第6話

「あれは20年前じゃったかの?2人と同じように働き、若くして正式なハンターになった者が居たんじゃ。」


過去を思い出しているのか、遠くを見るような表情でラブニエルは語った。


わずか6歳という年齢で正式なハンターとなった彼。彼も孤児院の為にハンターギルドで手伝いをしてその賃金を運営の為に渡していた。


一時期はやり病で孤児達が複数倒れた、その時に彼はこのままでは皆死んでしまう。正式なハンターになると言って孤児院を飛び出していったそうだ。


院長はもちろん止めた。だが病に倒れる孤児達の面倒を見ている隙をついて出て行った彼は、数日でハンター証と多額の報奨金と共に帰って来た。


彼のスキルが常に発動しているタイプでさらには戦闘に向いている物だった事がのちに解るが。院長は試験の内容を聞いて彼をきつく叱り、そして涙を流しながら感謝の言葉と共に抱きしめた。


それ以降彼も無茶な依頼はせず、街中でこなせる仕事を率先して受けていた。


そんな中、ハンターギルドから同じような依頼があったそうだ。内容としては今回と同じ、下水道の奥に貴重な物を落としたので拾ってきて欲しい。落とした場所は狭い場所で子供しか入れない場所だからと。


彼は街中だという事、下水には何回も潜っており最奥まで行ったことがある事、強力な魔物を狩ったという実績もあるという事でその依頼を受けた。


院長もその時は心配していなかった。すぐに帰るからと言って飛び出していった彼が無事に帰ってくる事を疑っていなかった。


そんな彼が無残な姿で戻って来るとは思わずに・・・・・。


3日経ち、1週間が経ち、1月が経った。おかしいと思った院長がハンターギルドに問い合わせると戻って来ていないという返答だけが帰ってくる。


何かあったのでは?無茶をしたのでは?彼は無事なのか?日に日に不安が募りその不安は現実の物になってしまった。


2ヵ月が経った頃、下水の出口から変死体が発見された。


その顔は恐怖の表情に歪み、四肢は無くなっていた。体は切り開かれ、特に下半身は原型を留めていなかった。


首に下げられたハンター証により身元が分かり、連絡を受けた院長はすぐにその場所に向かった。


ハンターギルドによって回収された遺体と対面した院長は、それが彼であると確信した。首筋に特徴的な痣があったからだ。


なぜこんなことに・・・・。院長はその場で泣き崩れ、ずっと遺体に謝り続けていたという。そして依頼主に事の次第を問いただそうとしたが、不思議な事に依頼者はすでに消えていた。


「・・・・・という事があったんじゃよ。」


院長の話を聴いて2人は背中に冷たい物が流れていた。類似点がありすぎる。今回の依頼はその事件と関係があるのではないか。そう考えるのには十分だった。


「院長、犯人は捕まらなかったのか?」

「そうです、調べなかったのですか?」

「もちろん調べた。わしの昔の伝手を使ってな。しかし依頼者は不明のまま、下水奥を再度調査したハンター達からも異常なしと連絡を受けた。」


悔しそうに拳を握る院長。


「あの子は優しい子じゃった。お主らの様に自分より人を助ける事を優先してなぁ。少ない食事をお腹が空いたと泣く子に分けるような子だったのじゃ。それが・・・あのようなむごい仕打ちを受けるなんぞ・・・・、許せるはずも無い。」


徐々に院長の手に力が入り血管が浮き出て来ていた。その様子を見ていた2人は普段温厚な、けれども子供達をしっかりと叱る時とは違う圧力にさらされた。


「じゃからその依頼は駄目じゃ。わしがその依頼主に断りを入れる。」

「・・・・院長。」

「そんで20年前の事を問いただすのか?」


グロウスの言葉に固まるラブニエル。そんな院長を見て確信したという顔をしたグロウスは、悪戯を思いついたような顔をした。


「証拠が無かったら逃げられて終わりだろうな。なぁシンク?」

「うーん、まぁそうだねぇ。」

「だったら、罠に掛けてやろうぜ!!」


ニカッっと笑い頭の後ろで腕を組むグロウス。その言葉にラブニエルは声を上げる。


「ならん!!依頼は断る!!」

「でもこのままだとまた逃げられて終わりだぜ?」

「グロウスには考えがあるの?」


シンクの言葉に笑みを深めるグロウス。その顔は「待ってました!!」とでも言いたそうな顔をしている。


「院長の昔馴染みに着いて来てもらうんだよ。あっもちろん隠れてな。」

「なるほど、僕等を囮にするんだね。」

「そんな危険な事はさせられん!!」


かつての思いを繰り返すものかと断固拒否の構えのラブニエル。しかしその次の言葉に息を飲むことになった。


「勇者とその弟子の言葉なんだけどな。」


この世界の勇者とは、時折現れる魔王と言う存在を倒す為に生まれると言われている。魔王の力は強く、普通の兵士やハンターでは手も足も出ないとされていた。


魔王現れるところに勇者あり。そのような言葉が生まれるほど、魔王と勇者の関係は深い。この世界でも役50年前、魔王の軍勢と勇者の軍勢が戦い魔王軍をもう1つの大陸に追いやったという歴史がある。


だからこそ、勇者とは力の象徴であり人類の希望として広く語り継がれていた。勇者を自称する者は多いが、職業として勇者を得る者はこの世界で1人だと言われている。そんな人物が目の前に居ると言われてラブニエルは狼狽した。


「勇者じゃと。冗談を言うでない。」

「冗談じゃないんだけどなぁ。なっシンク。」

「そこで僕に振る?まぁ良いか、いつかは院長に話そうと思ってたからね。」


そう言ってステータスを出すシンク。そしてそれを見たラブニエルは椅子から転げ落ち、腰を抜かした。


「ゆゆゆゆゆ、職業:勇者!!」

「お世話になっているので打ち明けました。ですが秘密ですよ?」

「そうだぜ?俺達だけの秘密だ。」


悪戯が成功した!!と笑顔になる2人。そんな2人の顔を交互に見たラブニエルは手を組み神に祈った。


「おぉ、神よ。この子に試練を与えませぬように・・・。」

「なっ?だから大丈夫だって。」

「これで納得していただけました?」


2人の言葉に我に返ったラブニエルはそれでも渋い顔をしていた。


「やはり駄目じゃ。2人はまだ10になったばかり。危険な事はしなくて良い。それにグロウスはハズレスキルだったんじゃろ?シンクはともかくグロウスが付いて行けるとは思えん。」


ラブニエルの言葉にアイコンタクトを取る2人。その行動にラブニエルはいささか嫌な予感がしていた。


「じゃあ試してくれよ。シンクの攻撃を受けきったら依頼受けさしてくれ。」


3人は孤児院裏の林まで移動した。普段ここで訓練をしている2人には見慣れた光景でも、ラブニエルに衝撃を与えるには十分な光景だった。


林の奥、人の来ない場所の地面は堅く均されていた。岩石で壁が作られていて、その壁には複数の攻撃後が見て取れた。


さらに驚く事に、今までなかった池が出来ていた。その池は強い衝撃を受けて出来たクレーターの様な物に見えた。


「「秘密の特訓上にようこそ!!」」


笑顔でラブニエルに向かって手を開く2人。ラブニエルは今だ、その光景が現実の物であると受け止められなかった。


「それじゃあいつも通りよろしく!!」

「うん、まずは魔法から行くよ?」

「ばっちこーい!!」


呆けているラブニエルを置き去りに、グロウスは壁の傍まで移動した。そしてシンクに向かい合う様に立つとその瞬間、シンクが数多くの属性玉を浮かび上がらせそれをあろうことがグロウスに向かって撃ち始めた。


その光景にわれに返ったラブニエルは叫ぶ。


「グロウス!!シンクなんて事を!友を傷つけるとは!」


濛々と立ち込める土埃で魔法の威力は推して知るべし。グロウスはもう生きては居ないと諦めたラブニエルの耳に、とてものんきな声が届く。


「いやぁこれ俺の訓練だから。これくらいなら準備運動だよな?」

「僕達の訓練ね。院長、まだウォーミングアップの段階ですよ?」

「へっ?ぐろうす?なぜおまえいきて・・・?」

「いや、俺のスキル<頑丈>だし?」


土埃が晴れ、徐々にグロウスの姿が露わになる。その体には一切の傷は無く。いつ脱いだのか上着が横に畳まれ置かれていた。


「それじゃあ、いつも通り頼むぜ!!」

「はいよ、じゃあ行くよー。」


訓練場に2人ののんきな声が響き渡った。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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