第4話
院長に怒られた翌日、2人は孤児院の裏にある林の中に来ていた。ここは普段来る人が少なく、隠れて何かをするには絶好の場所で昔から孤児達の間で隠れ家にしていた場所だった。
「それで昨日の話だけど。」
「おう!どんなものでもどんとこい!!」
孤児院の手伝いが終り今は昼過ぎ、子供達が思い思いに過ごす時間だ。その時間を使ってシンクはグロウスに強くなる方法を伝える。
「グロウスの<頑丈>スキルには隠し要素が在るんだ。」
「隠し要素?」
シンクの言葉に頭を捻るグロウス。
「隠し要素って何だ?」
「えっとね、詳しい事までは分からなかったけど。この世界のスキルの中には隠された能力を持っているスキルが在るんだって。」
シンクの言葉にさらに頭を捻るグロウス。
「簡単に言うと地図スキルと鑑定スキルがそろうと地図上で物を探せたりするんだよ。」
「ほぇ~そんな事が出来るのか。」
スキルの組み合わせで新たな能力が開花する事を知って感心するグロウス、しかし自分のスキルは一つしかない事に思い至る。
「でも俺のスキルは一つだぞ?」
「そのスキルだけで複数の能力を持つ場合もあるんだよ。」
「なるほど、でその能力ってのは?」
グロウスの言葉に笑みを浮かべながらもったいぶるシンク。その顔にちょっとイラっと来たグロウスはシンクに近寄りその首を抱え込んだ。
「おらっ!!もったいぶらずにさっさと吐け!!」
「うえっ!!ごめんごめん!!言うからはなじでぇ~!!」
シンクを解放したグロウスは真剣な顔をしながらシンクに問いかけた。
「その隠し要素?が在れば俺は戦えるんだな?」
「うん、その通り。じゃあ説明するね。」
そしてシンクは鑑定とアカシックレコードで得た情報をグロウスに伝える。
スキル<頑丈>とは
このスキルを所持する人の体を丈夫にして怪我や病に強くなる。
体力を増やして疲れにくくする。
状態異常や精神汚染に対して強くなる。
一度受けた攻撃に対して耐性を得て強くなっていく。
何度も同じ攻撃を受けると無効化する事が出来る。
魔法攻撃も耐性を得る事が出来る。
頑丈になった体はそのまま攻撃に使える。
という事だった。
「つまり俺は修行すればするほど強くなるって事か?」
「そう言う事だね。修行すれば刃物も通さなくなるみたいだよ。」
それを聞いたグロウスはその内容に唖然とした。
「なぁこれって・・・・。ずるくね?」
「ぷっ、まぁそうだね。だって鍛えれば僕の攻撃も効かなくなるんだもん。十分ズルだね。( ̄m ̄〃)ぷぷっ!」
ぽかんとする顔が面白かったのは笑いながら話すシンク。しかしグロウスには1つ腑に落ちないことがあった。
「なぁ、何でこのスキルはハズレなんだ?十分強いじゃないか。」
「それはね、取得する人が少ないっていうのと、隠し要素の事は教会も知らないからだよ。」
「つまりこのスキルの力に誰も気が付かなかったって事か?」
「そうだね。」
その言葉にガックリと肩を落とすグロウス。なぜならスキルを網羅してるはずの神父からハズレだと言われてかなりショックを受けていたからだ。
「どう?強くなれそうでしょ。」
そう言って笑う親友にグロウスは笑顔で返す。
「あぁ、最強になってやる。」
ニヤリと笑うグロウスにシンクは1つ提案をした。
「じゃあこれからは自由時間2人で特訓しよう!!」
「おぉ良いぞ!!シンクもスキルの練習だな!!」
「うんっ!!僕が全魔法と聖剣召喚で武器を出して攻撃するから受けてね。」
「おいおい間違って殺さないでくれよ。」
「それは大丈夫、最初は引っ掻くぐらいで行くから。」
その日から二人の特訓は始まった。午前中は孤児院の手伝い、午後からは林の中で特訓か将来の為に小遣い稼ぎを行った。
小遣い稼ぎにはハンターギルドの救済依頼を使った。この世界にはハンターギルドと呼ばれる魔物討伐を主に受けるギルドが存在する。
長年街の厄介ごとを解決していく中で何でも屋としての地位を確立したハンターギルド。依頼人から依頼と依頼料を預かり、ハンターに依頼を紹介し達成したら報酬を渡す。そのような事業を展開している。
このイナッカのハンターギルドではダンジョンが近く、事故により親を失う子供が多かった。その為、子供達の救済として街中で出来る簡単な依頼を斡旋していたのだ。
様々な依頼を受ける中、予想外に成果を上げたのは下水道の掃除だった。
下水の中には数多くの病原菌が存在していて、中には毒が流れ落ちる場所まであった。その中をグロウスは進み、数多くの耐性をゲットした。
さらには危険地帯の掃除を引き受けるようになった事で、報酬も増え発生していた魔物からの攻撃をその身に受け攻撃に対する耐性も鍛えていった。
シンクも魔法や聖剣を使い下水の危険地帯で訓練を行った。時にはグロウスを的にして魔法の練習も行い。その制御能力を高めていった。グロウスの耐性獲得と合わせて一石二鳥であった。
そんなある日、ハンターギルドの職員からあるお願いをされた。
「下水の奥地の探索・・・・ですか?」
「えぇ、お願いできないかしら?」
「でも僕達まだ子供ですよ?」
普段であれば所属しているハンターにお願いする内容を、孤児の二人に任せるという事をシンクは疑問に思った。
「それがハンターの1人が大事な物を下水の奥に落として来ちゃったらしいの。その場所は子供じゃないと入れない場所にあってね。下水で良く働いている子を紹介して欲しいとお願いされたのよ。」
職員のお姉さんのお願いにどうしようかと顔を合わせる二人。そこにハンターが1人近づいて来ていた。
「お願いできないかしら?私の大事な物なのよ。」
近づいて来たハンターからも懇願される二人。この人が落とし物をした人なのかとグロウスは考え、シンクは注意深く観察を始めた。
ハンターの格好はローブを着て杖を持った魔法使いの様な恰好をしていた。しかしその腰にはナイフが二本刺さっている。髪と瞳は赤い色をしていた。
「えっとあなたは?」
「あぁごめんなさいね。依頼をお願いしたクーリエと言うの。よろしくね。」
二人と握手をするクーリエ。グロウスはその手に違和感を覚えた。そして隣にいたシンクにこそっと注意を促す。
「シンク、気を付けろ。この姉さん何か仕掛けて来た。」
「グロウスも気を付けてね。ただの魔法使いじゃないよこの人。」
こそこそ話す二人を見つめるクーリエはどうしたのかと首を傾げていた。
「それで、依頼は受けて貰えるのかしら?」
「その前に無くした物を聞いても良いですか?」
「あと報酬!!安いのじゃ俺達はやらないぞ!!」
グロウスの言葉に苦笑いを浮かべたクーリエは職員と目配せをした後、目標の物と報酬について話始めた。
「二人に拾って来てもらいたいのはペンダントなのよ。」
「「ペンダント?」」
「そう、赤い宝石の付いた物でね?私の家に代々伝わる物なの。この前下水の魔物退治を受けたときに飛ばされてしまってね。拾おうとしたんだけど狭い場所で拾えなかったのよ。」
「現場を確認したら二人であれば入れる場所なの。だからお願いしたいのよ。」
いつもお世話になっている職員のお姉さんの頼みは聞いてあげたいと思っているが、肝心な事を聞いていないので二人は続きを促した。
「それで報酬はいくら?」
「報酬は銀貨3枚よ。」
「「銀貨3枚!?」」
この世界の通貨単位はルード、銭貨10ルードから始まり半銅貨50ルード、銅貨100ルード、大銅貨1000ルード。半銀貨5千ルード、銀貨1万ルード、大銀貨5万ルード。となる。
金貨だけは扱いが違い、半金貨10万ルード、金貨は100万ルード、大金貨は1000万ルードとなる。
普通の一家が一月暮らす為に必要な金額は月1000ルードと言われている。孤児院の子供達の数を考えると銀貨3枚は10ヵ月分の生活費になるのだ。
「「受けます!!」」
この時二人の目にはお金のマークが浮かんでいたという。
「ふふふ、えぇそれじゃあお願いするわね。」
こうしてグロウスとシンクの二人は下水道で無くし者探しの依頼を受けるのだった。
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