第10話
俺の名前はザイン、ハンターをしている。ハンターの事を冒険者と呼ぶ連中が居るがあれは間違いだ。
そもそも冒険者と言うのは未開の地や謎の多い場所に乗り込み未知を発見する連中の事を指す。ハンターの中にはそう呼ばれる者も居るが稀だ。
殆どのハンターは街に定住し、依頼を受けるか魔物を狩り素材や魔石を売り払って生活している。
話がずれた、今回俺は旧知の中であるラブニエルからの直接依頼を受けて尾行をしている。
本来であればギルドを通さない依頼は補償を受けられない為受けないのだが、あいつの依頼であれば受けざるを得ない。昔世話になったからな。
依頼内容は孤児院の子供達の警護、しかも同行者に気取られる事なくと来たもんだ。
まっそんな依頼、ギルドで一番の隠密行動が出来る俺には造作も無い事だがな。
3人は騒ぎながら街中を移動して今下水の入り口に立っている。
護衛の姉ちゃんが戦闘で入るんだな。よし後を付けますか。
3人は危なげなく下水を進んでいく。途中現れるアーミーラットやローチなんかは姉ちゃんの魔法で一発だ。
途中何度か道を間違えた、それは仕方ない。なぜならこのイナッカの街の下水は蜘蛛の巣のように地下に張り巡らされ、崩落や地盤沈下等でダンジョンの様にその様相を日に日に変える。
その都度補修や新たな下水道の採掘等で正確な地図はもう作れないとまで言われるほどだ。中には人の手に負えない化け物が住んでいるという噂まである。
他にも仙人が住み着いているとか、過去の王族のお宝が眠っているなんて噂もある場所だ。掃除の為に入る奴等だって地図に記載されている場所だけで行動する事を徹底的に教え込まれている。違反すれば金も入らないってもんだ。
しばらく進んでいくと目的地に到着した。下水の汚水を溜めスライムに処理させる処理槽だ。下水の池とも呼ばれている。
この前ここで大規模な魔物の処理作戦があった。スライムが汚水を分解するときに発生させる魔素を餌にローチが大量に沸いちまった。
それにつられてローチを餌にするアーミーラットも大量に沸き、下水に入れなくなった。それを処理する仕事。
依頼は問題無く達成され下水に異常発生した魔物は駆逐された。俺ももちろん参加したぜ?なんせ一日銀貨10枚の仕事だったからな。魔物の素材も倒した奴持ちってんで張り切ったさ。
その処理槽の一部に配管が入り組んだ場所がある。どうやら2人はその中に入る様だ。さすがに大人の俺じゃあ付いていけねぇ。狭いもん。
姉ちゃんの方にも特に怪しい動きは無く、2人が入り込んだ穴を見つめている。
こりゃラブニエルの野郎の取り越し苦労か?そう思っていた矢先、いつの間にか穴を見ていた姉ちゃんが消えていた。
慌てて周囲を見回しその姿を探す。それと同時に警戒も怠らない。だというのにいつの間にかあの姉ちゃんが俺の後ろに立っていた。
距離を取ろうと動こうとしたが、体が動かない。それどころかあの“赤い目”に吸い込まれるように視線が動いてしまう。
「いけない人ね。」
そういって俺に手をかざす女、俺の意識はそこで途切れてしまった。
グロウス&シンクサイド
2人はペンダントを落としたという下水管の隙間を進んでいた。束になった下水管の隙間は子供1人がどうにか通れるだけの隙間しか無く、しかも徐々に下に向かって進んでいた。
「グロウス大丈夫?」
「おう、シンクこそ平気か?」
「うん大丈夫。」
お互いを気遣いながら進む2人。どこにそのペンダントが落ちているのかわからない。しっかりと確認をしながら進んでいる為、その進みは遅かった。
今回はそれが功を奏した。
「グロウス止まって!!」
「っ!?」
シンクに引っ張られて尻もちをつくグロウス。進行方向にはいつの間にかぱっくりと口を開けた落とし穴の様な物が見えていた。
「助かったぜ。」
「ううん、注意が遅くなってごめん。」
「しっかし、こんな穴さっきは無かったよな?」
「うん、突然現れたみたい。」
穴を覗き込む2人。穴の中には光が入り込まずその中には闇しか見えなかった。
「どうすんだ?」
「避けて通る事も出来ないね。」
落とし穴は丁度この狭い下水管の隙間を分断する様に現れた。今もその口を大きく開けており、閉じる気配はない。
「しゃーない、戻るか。」
「うーん、魔法でどうにか出来ないかな?」
「出来るのか?」
「ちょっと試していい?」
シンクの言葉に頷きで返すグロウス。シンクはグロウスと何とか体を入れ替えた後、穴に向かって魔法を放った。
「<氷結>」
その魔法が発動すると同時に穴の表面に分厚い氷が形成され穴を塞いだ。
「おっこれで通れるな。サンキューシンク。」
「どういたしまして、それじゃあ先に進もう。」
進み始める2人。穴を越えた先にはいまだ道が続いており、その道はさらに下へと向かっていた。
「これは何処まで行くんだろう?」
「昔住んでた穴倉を思い出すなぁ。」
そんな会話をしながら進む2人。いまだ目標のペンダントは発見できず、2人はいつの間にか道が平行になっている事に気が付かなかった。
そして2人の目の前に下水の配管が大量に入り込む場所を発見する。
「なぁ相棒。これなんだと思う?」
「うーん、何かを汲み出してる?でも何を?」
配管を調べるシンク、入り組んだ配管からは何か水の様な物が動いている音がしていた。
グロウスはおもむろに手に持っていた明かりを上に向けた。明かりに照らされて映し出されたのは、蛇と何かわからない果実の紋章。
その紋章が配管の入り込んでいる場所の上に飾られていた。
「んー?これって聞いてた特徴と似てないか?」
「蛇と・・・・・イチゴ?あっこっちではゴチィだっけ。確かにちょっと似てるかも。でもどうしてこんな所に?」
頭を傾げる2人。次の瞬間、紋章の蛇の瞳が赤く光り輝いた!!
パカンッ
そんな軽い音と同時に、2人を突然浮遊感が襲う。
「うわっ!!」
「なんだっ!!」
いつの間にか、地面が無くなっていた。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「グロウス!!クッ!!<浮遊>!!」
成す術もなく落ちていくグロウス、シンクは咄嗟に2人の体に魔法を掛けて落下速度を落とした。
「大丈夫!?」
「あぁ、助かった。まさかあそこにも落とし穴があったなんてな。」
「ごめん、今度は全く気が付かなかった。注意してたはずなんだけど・・・・。」
「落ちちまったもんはしょうがねぇよ。それより、どこに繋がってると思う?」
2人はゆっくりと下降を続けている。足元にはいまだ地面は見えず闇が広がっていた。
「うーん、この感じ。どこかで聞いた事があった様な・・・。」
「おう、俺もそう思ってた所だ。それじゃあ答え合わせと行くか?せーの!!」
目で合図を送り合う2人、そしてグロウスの掛け声とともに同時に口を開いた。
「「ダンジョン!!」」
「「やっぱりかぁ~。(´Д`)ハァ…」」
答えが同じだった事に2人は落胆の声を上げる。
「あの落とし穴は侵入者防止用の罠だろ。」
「おそらく下水の一部が元々ダンジョンで、この場所はそれを利用して作られたんだろうね。」
「って事はさっきの場所は。」
「ダンジョンの入り口って所かな?そんな風にも見えたし。」
この世界にはダンジョンがある。それは自然に発生して魔物を生み出し続け、いずれはその魔物が世界に溢れ人を襲う。俗にいう<魔物暴走>(スタンピード)と言う物だ。
そのダンジョンには核となる結晶体が最奥に安置されている事が判明している。それをハンター達はコアと呼んだ。
コアはダンジョンの要、コアを失ったダンジョンはその機能を全て消失し魔物を生み出さなくなる。その為、ダンジョンによって厳重に守られている事が多いのである。
「こりゃ覚悟しとかないとな。」
「うん、この下は多分魔物がわんさかいると思う。」
2人はいまだ見えない穴の底を睨みつけた。ダンジョンは2人を飲み込まんと未だその大口を開けている。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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