第9話

「何を考えておられるのでしょうか・・・」

「彼なりの考えがあってのことだ」


 八家の一家、円城路家の兄妹は鉄道に揺られている。

 妹であり副官のまどかがポツリとこぼすと兄の蓮太郎は車窓の向こう側に並ぶ建物の合間から僅かに見えた本部に目を細める。


 灯先が独断で『カルミア』へ密偵を送っていた・・・。


「彼なりの考え」か。


 灯先、異国に最も近いあの島を守護することにお前は誇りを持っていると言っていた。

 一体何を考えている。


「・・・ふぅ」

「?」


 息をこぼし視線を目の前に移すと、まどかは疑問符を浮かべなら蓮太郎を見つめる。


「そういえば・・・」

「何でしょうか?」

「また佐倉に声をかけそこねたな」

「っ!?それは言わない約束ですっ!」


 蓮太郎から思いもよらない言葉をかけられたまどかは肩を上げて少し顔を赤らめながら先程までとは全く違った表情を見せる。


「ハハハッ。いや、悪かったっ」

「会議中もそうですけど終わってもあんなふうに瞑想続けられてたら話しかけることなんてできませんよっ」


 毎回あの部屋で会うたび、会議中は副官に全て任せ「俺には関係ない」と一人で妖力を練り続けていた九郎をチラチラと見ていた妹の気持ちに兄が気が付かないわけがない。


「すまない。でも俺は応援してるぞ?」

「また、そうやっておちょくらないで下さいっ」


 御歳二十六歳を迎え未だに独り身の蓮太郎にとって、十個下の妹と過ごす時間はとても安らぐものなのだ。



――――――



「く、九郎様」


 小さく声を漏らすと彼は立ち止まる。

 そして、少し曲がった背を伸ばすことはなく首をわずかにひねり菜月へ視線を送る。


 会議中も我関せずと妖力を練り上げていた九郎の全身から常人では制御できないほどの妖力が漏れ続け煙草のようにゆらゆらと立ち上がって薄れていく。

 

 怖い。

 だけど、やっぱり憧れてしまう。

 九郎様が戦うところを一度だけ見たことがある。


 まさに「斬り捨てる」という言葉が似合う戦い方だった。


「かぁ〜っ。痺れるねぇ〜」


 菜月や海月と永舟とは違い燕は額に手を当てると赤黒い瞳を九郎へと向けながら口角を上げる。


「九郎〜。次もよろしく頼むぜぇ?」


 燕の言葉に九郎は顔を少し伏せて目元を隠しながら無言でこちらへ歩いてくる。


「・・・よろしく」


 すれ違いざま、小さく返すと九郎はスミレら四人を引き連れて去っていった。


「何々、菜月ちゃんビビっちゃった?」

「う、うるさいですね」


 相変わらずヘラヘラと笑顔を浮かべる燕は「じゃぁアタシらも帰るわ」と告げてその場から去っていく。


「では、御二方。失礼します」


 律儀にこちらに頭を下げる永舟へ海月が「は、はい」と返事をすると、永舟も燕と共に去っていく。


「海月。私達も帰りましょう」

「菜月大丈夫?」


 菜月の顔を伺いながら海月は背中をさする。


「うん。大丈夫よ」


 九郎様や他の執行部長達と顔を合わせるたびに思い知る。


 私はまだまだ未熟なのだと。

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