第8話

3人は早速依頼を受ける為に動き始めた。


ラブニエルは昔調査を頼んだ知人のハンターに個人で依頼を出しに出かけた。グロウスとシンクはそのまま林の中で特訓を続ける。


ラブニエルがどうにか依頼を出して戻ってくると、2人はまだ特訓を続けていた。しかし、その様子は先ほどとは違いグロウスが攻撃、シンクが防御と攻守が逆転していた。


「おらぁぁぁぁ!!」

「なんの!!」


パリーン!!


「うぇっ!!」

「よっしゃ、割ってやったぜ!!」


一目見ただけでは何をやっているのかは分からない。唯一つ言えることはまた非常識な事をしているという事だけ。


「あっ院長。」

「依頼出来ました?」


2人がラブニエルに気が付き寄ってくる。ラブニエルは先ほどの光景について問いただす事にした。


「依頼は出来たぞ、さっきは何をしておったんじゃ?」

「あぁー、あれは「シンクが全力で張った魔法防壁を殴って壊した。」です。」


その言葉に、もうどういう顔をしていいかわからないラブニエル。魔法防壁とは基本的な防御の魔法であるが、それを破壊するには魔法をぶつけるか魔法が付与された武器で攻撃しなければいけない。決して物理攻撃“だけ”で割れる物では無い。


「グロウス・・・。お前は攻撃も非常識じゃの・・・。」

「よせやい、そんな褒められると照れるぜ。」

「褒めとらん!!」


何処までものんきなグロウスの態度に頭を抱えるラブニエル。


まぁシンクが付いているなら問題は無かろう。


そう結論付けたラブニエルは孤児院の仕事をする為に戻って行った。ラブニエルが去った後、シンクとグロウスは夕方まで訓練を続けた。


最後の攻防を終えた後、グロウスの体が虹色に輝きだしすぐに収まった。それを見たシンクは期待を込めた目でグロウスを見つめる。


グロウスの方も初めて聞く<天の声>に驚き立ったまま固まっていた。そしてシンクが自分の事を見ている事に気が付くと、笑顔で頷いた。


「やったね!!」

「あぁ、これで俺にも必殺技が出来たぜ!!」

「で、内容は?」

「あぁ<小盾>だってよ。」

「<小盾>?」

「今見せる。」


スキル技<小盾>

任意発動、左右どちらかの腕に物理防御に特化した小盾を発生させる。小盾は武器としても使え、投げる事も出来る。


「・・・・グロウス、これは必殺技とは呼べないね。」

「まっ金払わなくても防具が作れるってだけでもお得だろ。それに見て見ろ。」


そう言ってグロウスは木製の小盾に金属で補強している様な物を左手に生み出し、おもむろに特訓上の傍に生えている木に投げつけた。


小盾はくるくると回りながら綺麗に飛んでいきそして。


バキィッ!!


命中した木にめり込んで止まった。グロウスは小盾を回収して戻ってくるとそれをシンクに見せる。


小盾には傷一つ無く、綺麗なままだった。


「どうやら俺の頑丈さが付与された上に物理防御はこの盾の方が上みたいだ。」

「不思議だね。物理に特化してるから能力が上がったのかな?」

「・・・そうみたいだな。また<声>が聞こえた。何分この世界で初めてのスキル技だから説明が難しいんだと。あぁそれとスキル技はスキルアーツって言うらしいぞ。アカシックレコードも書き換えたってさ。」


グロウスの言葉にシンクはアカシックレコードを確認する。するとそこには今まで<スキル技>と表示されていた物が<スキルアーツ>と改名されていた。


「本当みたいだね。」

「まっこれで1つ強力な武器が出来たな。」

「これからはグロウスの身体能力ももっと鍛えないとね。」

「筋力がそのまま攻撃力になるからな、そっちは頑丈でもどうにもならねぇし。重し役頼むぞ。明日からはもっと上げて良い。」

「うんわかった。」


ラブニエルは気が付かなかったが、特訓中グロウスの体には普段の10倍の重力が掛けられていた。これにはシンクの全魔導が貢献している。


転生者であるシンクは重力と言う物を理解しており、これで体に負荷をかけて特訓するという某漫画の内容をそのまま実行したのだ。


最初は魔法により効率良く訓練が出来た。だがグロウスの頑丈はその重力魔法と呼べる物の完全耐性を獲得してしまう。高重力下でも普通に動け、特訓にならなかったのだ。


だからシンクはグロウスの着ている“服”に魔法を掛けた。


グロウスの<頑丈>の能力は自身の肉体にしか作用しない。着ている服には全くと言っていいほどその能力は発揮しなかったのだ。


2人は身体能力向上を目指した筋トレと走り込みの際に服を着こみ、重力魔法で重力を増した状態で特訓していた。


「よっし、それじゃあ明日は早速この<スキルアーツ>がどれだけ使えるか試すか!!なんか使い続けるとスキルアーツも進化するみたいだからな。」

「楽しみだね。あっ!!日が暮れて来てる!!早く戻らないと!!」

「やっべ!!飯食い損ねちまう!!」


2人は慌てて孤児院まで走って戻るのだった。


翌日、院長からの許可を得て訓練場の林に朝から来た2人は昨日取得したスキルアーツの確認から始めていた。


グロウスが小盾を生み出して構える。そこにシンクが聖剣を生み出して切り込んだ。


ギィンッ!!


「うわっ、全く刃が通らない・・・。」

「今どのくらいだ?」

「普段グロウスに攻撃してるくらいかな。」

「さすが物理特化だな。」


次に魔法攻撃に対してどれほど防御能力が有るのか確かめる。少し離れたシンクはグロウスに向かって<火球>を撃ち出した。


<火球>を小盾で受けると小盾はすぐに燃えだして崩れ落ちてしまった。


「よっわ。」

「魔法には極端に弱いみたいだね。」


物理特化と書かれている小盾はいくら頑丈の能力が付与されるからと言って万能では無かった。その後何度か別の魔法で試してみたが、魔法攻撃にはその頑丈さを発揮できず通してしまう。完全耐性も息をしていなかった。


「こりゃ使いにくいな・・・・。」

「・・・・・。あっそうか、これも鍛えなきゃなんだ。」


シンクが遠くを見つめる様な顔をした後、グロウスに向かってそう言い放つ。


「鍛える?」

「うん、今調べたんだけど。その小盾はグロウスの<頑丈>から生まれたんだよ。つまり<頑丈>の特性を引き継いでる。」

「なるほど、じゃあこの小盾も魔法攻撃を受け続ければ・・・。」

「耐性かもしくは魔法防御能力が付くみたいだよ。」

「速くどんな風に進化するのも見たいからな。早速やるぞ!!」


訓練を続ける2人。その最中に新たに小盾についての発見があった。


小盾は破壊されてもすぐに新たな物を出す事が出来る。


ただし、小盾を2枚出す事は出来ない。必ずこの世界に現存する小盾は1枚でなければならない。(破片の1つでも残っていると生み出す事が出来ない。)


生み出した小盾は所持者であるグロウスが念じれば遠隔でも消すことが出来る。(木に命中した小盾の回収が面倒くさいと思ったグロウスが発見。)


生み出す場合は必ず左右の腕のどちらかでなければならない。(足や頭に生み出そうとしても出来なかった。)


小盾で受けた攻撃の耐性はグロウス本人にも還元される。(魔法攻撃を受け続ける中で耐性が上がった。)


夕方まで行われた訓練の中で小盾の能力が判明した。他にも隠された力が在るのではと2人は他にも色々試してみたが、小盾の能力はこれだけであるようだ。


「ふぅ、こんなもんか。」

「魔法耐性は獲得出来なかったね。」

「まぁ他にも色々検証してたからなぁ。」

「ねぇグロウス、最後に一発でかいの撃っていい?」

「ん?あぁ今日はずっと付き合わせてたからな、良いぞ。」

「それじゃあ行くよー。」


のんきな声とは裏腹に、シンクに膨大な量の魔素が集まっていく。そしてシンクが手を頭上に上げた先には太陽と見紛う程の光球が生み出されていた。


「<太陽球>」


撃ち出された魔法に対してグロウスは今日一日行っていた動作を取ってしまう。そう小盾を魔法に向かって構えたのだ。


光球が近づくだけで崩壊する小盾、グロウスは何度も何度も新たな小盾を生み出して受け続ける。


ドガァァァァン!!


光球が爆発して土埃が舞う。その威力は絶大で林を保護する為に張っていた全力の魔法防御(結界と呼んでいる。)に罅が入っていた。


そんな中土埃の中に虹色の光が走る。そして嬉しそうな顔をしたグロウスが肌を黒く染めながらシンクの元まで走って来た。


「取れた!!取れたぞ!!<小盾>に魔法防御が付いた!!」

「おめでとうグロウス!!でも急がないともう日が暮れるよ!!」

「二日連続で院長にどやされるのはまずい!!」

「よしっ結界は張り直した。早く戻ろう!!」


2人は急いで孤児院まで戻って行った。孤児院で院長に明日の準備はしたのかと問われ、訓練で忘れていたと言って怒られた事は言うまでもない。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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