第7話

ラブニエルは目の前の光景が信じられなかった。笑いながら人が簡単に殺せそうな魔法を連発するシンク、同じく笑いながらそれを全て受け止めるグロウス。2人がいつの間にか狂気に陥ったと言われた方が納得する光景である。


だがその表情は狂人のそれでは無く、遊んでいる子供の純粋なそれだった。そして一通り魔法を撃ち続けた後、シンクはグロウスに声を掛ける。


「それじゃあ威力上げるよ!!無理だったら言ってね、回復するから!!」

「おう!!頼むぞー!!」


まさかここからさらに威力が上がるとは思わないラブニエル。しかし現実は人の想像を簡単に超えていく。


「<雷槍>!!」


シンクの言葉と同時に空は一瞬にして曇り、そこから無数の雷が全てグロウスに向けて放たれた!!


その光景を見たラブニエルは今度こそ命は無いとグロウスを助ける為に走り出す。しかし当のグロウスはラブニエルに向かって止まるようにジェスチャーをした後、笑いながら雷をその身に受けた。


ドゴォーーーーーーンッ!!


街中に響き渡るのではないかというくらい大きな爆発音、そしてグロウスはまた土埃に飲まれて行った。


心配そうな顔でグロウスが居た場所を見るラブニエル。シンクは気を利かせて風の魔法を使い土埃を払った。


その中から現れたグロウスは所々出血して煙が立ち上っているが、なんでもないかの様な顔をして立っていた。口からも少し黒い煙が立ち上っている。


「げほっごほっ!!はぁ~、相変わらずシンクの魔法はすげぇな。ちょっち回復してくれ。」

「へへぇ~ん、グロウスに負けない様に訓練してるからね!!<再生回復>。」


シンクの手から薄緑の光が飛び出し、グロウスの体を包む。次の瞬間にはグロウスの傷は跡形も無く消えていた。


「うっし、ばっちりだ。次行こうぜ次!!」

「よーし、次は<暴風刃>行くぞー。」

「ちょっと待て!!なんじゃその特訓は!!それにそんなに魔法を使ったら街から衛兵が!!」


すぐに魔法を放とうとするシンクとそれを受け止めようとするグロウスに待ったをかけたラブニエル。その表情はどうにかしてこの奇行を辞めさせようと必死だった。


「あぁそれなら大丈夫。」

「僕が隠蔽と消音の魔法を掛けてるから、誰にも気付かれないよ。」

「なん・・・・じゃと・・・。」


グロウスの頑丈さにも驚いたが、シンクがこの歳で様々な魔法を使いこなしている事にも驚く。そして心のどこかでさすが勇者じゃ、と納得する自分が居た。


「まぁ死にはしないから安心してくれ。」

「最初の頃は何度も死にかけたくせに。」

「それはおまえが威力の調整ミスったからだろうが!!」

「えへへ、バレた。でもそのおかげで今は威力の調整は自由自在だから問題ないね。」

「問題大ありだろうが!!おかげで即死耐性なんて付いたんだぞ!!」


2人のやり取りをまたぽかーんと眺めるラブニエル、そして再度始まる高威力の魔法の乱舞とそれを笑って受けるグロウス。しばらくするとグロウスの体が突然光り出し、しばらく光ったかと思うと消えていった。


「どう?」

「おう、雷属性と風属性は耐性獲得だ!!」

「これで基本属性は終わったね。じゃあ次は武器かな?」

「速く強力な毒魔法とか精神魔法覚えてくれよ。」

「あれは闇属性と光属性を上げないと無理。だから特訓付き合ってね。」

「しゃーねーな。任せろ!!じゃあ次は武器をよろしく。」


すでに傍観者として訓練場の隅で体育座りをして2人を見ているラブニエルは、武器の特訓と聞いて何をするのか気になった。


声を掛けるのは後にして、まずは何をしでかすのかを見る事にしたラブニエルは集中して2人の行動を見守る。


シンクは聖剣召喚で剣を生み出し、突然グロウスに切りつけた!!


それを見たラブニエルはとっさに腰を浮かし、グロウスに駆け寄ろうとするが次の瞬間。


ガギィィィィン!!


と言う金属音を聞いて立ち止まる。その目線の先では、聖剣を腕で止めるグロウスが居た。


「切れ味落ちたか?」

「グロウスが固くなったんだよ。少し上げるよ?」

「おう。」


そして繰り出される連撃。その度にグロウスの肌から ガキッ ガキィン!! と音が鳴り響く、少し切り傷が出来たかと思ったら次の斬撃では傷付かず。その次の斬撃では薄く切れと繰り返していく2人。


その行動は途中で変化する。シンクが使う聖剣が剣だけではなく槌や槍、針や糸になって襲い掛かったのだ。


そのすべてを受けるグロウス。その表情には余裕が見え、シンクの方も汗1つかいていない。


距離を取った2人は一度呼吸を整えて、真剣な表情をした。


「それじゃあ・・・・行くよ!!」

「来い!!」


いつの間にか剣に戻った聖剣が光を放ち始める。そしてシンクはグロウスに向かって駆けながら技名を叫んだ!!


「<百花連斬>!!」


グロウスの傍を通り過ぎたシンク、その後グロウスの皮膚からおびただしい量の血が噴き出した。様に幻視した。


ただよく見ると全ての怪我は皮膚だけで止まっており、肉までは届いていなかった。


「かったぁぁぁぁぁぁ!!」


悠々と立ち続けるグロウスの代わりにシンクが手から聖剣を取り落とし、手を抑えながら地面に膝を着く。


ラブニエルがシンクの様子を伺うと、その手首が赤黒く晴れていた。あれは骨が折れている。


「シンク!?」

「あぁ、大丈夫です。すぐ治せますので。<再生回復>」


グロウスに掛けた魔法と同じ光がシンクの手首を包み、腫れは瞬時に引いて行った。


「なんだぁ?訓練が足りないんじゃないか?」

「僕はグロウスみたいに頑丈じゃないの!!」

「いや、技を撃つ時に剣筋がぶれてたぞ。それで反動をもろにそこに食らったんだ。」

「ぐぬぬぬ、次こそはきっちり決めて見せる!!」

「よっしゃかかってこーい。」


ラブニエルは2人に何か言うのを諦めた。なぜならば2人は回復付の超特訓を行っていたからだ。危険だからと辞めさせようとする段階をとうに超えている。


そして一通り訓練が終ったのか2人が座っているラブニエルの傍まで歩いて来た。


「これで依頼受けても良いな!!」

「・・・お主らは何時からこの訓練をしているんじゃ?」

「スキル鑑定の日からだから半年くらい?」

「そうだな、大体そのくらいだ。」


まさか半年でここまで化け物になるのかとラブニエルは驚愕した。


だがそれには理由がある。勇者と言う職業には成長補正が掛かる特性がある。魔法を撃てば普通の人であれば熟練度が1上がるだけだが勇者は100上がる。武術に関しても同様で、特訓をすればするほど加速度的に強くなっていくのだ。


その攻撃を受け続けるグロウスの成長はどうか?グロウスのスキル頑丈は一度受けた攻撃に対しての耐性を得る。つまり高威力の攻撃を受ければそれだけ威力の高い攻撃に対して耐性が付く。


さらに攻撃の種類としての切る、叩く、刺す、締める。次に毒、痺れ、熱、病。最後に各種属性魔法、精神攻撃等が含まれていればそのすべてが上がるのだ。


例として風魔法の<風刃>の場合、風属性耐性と斬属性耐性が同時に上がるという物である。


そのおかげで勇者の成長速度に追いつき、追い抜く程スキルの熟練度は上昇していた。


「驚きすぎて声も出んわい・・。」

「出てるじゃん。」

「たとえじゃ馬鹿もん!!」

「それで、依頼を受けても良いですか?」

シンクの言葉に考え込むラブニエル。その反応に期待大だと思った2人は目をキラキラさせながら見つめ続けた。


そんな2人のおねだり攻撃に負けたのか、はたまたこれだけ戦えるのであれば問題は無いと判断したのか、顔を上げたラブニエルは覚悟を決めた表情をしていた。


「明日、わしの知人に依頼を出す。個人依頼じゃからギルドは通さん。気付かれずに2人について行き、命の危機には助けに入るという内容じゃ。」


その言葉を聞いて2人は花が咲いたような笑顔になる。


「ありがとうございます院長!!」

「絶対仇取ってやろうぜ!!」

「ただし!!無茶だけはせんでくれ、2人共無事に帰ってくる事。よいな?」

「「はいっ!!」」


2人の元気な返事にどこか不安を覚えたラブニエルだった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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