第5話
あの後ハンターギルドの職員から詳しく話を聴いた。目標地点は下水の最奥、貯水池の傍の配管の隙間だった。
下水内はクーリエが受けた依頼によって魔物の数が大幅に減っている。護衛の為にクーリエ自身が同行して2人を守るという話になった。
出発は早い方が良いが、数日であれば待てる。その言葉を聞いてシンクは出発を明後日にして欲しいとクーリエに伝えた。
「それじゃあ、明後日の朝この場所で集合ね?」
「えぇ、それでお願いします。」
「なぁなぁ、何で明後日なんだ?」
今すぐにでも出発出来る事を知っているグロウスがシンクに耳打ちで質問する。今までもシンクが日程を決めたときは何か理由があった時だからだ。
「あとで教えるよ。」
グロウスにだけ聞こえるようにそう言ったシンクは、依頼票を受け取ってギルドの外に歩き出した。グロウスは慌ててその後を追いかける。
しばらく歩いた後、シンクが周りを見回してから溜息を吐いた。
「(´Д`)ハァ…。」
「どうしたんだよ?」
「監視の目が無いか確認したんだよ。」
「そっか、それで安心したって事は無かったんだな?」
「うん。」
グロウスも周りを見回すが怪しい物は見当たらなかった。スラムで生活していた2人はスキルに現れなくとも、自分の身に危険を及ぼす存在を感じ取れるようになっていた。
「しっかしあの姉さんえげつないな。」
「そうだねぇ、まさかハンターギルドで仕掛けて来るとは。」
2人はクーリエとの出会いを思い出して再度溜息を吐いた。
「シンクはどう思うよ?」
「それはギルドで仕掛けてきた事?それとも依頼の事?」
「両方。」
グロウスの言葉に少し考えこむシンク。グロウスは急かすことなく答えが出るのを待った。
「ギルドで仕掛けられたのは精神に作用するスキルだと思う。内容は依頼を受ける様に誘導する物だったから、本当に困っているって事なんじゃないかな?」
「だよなぁ、おかげで耐性が上がったけどよ。でも依頼する人間に攻撃を仕掛けるかね普通。」
頭の後ろで腕を組みながら歩くグロウスはそう愚痴る。その様子を見たシンクも苦笑を浮かべた。
「まぁあの時点で断っても良いけど、それだと僕達が彼女のスキルを無効化する何かを持っているとバレちゃうからねぇ。」
「おっ何か解った?」
グロウスは彼がクーリエを鑑定して何か情報を得たとその表情から確信した。
「彼女はギルドの職員だよ。」
「げっ、じゃあ試験の1つかよ。」
2人はハンターギルドに1つのお願いをしていた。それは既定の年齢に達していないが正式にハンターにして欲しいというお願い。
正式登録できる年齢は15歳、もちろんハンターギルドが規則を破る事はない。しかしこのイナッカのギルドであれば例外が存在した。
それは若年層に対するハンター適性の試験。過去にこのハンターギルドで登録をしようと6歳の男の子が現れた事があった。
しかしハンターギルドは規則を守り取り合わなかった。そして断られた男の子はその足で街の外に出て、森の奥にいるダークパンサーという魔物を狩ってきたのである。
ダークパンサーは別名ハンター殺し。その隠密能力と強力な牙と爪の一撃はベテランの
ハンターでさえ殺してしまう力が在った。
それをわずか6歳の男の子が狩猟した。ハンターギルドはもう一度職員随行の元その男の子に同じ魔物を狩らせた。
そして見事、男の子は職員の目の前でダークパンサーを狩猟したのである。
その後からこのイナッカのハンターギルドでは特例が設けられた。規定に満たない子供がハンターに登録しようとする際に、試験を受け合格すれば正式に登録すると。
これはダンジョンが近くに在り、孤児が多いからこその特例とも言えた。正式にハンターとなる能力が有るのであればそれは立派な労働力になる。
孤児は自立が出来る上に、救済措置で渡される小遣い程度の金銭では無く。しっかりとした依頼料が貰えるようになる。
ハンターギルドは大人が受ける事が少ない依頼を特例を盾に優先的に斡旋する事で、信頼を得るというよく考えられたシステムだった。
ギルド職員がギルドを通して出す依頼という事は試験の1つだと簡単に考え付く事だった。
「でもねぇ。」
「でも?」
「王都の職員みたいなんだよね。」
「なんでそんな人がこんな田舎街に?」
歩きながら頭を捻る2人、しかし答えが出るわけも無く・・・・。
「まっそんな細かい事はいいや。でなんで明後日なんだ?」
グロウスの言葉で考え込んでいたシンクが顔を上げる。」
「それはね、もうちょっとでグロウスの<スキル技>が生えるからだよ。」
そんな事を言い始めた。
「スキル技?」
「そう、アカシックレコードが教えてくれたグロウスの必殺技だよ。」
古今東西必殺技と言う言葉に男の子は胸を躍らせる。この場にいる彼もそれは例外では無かった。
「必殺技か!!それは良いな!!でどんなのだ?」
キラキラとした目をシンクに向けるグロウス。そんな彼に対してシンクは首を横に振って解らない事をアピールした。
「なんでぇ。」
「だってこの世界で初めての発現なんだよ?解るわけないじゃん。」
シンクの言葉に驚いた表情で固まるグロウス。
「この世界で・・・・初?」
「そ、グロウスの持っている<頑丈>みたいに隠れた能力を持っているスキルは使い続けると、そのスキルの特徴を持った技が使える様になるみたい。それが<スキル技>。だけどそこまで1つのスキルを使い続ける人はいないから誰も発現出来なかったんだって。」
シンクはアカシックレコードで得た情報をグロウスに伝える。
「でそれが発現するのが明後日なんだな?」
「いや、明日には出来ると思うよ。で試しの時間も入れて明後日にした。」
ニヤリと笑う親友を心強く思うグロウス。
「やっぱりなんかあるのか?」
「それは分からないけど不測の事態に備えられるなら備えたほうが良いじゃない?」
「まぁそうだな。それじゃあさっさと戻って特訓だ!!今日中に発現して明日は1日使いこなすための検証に使おうぜ!!」
「まぁ出来ない事は無いかな?でも帰ったらまずは手伝いからだよ?」
「それもさっさと片付ける!!」
その後2人は走って孤児院まで戻り、ラブニエルに事の顛末を説明した。ラブニエルにはハンターギルドで貰った依頼料を渡していた。
「駄目じゃ。その依頼は断る。」
2メートルに迫ろうかと言う巨体に、頭髪は無く白いひげを蓄えた緑の瞳の老人。それがアイジー・ラブニエルその人だ。
ラブニエルはハンターギルドで貰った賃金を他の子達に使ってくれと渡してくる2人の事をとても立派だと思っている。
それと不甲斐ない自分の所為で孤児たちに満足な食事が与えられていないという後悔の念も持っていた。
そんな2人が大口の依頼が入ったと笑顔で伝えて来た時に、申し訳なさと2人の心意気に涙まで流した。
しかしその依頼内容を聞いた瞬間。ラブニエルの表情は一変。依頼を断ると2人の話を拒否した。
「なんでだよ!!銀貨3枚の仕事だぞ!!しばらくガキ共が腹いっぱい食えるじゃないか!!」
「そうですよ院長。それに護衛も付きますし、安全は保障されています。」
「駄目じゃ。常々2人には感謝しておる。誰もがやりたがらない下水の掃除も率先して行い、その賃金も他の子に使えと渡してくれている。しかし下水の奥だけはダメじゃ!!」
話を聴く気も無いような院長の目の奥に苦悩が浮かんでいるのをシンクは読み取った。
「何か・・・あったのですか?」
シンクの問いかけに苦悶の表情を浮かべるラブニエル。そして2人の顔を伺い、理由を話さなければ納得しないと理解した彼は。ポツポツと話し始めた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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