第3話

僕はクーリージス・シンク、孤児院で生活している孤児だ。


僕には秘密がある、それは転生者であるという事。ある日交通事故によって死んだ僕をこの世界の神様が拾い上げ、世界を救って欲しいとお願いされた。


始めは驚き、そして慌てた。地球と呼ばれるこの世界と別の世界で何も出来ず、何者にもなれなかった僕が世界を救う勇者になって欲しいとお願いされたから。


でも神様の必死な表情とこのままだと多くの命と一緒に世界が滅びると聞いて決意した。


肉体はすでに滅びているから生まれ直す事になると言われ、僕は下級貴族であるクーリージス家の3男としてこの世界に生まれた。


見るものすべてが新鮮で、僕は色々な事に手を付け始めた。特に力を入れたのは魔法。魔素と呼ばれるこの世界特有の力によって起こされる現象に僕は夢中になった。


動けるようになってからも、父の書斎に勝手に入り込み本を読みふけった。知らなかった事を知るたびに新たな発見があり、嬉しそうに本を読む僕を両親は暖かく見守っていた。


若干2歳にして文字が読めると知られた時は神童とまで呼ばれ、両親の親戚や祖父母に将来が楽しみだと言われた。


そしてあの運命の日・・・・。そう、僕が3歳になったあの日。僕は自分の秘密をこの世界の両親に打ち明けた。


受け入れて貰える自信はあった。両親は何でもできる僕を褒めたたえ可愛がった。兄さん達も僕に負けていられないと笑って努力していた。


だから話してしまったんだ・・・・。そして状況は一変した。


実の父からは気持ち悪いと距離を置かれた。自分の子では無いと言い放った母は泣き崩れ人が変わったように暴力を振るうようになった。兄達は自分達が負けた理由を僕が転生者だからと結論付け、努力する事を止めてしまった。


その日からは物置で暮らす事になった。食事は最低限、出されない事もあった。


そして5歳になった日。僕は兄達によって遠くの街のスラム街に捨てられた。


兄の足に縋りつく僕に兄は言った。


「これは父上と母上の命令だ。化け物を捨てて来いってな!!」


そう言って僕を蹴り飛ばした兄の顔は笑っていた。


たった5歳の子がスラムで1人生きていけるわけがない。上等な服を着ていた僕はあっという間に住人に身ぐるみを剥がされ、奴隷にされそうになった所で逃げ出した。


スラムでの生活は過酷だった。安全に寝る場所も無く、気を抜けばいつ奴隷商に連れていかれるか気が気では無かった。


いつもスラムの闇の中から自分の事を狙っている人が居る。そんな幻覚にまで悩まされるようになった。


人から物を奪い生活する事も考えたが、出来なかった。僕はスラムに生息している鼠を捕り、それを焼いて食べて生活していた。


そんな生活で体力はどんどんと失われて行った。そしてとうとう僕は歩くことも出来なくなり、1人スラムの隅で座り込んでしまった。


あぁ、僕はここで死ぬんだ・・・。神様・・・ごめんなさい。


生きる事を諦め、僕は神様に謝罪した。世界を救って欲しいというお願いを叶える事が出来ないと。


そんな僕を助け出してくれたのはグロウスだった。


スラムの隅で座り込んでいる僕の目の前にぬっとパンが差し出されていた。顔を上げた僕に目の前の、茶髪の僕より体が大きくて緑の目をした子供が立っていた。


「腹減ってんだろ?これやるよ!!」


笑いながらパンを差し出す彼の背中には小さな背嚢が背負われていて、その中からもいくつかの食料が覗いていた。


僕は、すぐにそれを受け取らなかった。このスラムでは人を信じた奴から食い物にされて消えていく。たった半年暮らしただけだったけれど、僕はスラムの掟をその身をもって知っていた。


「・・・・・いらない。」

「大丈夫だって!!毒とか入って無いし、見返りなんて求めてねぇから!!モグモグモグ、ほらなっ!!」


そう言って彼は手に持ったパンの端をちぎり自分の口に入れた。それでも僕は懐疑的な目を彼に向けていたと思う。でも彼はそんな事を気にもしていないような笑顔で僕の事をじっと見ていた。


「どうして・・・・。」

「助けるのかってか?そりゃ気まぐれだ!!」

「気まぐれ?」


笑いながらそう言い放つ彼に僕は目を見開いた。


「今日は仕事にありつけた!!駄賃も弾んでもらった!!食料も安くて沢山買えた!!そしたら子供が死にそうな顔で座ってる。これはこいつを助けろって神様が言ってるみたいだろ?」


その言葉に僕は息を飲む。あの神であれば実際に人を誘導するなんて朝飯前だからだ。


「・・・実際その通りだったらどうする?」

「ん?実際にその通りだったら?お前面白いこと言うなぁ。そんときゃあれだ。神様に駄賃を貰うさ。」


またそう言って笑いながらパンを突き出す彼。そのパンからは久しく忘れていたおいしそうな匂いが漂って来ていた。


「食べないのか?」そう彼の目は語っていた。僕はいつの間にかそのパンを手に取っていた。


「まずは食え!!これから生きるんだったらまずは飯だ!!」


彼も僕の隣に座り一緒にパンを食べる。他にも干し肉やチーズを分け合い食べた。食べながらお互いの事情を話し合った。もちろん僕が転生者という事は話さずに・・・・。


「ほえ~そうか、お前捨てられたのかぁ。まぁそんな綺麗な金髪に青い瞳してっからどっかの偉いさんの子かなとは思ってたけど。」


この国で金髪碧眼は貴族家に多く見られる特徴だ。この国を興した王様がこの特徴を持っていて。王様の血を多く分けた結果、貴族達にこの特徴が表れやすくなった。


それから金髪碧眼は真の貴族の証とされる様になった。ただ、平民にも時たま現れる特徴だからそこまで優遇される事は無いが。それでも権力の象徴としてその特徴を持つ人間を利用しようとする者は多く居る。


「君はどうしてここに?」

「俺はグロウスってんだ。俺は一緒に暮らしていた母ちゃんが死んじまって一人で生てる。」

「それは・・・お父さんは?」

「あん?親父なんて居ねぇよ。母ちゃんは娼婦やってたんだ。そんで病気貰ってぽっくりさ。身よりもねぇからここで暮らしてんだよ。」

「・・・・ごめん。」

「なぁに謝ってんだよ。死んじまったもんはしょうがねぇよ。それに俺もお前も生きてる。生きてりゃなんでも出来るさ。俺は絶対凄い<スキル>を貰ってこんな所からおさらばしてやるんだ!!」


そう明るく言う彼の目は希望に溢れていて。今の僕と違う彼はとても眩しく映った。


「う~ん、これも何かの縁って奴か?よっしゃ。お前俺と一緒に暮らすぞ!!」

「えっ!?突然何を・・・。」

「いやぁ、母ちゃんからの遺言で人との出会いは大事にしろって言われてんだ。丁度ここで1人でやって行くのに苦労してたし、お前も1人なんだろ?だったら2人で協力して生きて行こうぜ!!そんで強力な<スキル>を貰って世間を見返してやるんだ!!」


その言葉に、久しく掛けられていなかった優しい言葉に僕の心は温かくなった。こんな場所で助け合いを言い出すなんてなんてお人好しなんだろうとも思ったが。


これまでの話で彼が人を騙すような者では無いと思っている。


それに僕自身も彼を信じたいと思ってしまっていた。神に誘導されているならそんな事は起こり得ないが、それでも僕の事を心配してくれている彼に騙されるならそれはもうしょうがない。


それにこんなお人好しが人に騙され塞ぎ込む所を見たくなかった。僕なら、前世の記憶がある僕なら彼を助ける事が出来る。


しばらく考え込んでいた僕は彼が出した手を握る。


「僕はシンク、よろしくね。」

「おう、よろしくな!!」


その後彼を鑑定して、彼の夢が叶わないと知るのは大分後。孤児院に来て生活が安定してからだった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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