第8話

「九郎さん。終わりました」


 会議が終わり各所の執行部長達が退室していく中、一人座ったまま全員が退室していくまで無言を貫いていた九郎へスミレは声をかける。


 お、終わったか・・・。


「・・・よし。帰るぞ」


 ようやく、ようやく帰れるぞ。


 だが、九郎は相変わらず浮かない顔であった。


 席を立った九郎はトボトボと扉の方へ向かう。

 

「報告は鉄道の中で宜しいですか?」

「あぁ」


 どうせ鉄道の中では暇だし、ってか・・・絶対何か押し付けられてるじゃん。

 歩きながらでもいいのにわざわざ鉄道の中でって・・・はぁ。


――――――


 本部から出ると大通りまで続くレンガ畳の道に一人の少女の声が響いた。


 声の主は茶原の執行部をまとめる茶原菜月だ。


「待ってくださいっ!」


 私は火ノ杜燕が嫌いです。

 

 大灯国八家が一家の人間としての自覚なんてあるとは到底思えませんっ!

 他にも―――あぁっ!理由なんて上げればキリがありませんよっ!!


「んぁ?ありゃまぁ菜月ちゃんじゃないのー。どったの?」

「今日の会議のあれはなんですかっ!」


 燕は会議のときと同じように視線をゆらりと菜月へ向ける。


「あれ?あれあれ―――あれ?」

「あぁっもうっ!!私が衣弦さんに注意される前に燕さんが言った言葉ですよっ!!」

「あぁ〜あれかぁ〜」


 燕はクスクスと笑いながら黒髪をいじる。

 

 この人わざとやってるんじゃないですかっ!?


「ッ!」

「あれれぇ、顔が真っ赤だぞな、つ、き、ちゃ〜ん」

「あーもぅ!私を子供扱いしないでくださいよっ!もう17歳なんですよっ!!」


 この人何なんですかマジでっ!!

 


「おたくの頭は元気ですねー」

「あ、アハハ・・・」


 菜月と燕の副官二人は先程から一方的に突っ掛かってはヒラヒラと躱されている菜月を眺める。


 菜月の双子の妹である海月みつきは、見た目こそは姉と似ているが彼女の瞳からは姉とは違うか弱さが垣間見える。


「副官の私が言うのもなんですが、菜月と燕様はどうやっても相容れないと思います」

「燕姉さんは菜月様をちょっとおちょくっているだけなんですけどねぇー」

「ちょっと、ですか・・・」


 やっぱり燕様の弟なんだなぁ・・・。


 海月の隣で表情こそあまり変化しないが燕とよく似た目元の少年は絡まれている姉をぼーっと眺めなる。


「あ、そうだ。菜月様に送って頂いたお茶ですが、姉さんえらく気に入って毎日「うめーうめー」言いながら飲んでますよー」

「そ、それは良かったです」


 あれ?送って頂いたって・・・あぁ、あれか。

 

 最近、菜月がなにやらソワソワしていたのはこのことだったんだ。


「おっ、そういやあのお茶美味かったよ~」

「むっ!?そ、そう?」

「大マジ!いやぁまた送って欲しいなぁ〜なんて」

「フフッ、フハハッ!茶原の茶は灯ノひのもといちよっ!!いいでしょう!また送ってあげます!!」


 土地の名産品を褒められたことが余程嬉しかったのだろう。

 菜月は勝ち誇ったように腕を組んで高笑いをしている。


「海月さん・・・」

「な、何も言わないでください・・・」

 

 永舟は菜月から視線を海月に戻す。

 み、見ないでー。

 恥ずかしくて、何を言われても何も返せません。


「おやや、九郎じゃないの〜」


『!?』


 燕が手を上げて本部から出てきた者らの一人の名を呼ぶ。

 その場にいた四人の視線が一人の男に集約される。


 たまたま帰宅途中に通りかかっただけの浜渡の執行部長佐倉九郎とその一行であった。

 

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