第13話

地底湖で巨大なスライムに会った2人。このダンジョンの主と人との契約の話を聴き驚きの声を上げたシンクは、スライムに契約の破棄を願う。


「あのっ、その契約は無かった事に出来ないのですか?」

『契約をしたのはわらわではないぞ。』

「どういう事だ?」

『このダンジョンの主は別に居る。わらわは勝手にここに住み着いただけじゃ。』


スライムの話によると、このダンジョンは元々蛇の魔物が主をしているダンジョンだった。しかしいつしか人が入り込み、ダンジョンを改造していった。


ダンジョンの中に下水を捨てる。勝手にそんな風に改造されてダンジョンの主は怒り狂い、そして地上を荒らして回った。


そんな時、1人の人間が主に話し合いを持ち掛けた。主は最初聞く耳を持たなかったが、その人間が連れていた者の美貌に引かれて話し合いの席に着いた。


そして話し合いの結果。“伴侶として”20年に1度、血縁の娘を寄越す事を条件として契約を結んだのだという。


『何分ダンジョンと言う過酷な状況では長生きできぬ。20年も経てば人は簡単に死んでしまうからな。』

「貴方はどうしてそんな事を知っているのですか?」

『なぁに、わらわが汚水の処理の為にここに連れて来られたのがその時だという事よ。勝手に連れ出されたので逃げ出してやったがな。情報収集の為に我が子らを放ち続けておる。造作も無い事じゃ。』


その言葉に苦い顔をする2人。そして意を決したようにスライム向かって謝罪の言葉を口にした。


「「申し訳ありません。」」

『何を謝っておる?』

「えっとですね・・・。」

「あんたの子を大量に殺しちまった!!すまねぇ!!」


頭を下げる2人に愉快だと思念を送るスライム。


『元々この世は弱肉強食。わらわ達スライムはその底辺ぞ。気にする事は無い。』

「ですがあなたは違いますよね?」


人と会話できる程の知性を持ち、その体積によりあらゆる物を飲み込むことが出来るスライム。その力は推して知るべきだろう。


『気にするでない、それにわらわは人の子を好いておる。襲ったりせぬから安心するがよい。』

「つまり大人だと攻撃すると?」

『中には違う者が居る事もすでに知っておるがの。奴等は自身の利益に血眼になり他者を害する。そんな奴等とは仲良く出来ん。』


その言葉に過去に何かあったんだろうなぁと察したシンク。グロウスはそんな事はどうでもいいという風にさらにスライムに問いかける。


「出口は何処にあるか知らないか?」

『ここからであればわらわの下にある配管を通れば良かろう。我が子らを外に送り出している配管じゃ。』

「僕達通れますかね?」

『心配いらんじゃろう、何度か人が通って確認しておった。』


スライムの言葉に脱出する為の希望が見えた2人。そして2人はせめてものお詫びとして拾っていたスライムの核を全て返す事にした。


「こちらはお返しします。重ね重ね申し訳ありませんでした。」

「いくつか砕いちまった。面目ねぇ。」

『なぁに、核さえあれば再生は出来る。どれ試してみよう。』


そう言ってスライムから触手が飛び出し2人が置いた核を飲み込んで行った。


次の瞬間、スライムの体が震えたと思ったら次々と分裂を始め、大量のスライムが生まれていた。


『こやつらはお主らを安全な場所に連れて行こうとしたらしい。突然攻撃されて驚いたと言っておるよ。』

「本当に申し訳ありませんでした!!」

「あれだけ大量にスライムに群がられたら攻撃しちまうって。」

「こらっグロウス!!」

『あっはっはっはっは!!我が子らも汝らを傷付けたからお相子じゃ。砕かれた核も後で治しておくから安心するがよい。』


巨大スライムの言葉にどこかほっとした表情のグロウス。こんな優しいスライムを殺してしまったと心のどこかで罪悪感に苛まれていたのだ。


『外のスライムは知らぬが、この場に居るスライムは人の子の味方じゃ。外に出たらそう伝えてくれるかの?』

「分かりました必ず。」

「約束するぜ!!」

『では案内にお供として連れて行くが良かろう。』

「「ありがとうございます。」」


スライムの群れから1匹が飛び出して来た。飛び出したスライムはシンクの胸元に飛び込む。シンクは慌てて抱きかかえるのだった。


『そなたらが無事に地上に出る事を祈っておるよ。』

「ありがとうございました。」

「そっちも元気でな!!ハンターに狩られるなよ?」


2人はそう言いながら案内スライムに続いて配管に入っていく。そんな2人を見送りながら巨大スライム。クイーンスライムのクイムは昔を思い出していた。


『ふふふ、良く似ておったわ。まさかここで主の血族とあうとは、不思議な物じゃ。』


クイムは昔人に飼われていた。主人は髪の長い女性で明るく活発な人だった。数多くの知識を持ち、人から頼られると断れない人だった。


クイムはそんな主が大好きだった。クイムという名前もその主から貰った名前だった。クイムは主の身の回りの世話を良くやっていた。「まるでメイドみたい。」そう言ってはにかむ主の顔は忘れられない。


主に子供が生まれ、仲間も増えた。主は<テイム>というスキルで魔物を無害化し従える力を持っていた。


子供の世話、仲間と協力して脅威への対処がクイムの仕事に加わった。子供はすくすくと育ち、自分にも懐いてくれた。


しかしある日突然、主は何も言わずクイム達の前から去った。今まであった繋がりを突然断ち切られた。


主の子供もどこか遠くに引き取られて行った。あの時向けられた助けを乞う瞳と、従魔をそして主の子を侮辱する男の顔。


このままではいけない!!


主の子供を守る為力を合わせてその男と戦った。だが主との繋がりが途切れ弱っていた自分達では勝てなかった。


子供は連れさられ、仲間はバラバラにされ自分はここに連れて来られた。力を付けいつか助けに行こう、そう思い強くなろうとした。


そして助けられる程力を付けたが遅かった。すでに200年の時が経っていた。


その時に思い出したのだ、主が居なくなった日。自分達に向かって主が飛ばした思念を。


『あなた達だけでも、平和に生きて。』


クイムは主人の最後の命令を守る事にした。この場所で静かに暮らす事を決めた。


クイムは懐かしい記憶を思い出しながら、体を広げ湖に擬態する。その場所はすぐに静かなスライムの楽園に戻って行くのだった。かつての主が望んだ通りに・・・。


スライムに案内されて配管の中を進む2人、いつしか2人は今回の依頼について話し合っていた。


「今回の依頼、やっぱり虚偽の依頼だったんだね。」

「ペンダントなんて無かったんだなぁ。目的は生贄を捧げる事かよ。胸糞悪い!!」


声を荒げるグロウス、シンクも表面上は落ち着いているが胸の中には怒りが渦巻いていた。


「外に出たら問い詰めてやろうぜ!!」

「そうだね、でも王都ギルドの職員が関与してるって事は王様も知ってるって事かなぁ。」

「なんだよ国ぐるみかよ。ますます気分悪いぜ。」


グロウスはそのいら立ちを足元に在った物にぶつける。それはレバーの様な物で蹴られた衝撃で ガゴンッ と反対側に移動して折れた。


「ちょっとグロウス何やってんの!?」

「げっ!?しまった。」


ゴゴゴゴゴっ!!


聞こえてきたのは何かが動くような音、そして振動。2人は周りを警戒しながら周囲を伺う。だが見た所何も変化はなく、音も静かに消えていった。


「・・・・・・、何も・・・・ないな?」

「あーあ、折れちゃってるよ。もう元に戻せないな・・・。」


周囲に変化が無い事に安堵するグロウス、グロウスが蹴り飛ばしたスイッチを調べていたシンクは壊れてしまってもういじる事が出来ないと告げる。


「これで何かあったら君の所為だからね。」

「悪かったって・・・。ほらスライムが行っちまうぞ。」

「そうやって誤魔化そうとする!!本当に君ってやつは・・・。」


2人は大分離れた所にいるスライムに追いつくため、速足で歩き始める。先ほどの出来事がこれから先、2人の元に大きな壁として立ちはだかると知らないままに。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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