第9話
「いやぁ参った参った。」
「院長が気を利かせてくれて良かったね。」
依頼当日、2人は背嚢を背負ってハンターギルドに向かって歩いていた。生き残る為の訓練に夢中になり、食料や探索道具の準備を忘れていた2人。
その事を知った院長にこっぴどく叱られ、溜息を吐きながら2人に渡されたのがこの背嚢だった。
「もしやと思ったが何も準備しておらなんだとは・・・。用意しておいて良かったわい。」
「すみません。」
「いやぁ、訓練に熱中していて忘れてたぜ。」
「忘れてたじゃないわこの馬鹿もんが!!ハンターになるならば事前の準備は重要、しっかりと覚えておけ!!」
そう言いながら拳骨を貰った2人は涙目になりながら夕食を食べて、すぐに体を休めて今日に至る。
出掛けにも見送りに来た院長にクドクド言われ、逃げる様に孤児院を出て来た2人であった。
「しっかし、どう思う?」
「どうって?」
「もちろん今日の依頼だ。実際に子供を攫っていたとして、どうしてそんな事すんだ?」
グロウスの問いかけに顎に手を当てて考えるシンク、そして答えが出たのか顔をグロウスに向けた。
「わからないけれど・・・・。こういう時は大体生贄か実験の為の素材って所かな?」
「うげぇっ!趣味悪いぞ。」
「僕の考えじゃないからね!!前の世界での創作話だとそうなってるの!!」
グロウスに反論しながらもシンクはまた考え込む、そんな相棒にグロウスは声を掛けた。
「何か気になるのか?」
「うん・・・。どうして20年も間を開けたんだろうか?」
「さぁ?解るわけねぇだろそんなの。」
「まぁそうなんだけどね。」
「それにそんなもんは依頼を受けてみたら解るってもんだ。本当に唯の落とし物拾いかもしれないからな。」
「最初に言い始めたのはグロウスじゃないか。」
「細かい事を気にしてっと禿げるらしいぞ?」
「それは迷信だよ!!」
お互いの不安をどうにか払拭できないかと気を利かせ合い。じゃれ合いながらもハンターギルドに到着した。
ハンターギルドの中はすでに落ち着いた雰囲気を放っていた。ギルドに所属するハンター達は割のいい仕事を手に入れようと朝早くからギルドを訪れ、張り出される依頼を吟味して受けていくからだ。
グロウス達の待ち合わせ時間はそんな時間を外れた時刻だった。
「あらっやっと来たわね。」
「あっ、おはようございます。」
「はよーっす。」
受付に到着した事を伝えようと動き始めた2人に気が付いたのか。クーリエが姿を現して挨拶を交わす。
「今日はよろしく頼むわね。」
「おう、そっちこそ護衛よろしくな!」
「依頼主に失礼だよ。こちらこそよろしくお願いします。あっギルドの方に出発する事を伝えて来ますね。」
2人は自分達が戦えることを隠している。なぜならば戦えたとしても街中でその力を発揮する事は出来ないし、そもそも孤児救済の依頼の中に討伐系は含まれていない。
さらに言えばシンクの忠告も大きい。子供の頃からこのような力を持っていると良からぬ企みを持つ輩や利用しようとする者が寄ってくる。
それにいちいち対応するのは面倒臭い。だからこそ正式なハンターになり社会的な地位と力を手に入れてから、戦えることを公表する事にしていた。
よってギルド側も2人が戦えることを知らない。
「お待たせ。」
出発の報告を済ませたシンクが戻り、3人は下水道の入り口に向かって歩き始める。
「そう言えば依頼のペンダントってのは赤い宝石以外に特徴ないのか?」
「あら?どうしてかしら?」
「下水にはたまに誰かが落とした貴金属が流れているんです。」
「間違って別の物を持ってきちまったら2度手間だろ?だから確認しとくんだよ。」
この問いかけはシンクが考えた物だ。実際にペンダントを落としているのであれば問題無く答えられる問題であり、さらにはその特徴を明確に知り間違いの無いように確認をしたとして評価を上げるもの。
逆にペンダントを落としたというのが嘘であれば答えは不明瞭、もしくは作られた物になりボロを出すかもしれない。そう思ってシンクはあらかじめグロウスに確認を取るように言っていた。
下水に時たま貴金属が流れてくるという話も事実であり、裏の意図を探られる事も無い。
「そうねぇ・・・・・。特徴としては赤い宝石の周りに蛇が絡みついているデザインになっているわ。後は周りに文字が刻まれているの、でもなんと書いてあるかは読めないのよ。」
クーリエは問いかけに納得したのかペンダントの特徴を話始める。
「先祖伝来の品でしたっけ?」
「そうよ、我が家に受け継がれてきた物なの。まいっちゃうわぁ、受け継いだ者は常に身に着けるべしなんてしきたりもあるからこんな目にも合うのよ。」
溜息を吐きながら悩まし気に頬に手を当てるクーリエ。その一挙手一投足をつぶさに観察していたシンクだったが怪しい動きは見られなかった。
「それっていつ受け継いだんだ?」
「10年前かしら?私の母がそれまで持っていて、時期が来たからとかなんとか言って渡して来たの。」
「時期?」
首を傾げるグロウスとシンク。そんな2人を見て微笑みながらクーリエは答える。
「自分の娘が20歳になった時に渡すようにと伝わっているそうよ。娘が生まれなかったら孫でも良いのですって。まぁ家の家系は必ず女の子が産まれるそうだけど。不思議よね?」
「それは呪いとかではないのですか?」
「過去に調べた人も居たみたい。でも呪いは見当たらなかったそうよ。」
「なるほど。」
話を聴いて思案顔になるシンク。
「つまりあんたは20歳を超えても結婚出来ない行き遅れだ、あだだだだだだだだだだ!!」
「だ・れ・が・行き遅れですって!!いくら子供だからって言って良い事と悪いことがあるのよ!!」
クーリエにこめかみをぐりぐりされるグロウス、そんな2人をシンクは冷めた目で見ていた。
この世界の結婚適齢期は15歳から20歳まで、それまでに婚約者を持つか実際に家庭を持つ事が多い。
それは魔物が蔓延る世界で戦死者が多く長生き出来ないという環境と、知能の発達が速く成人年齢が15歳と低い事からこそそうなっている。
つまりは20歳で結婚もせず、うろうろしている女性は心無い人から『行き遅れ』と呼ばれる事が多々あるのだ。
中には寿命の限界を超えた人も多くいるが。その人達は何処か人間離れした強さも持っており、時には《超越者》と呼ばれる。
「おぉ~頭が割れるぅぅぅぅ!!」
「謝りなよグロウス、今のは君が悪いよ。」
「あだだだだ!!悪かった!!行き遅れは撤回する!!」
「分かればよろしい、それに私は行き遅れじゃなくて相手を吟味しているだけです!!」
{それっていつまでも結婚できない人の言い訳だけど・・・言わないでおこうっと。}
ギロッ!!
「なにか?」
「何でもありませんよ?」
「おーいてぇ。」
まだ頭を押さえながら涙目になっているグロウス。自業自得だと思いながらもシンクは依頼の為に確認しなければいけない事をクーリエに問う。
「クーリエさんに護衛を任せているわけですが、どういった戦い方をするんですか?」
「私は魔法と短剣を使うスタイルよ。風の属性が得意なの、あとで見せてあげるわね。」
「他には使えないのか?」
「後は火魔法と水魔法が少しだけね。野営する時に便利よ?」
クーリエの言葉に警戒度を上げる2人。なぜならば2人はギルドでクーリエから精神攻撃を受けている。
シンクは持ち前のスキルを使い防御していた為に平気だった。グロウスは不完全ながらもシンクから精神攻撃を受けていた為、耐性を獲得しており耐えられた。
だがもしそうでなければ?2人はそのままクーリエの意のままに動く人形にされていても不思議ではない。
だからこそ、そんな危険な力を隠すクーリエに対して2人は注意を払う。
「やっと到着したみたいね。さっ行きましょ?」
3人はいつの間にか下水の入り口にたどり着いていた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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