第10話
「大灯国の密偵の件、いかがいたしましょうか?」
「把握している分だけで十分」
大灯国に最も近い異国『アーク帝国』の帝都のとある場所のとある部屋。
壁際を覆い尽くす古今東西の書籍の一冊に目を通す男は執事服の男に告げる。
とは言ったものの、島国一つ支配するのにこれだけの手間を要するのは僕達の本望じゃない。
手元にある大灯国から取り寄せた書籍の写本を眺める男は慣れない縦に綴られた文字を読むことの煩わしさと大灯国を守護する者らの姿を重ねる。
拠点は十分増やしたがそのどれもが奴らに知られている。
それに密偵が増えてしまえば協力者に気づかれる。
いや、もう既に気付かれているのかも。
『ポーション』も劣化版とはいえ研究しつくされる前に全在庫の回収は済ませておこうかな。
「・・・一ヶ月以内に灯先を落とそうか」
「協力者はどうしましょうか?」
主の考えを読み執事は先の話する。
「そうだなー。あの島には得るものは殆どなかったし、目的は本土の方だから・・・灯先の護守人共は皆殺しだね」
「かしこまりました。護守人達の武器と装備については回収、ということでよろしいでしょうか」
「うん。そうしよう」
男はスッキリとした表情で書籍を閉じ天井に目を向ける。
天井に描かれた大きな世界図の陸地の一部は灰色で塗りつぶされている。
まだ塗りつぶされていない陸地の中でも特に小さな右端の島へ視線をやり鼻で笑いながら男は手を伸ばす。
そして、にやりといやらしい笑顔を覗かせる。
ここは異世界なんだ。
僕に敵う者なんているわけがない。
―――あぁ、楽しぃなぁ。
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