第11話

ギルドからの依頼で下水に失せ物探しに来た2人、しかし指定された場所は下水に組み込まれたダンジョンだった。落とし穴に嵌り落下を続ける2人。果たしてこの先には一体何があるのだろうか?


「なんてな。」

「もう、くだらないナレーションしてないでちゃんと警戒しなよ。」

「悪い悪い。」


落とし穴に嵌った後、シンクの魔法によって落下速度を落としてゆっくりと降下した2人。穴の底には特に即死トラップが仕掛けられている事は無く、無事に降り立つことが出来た。


2人は何か脱出の手がかりが無いか辺りを調査しているのだ。


「でそっちは何かあったか?」

「うーん、何もないね。」

「おっかしいなぁ、どっかに出口があると思うけどな・・・・。」


上を見上げるグロウス、手に持った明かりに照らされて今まで落ちて来た落とし穴の壁面が見える。とっかかりも無いようなつるっとした壁には途中穴がいくつか開いていた。


「あれは多分、他の落とし穴の出口だと思うんだよ。」

「つまり?」

「20年前からあったという事は下水から出る配管に繋がってるハズじゃないかな?」

「あぁなるほど、死体が見つかった場所に繋がってる可能性があるか。」


考え込むシンク、それを横目にグロウスは壁を殴り始めた。


ガンッ!!ゴンッ!!ガンッ!!ガンッ!!


「っ!?ちょっとグロウス止まって!!」

「んっ?なんだ?」

「戻りながらまた壁を殴ってくれない?」

「???まぁ良いけどよ。」


シンクの言葉に従い、今殴った壁を再度殴りながらあるくグロウス。


ガンッ!!ガンッ!!ゴンッ!!「そこだっ!!」


グロウスを押しのけて殴られた壁を調べ始めるシンク。グロウスは訳が分からずにその理由を問いかけた。


「何かあったのか?」

「ここだけ音が違ったんだよ。おそらく壁の向こうに空洞があるはず・・・・。」


だが調べてもその壁を開く術は見つからなかった。


「うーん、絶対ここだと思うんだけどなぁ・・・・。」

「ならぶっ壊せば早えじゃねぇか。」


そう言うや否やグロウスは壁を殴り始める。壁にはみるみるうちにグロウスの拳の痕が刻まれて行く。


ここでグロウスの鍛えた<頑丈>が効力を発揮した。普通の人が壁を全力で殴れば数発で拳が割れ血を垂れ流す結果になってしまう。その為、人力で壁を殴り壊す事は出来ない。壁が分厚いのであれば尚更だ。


だが<頑丈>によって体を強化しているグロウスにはこれは当てはまらない。殴った所でダメージは無く、壁よりも固いその体は容易く壁面を破壊する。殴られた壁は粘土細工の様に崩れ落ち始めた。


「グロウス、手刀を作ってえぐり取った方が速いと思うよ。」

「おう任せとけ。こんな場所じゃお前の魔法は使えないしな。」

「使ったら2人共反動でどうにかなっちゃうからね。」


日々の特訓で魔素制御に磨きをかけているシンク、しかし厚さが不明な壁を破壊するにはある程度の威力が必要であり。現状この場所で使える魔法を放てば2人にも被害が及ぶ可能性があった。


グロウスはその事に気付き、自分から壁を壊し始めたのだった。


それからどれくらいの時間が経ったのだろう、時折休憩を挟みながら壁の採掘を続けていた2人。日の光が差さず、時計なども無い2人には現在時刻をしる術は無かった。


だが作業を続けていた成果は目の前に見えていた。壁には小さな穴が開き、奥に通路が見えていたのだ。


「よっしゃ!!ラストスパートだ!!」

「手早くね、まさか壁に修復機能があるとは思わなかった。」


それは最初に休憩を取った時に起こった。グロウスの手により破壊された壁が少しずつ修復を始め、元に戻ろうとしていたのだ。


それに気が付いたシンクは慌てて破壊した場所に沿う様に結界を貼った。結界は修復を押し止め、何とかこれまでの作業が無駄にならずに済んだのだった。


「まっダンジョンだからな、ズルは出来ない様になってるって事だろ。」

「それを壊し切っちゃうグロウスも大概だと思うけどね。」

「なはははは!!シンクと特訓した成果が出たな!!」


掘削を再開する2人、グロウスの手は修復する量より多くの壁をえぐり取り。ついに人が通れる程の穴を開けた。


2人は即座に穴を潜り通路に潜り込む。


「( ´Д`)=3 フゥ、何とかなったな。」

「これからが本番だと思うけどね。」


2人の持つ明かりに通路が照らされた。その先は闇に閉ざされていて先が見えない。壁は先ほどの落とし穴と同じようなつるつるとした物で出来ており、掴む事は出来なさそうだ。


一息つく2人、そんな2人の元に ぴちょんっ ぴちょんっ と水音の様な物が聞こえ始めた。


その音に戦闘態勢を取る2人、グロウスはシンクの前に立ち拳を構え、シンクは自身の周りに光球を生み出し明かりを確保した。


「・・・・・。なんだろうな?」

「普通に考えると魔物じゃないかな?」


通路の先を警戒する2人、そして音の主は明かりの元にその姿を現す。


「「スライム?」」


青く透明な体をした軟体が飛び跳ねながら2人に向かって来ていた。途中立ち止まったスライムは2人の方を観察?している様子だった。


「なんでぇ、もっと強い魔物を想像してたぜ。」

「そっかスライムが居るから壁がつるつるなんだ。彼らが溶かしちゃったんだよ。」


この世界のスライムは酸性の液体で構成されている魔物だ。なんでも溶かし養分にし、分裂を繰り返して増える。


だが火に弱く体の水分が蒸発すると容易く死んでしまう特性もあった。餌さえ与えておけば特に害も無い魔物として有名であり、トイレや街の清掃に下水の処理槽にも使われている。


だが侮ってはいけない、たとえ最弱の魔物だろうとその本質は人の敵。そしてここは長年誰も調査に入っていないダンジョンなのだ。


ピィィィィィィィィィッ!!


体の力を抜き、さてどうしようかと思案していた所で目の前のスライムから突然甲高い音が鳴り響いた。


「うるさっ!!」

「なにをっ!?」


驚き耳を塞ぐ2人、そんな2人の足元に徐々に振動が伝わって来た。その振動は次第に大きくなり、塞いだ耳から手をどけた2人の元に大量の水音が聞こえて来た。


「なぁ・・・。これってまずくないか?」

「・・・・・うん、まずいね。」


これからの運命に顔を蒼褪める2人。すでに壁の穴は修復され、逃げ道は無い。


「とりあえず壁!!何でもいいから壁を出せ!!」

「炎壁は駄目だ、酸素が無くなる。風壁と氷壁の合わせ技で!!<氷風壁>!!」


シンクが魔法を発動し、風の刃と氷の壁が展開されたと同時。明かりの元にスライムの津波が到達した。


ドドドドドドドッバッシャーンッ!!


スライムたちは風の刃に切り刻まれても進みを止めず、氷の壁にぶち当たった。しかしいまだその威力は衰えず、次々にスライムが押し寄せている。


「どんだけ居るんだよおいっ!!」

「ぐうぅ!!」


その量に驚くグロウスと壁の維持に集中しているシンク。しかしそんな状態は長くは続かなかった。


ピシッ!!


大量に押し寄せるスライム達の圧力にとうとう氷の壁までもが負け始め罅が入る。それを見た2人の顔には絶望が浮かんでいた。


「おい頑張ってくれ!!さすがにスライムにやられるのは嫌だぞ!!」

「今やってる!!でもスライムを減らさないとどうにもならないよ!!」


現状を打開するにはスライム達に火の魔法を使わなければいけない。だが常に押し寄せるスライムを止める為に壁を維持しなければならず、他の魔法を使う余裕は無かった。


そんなシンクの様子に気付いたグロウスは、覚悟を決めた顔した。


「シンク、俺が飛び込んでひと暴れしてやる。だから後で回復してくれ。」

「グロウス?」


どうしたのかと問いかける瞳に笑って返すグロウス。


「自分だけ守る壁に作り直せ、良いな?」

「駄目だよ!まだ酸に対する耐性は獲得していないじゃないか!!」


シンクはグロウスの提案にその先の未来を感じ取り慌てて止めようとした。だがグロウスの表情は変わらない。覚悟を決めた顔をしたままだった。


「どっちにしろこのままだと2人共お陀仏だ。だったらやるだけやってやる!!」

「・・・・・・。せめてこれだけでも!!」


壁の維持に使っていた魔素をグロウスの足元を固める為に使う。岩を発生させ床と脚を固定した。さらに呼吸が出来るように顔の周りに風の結界を張る。その上で自身の周りに風の壁と氷の壁を生み出す。


範囲が狭まったお陰で壁は強固な物になっていた。そして今までスライムの動きを止めていた氷の壁が砕け散る。


「かかって来いやぁぁぁぁぁぁ!!」


グロウスの姿はあっという間にスライム達に飲まれて行った。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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