弱点がある、それは核と呼ばれる場所を破壊する事。しかしその核は体色と全く同じ色をしていて見分ける事は困難な物だった。
だがスライムの体内に入り込んでいる今の状態では簡単に核を探すことが出来る。
{これだっ!!}
手を振り回し、固いものに当たった瞬間にそれを引き抜き砕く。砕かれたスライムは体を維持することが出来ずに地面の染みとなった。
いまだに流れ続けるスライム達の核をどんどん破壊していく。維持のために魔素を送ってくれているのか足元と顔の魔法が切れる様子はない。
グロウスは手当たり次第にスライムを倒し続けていった。
シンクは自身で張った結界の中でグロウスに施した魔法の維持に努めていた。
氷の壁が壊された後、押し寄せたスライムに飲み込まれた親友の姿を見て諦めそうになった。だが次の瞬間にはスライムの透明な体の奥に人影が映り、そして動き始めたのを見て奮起した。
彼を死なせてはいけない。
自身が掛けた魔法が途切れれば体は大丈夫でも窒息して死んでしまう。足の固定が外れればどこかに流されて分断されてしまうかもしれない。
だからこそ、範囲が狭まったお陰で余裕が出来た魔素を使い維持に努めた。スライム達がグロウスに群がっていてこちらにあまり来ない事も影響している。
今なら火の魔法と風の魔法を使い安全に駆除できるが、これだけのスライムを一斉に処理するとなれば友も一緒に吹き飛ばしてしまう。
シンクはグロウスがスライムをある程度減らしてくれるのを待っていた。
グロウスの暴れっぷりが良かったのか。シンクの忍耐勝ちだったのか。スライム達の数が徐々に減って来た。
シンクの元に流れてくるスライムが居なくなり。グロウスに纏わりついていたスライム達の数も減り、飲み込まれていた顔が見え始めた。
「グロウス!あとは魔法で処理するよ!!」
「( ´∀`)bグッ!」
口から下はまだ飲み込まれたままのグロウスは言葉が届かない事を考慮してグッドサインで返事をした。
その合図を見たシンクは即座に火と風魔法を発動した。風の魔法で生きるのに必要な空気を確保しながら手から炎を吹き出しスライムを焼いたのだ。
しかしここで誤算があった。シンクの体から溢れる空気を手から出る炎が飲み込んだ。炎はあっという間に大きくなり通路を飲み込んでしまったのだ。
「あっ!?」
命の危機と親友の安否、その両方に気を取られていたシンクは威力の調整をミスっていた。
慌てて魔法を止めると、スライム達は軒並み蒸発しており。通路の先に顔以外は真っ黒になっているグロウスの姿が見えた。
「やり過ぎだ馬鹿野郎!!」
「ごめん・・・・。」
グロウスに怒られ、謝りながらも回復するシンク。黒く焦げていた体は元通りになり全裸の状態で仁王立ちするグロウスがそこに現れた。
「とりあえず回復サンキューな、あと服くれ。」
「ぷっ!!くくっ!!どうぞっ!!ププッ!!」
全裸でも堂々としているグロウスの姿がツボに嵌ったのかシンクは笑っていた。どうにかこらえようとしているが出来ていない。
「笑ってんじゃねぇよ!!めちゃくちゃ痛いし熱かったんだぞ!!」
「ごめんごめん、あまりにも情けない姿なのに堂々としてるから。ププッ!!」
「それが命を懸けた親友に掛ける言葉かよっ!!」
「あだだだだだだ!!辞めて辞めて!!」
グロウスのグリグリ攻撃を受けて謝罪するシンク。謝罪を受けてグロウスはやっと服を着始めた。
身なりを整えた後、2人はこれからの事を話し始める。
「でどうするよ。」
「まぁ先に進むしかないよね。」
通路の先を見据える2人。水音はすでにせず、床にはスライムの核が大量に散らばっていた。
「一応これは拾って行こうか。」
「金になるしな。しっかしどれだけいたんだ?」
「グロウスが砕いた分は分からないけど、100匹以上は確実だね。」
こうしてスライムの核を全て回収した後、2人はシンクの光魔法の明かりを頼りに歩き始めた。
2人は慎重に通路を進んでいた。一本道の様で迷う事も無く進めている。周囲の警戒をしながらな為歩みは遅いが、安全には変えられない。
時折天井や壁からスライムが飛び出して襲って来る。2人は落ち着いて魔法を使って処理するか直接核を抜き出して討伐していった。
「しっかしスライムばっかりだなぁ。」
「そういうダンジョンなのかもしれないね。」
「まっ耐性も上がって倒すの楽だから良いんだけどな。」
黙々と進む2人、次第に2人の目の前は開け大きな地底湖がその姿を現した。
「すげぇな。」
「綺麗だね。」
その雄大な姿に見惚れる2人。しかしここは魔物が巣くうダンジョン、人にやさしいはずが無かった。
地底湖の周りに居る無数のスライムが2人の姿を見つけ襲い掛かってきたのだ。
「またこれかよ!!」
「さっきと違って広さがあるから任せて!!」
「抜けて来たやつは任せろ!!」
シンクは早速魔法を放つ。それは先ほど通路を覆い、グロウスを焼いた魔法だった。
「魔法名は簡単に!!<火炎放射>!!」
グロウスの横から両手で魔法を放つシンク、襲い掛かってきたスライム達はあっという間に蒸発して核だけをその場に残す。
魔法を潜り抜けて向かって来るスライムはグロウスに核を抜かれて絶命した。
「さてと、ちょっと休憩するか。」
「そうだね。」
核を拾い終わり、2人は休憩する事にした。現状水は貴重なため、湖から組もうとシンクは歩き始める。
湖を覗き込んだシンクは底の方にパイプのような物が付きだしている事に気付いた。
「ねぇグロウスちょっと来て。」
「なんだ?どうした?」
「あれって下水管に見えない?」
指をさしてそう問いかけるシンクにグロウスは湖を覗き込む。そこには言われてみればそう見えなくもない物が見えていた。
「確かにそれっぽいな。」
「でもどうしてこんな所に配管が?」
首を捻る2人、その時水面が怪しく蠢いた事にグロウスは気が付いた。
「離れろシンク!!」
「えっ!?」
次の瞬間、湖の水が持ち上がり触手の様に動いてシンクを絡め取ろうとした。
間に合わない!!
そう直感したグロウスはシンクの襟を掴み力いっぱい遠くにぶん投げた。
「グロウス!!」
「俺なら大丈夫だ!!」
触手に掴まれ持ち上げられるグロウス。シンクは念の為、顔に結界を張った。そして掴み上げている魔物の様子を観察する。
今まで自分達が湖だと思っていたのは巨大なスライムで、その体積は今いる地底湖の天井に届くほど大きい。その分核も大きいのか体の中で動いていない部分が視認できる程であった。
『人の子よどうしてこんな場所に居るのです。』
突然頭の中に声が響き始める。あたりを見回す2人、しかし人は見当たらずいるのは巨大スライムのみ。シンクは何かに気が付いたのかスライムに向かって話しかけた。
「貴方ですか?」
『左様、汝らに思念を飛ばしているのはわらわじゃ。』
その言葉に目が飛び出さんとばかりに驚くグロウス。前世でそのような話もあったなぁと思い出にふけるシンク。
『してどうしてこのような場所に居る?』
「あっそれは依頼を受けて落とし物を探しに来たんですが、どうやらダンジョンの罠に掛ったようでして・・・。」
『お主らは贄か、このような幼子を贄にするとは何を考えておる。』
「贄?」
スライムからの思念に疑問を抱くシンク。そんな中空気を読まずにグロウスはスライムに声を掛ける。
「なぁ降ろしてくれよ。」
『おっとすまない。』
素直にグロウスを離すスライム。グロウスは服が溶かされていない事からこのスライムは敵ではないと判断していた。
「それで、贄ってなんだ?」
『このダンジョンを管理している者が居るのだ。20年に1度その者に生贄を捧げる事でダンジョンから魔物を溢れさせないと契約している。』
「贄って生贄の事ですか!?」
巨大スライムはシンクの言葉に頷くように動く。
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