第3話

 鉄道に揺られながら山を超えておよそ四時間。

 降りた九郎達は浜渡と比較にならないほどの大都会の大通りを進んでいた。

 何故かスミレや他の部下が前を歩く格好で連れられたまるで島流しにされる罪人のような顔をした九郎はため息をこらえながらトボトボと後ろを付いていく。


「頭・・・そんなに気乗りしませんか?」

「あぁ全くそのとおりだ大黒だいこく・・・お前さ顔厳ついし代わりに出てくれよ」

「いやいや。「知らんやつが来た」って騒ぎになりますぜ」


 ですよね。

 わかってんだよ。

 でも、ちょっと代わってくれるんじゃないかって期待してんだよ。


 異国調査局本部。

 本部というのだから『執行部』や他の部所を統括する偉いさん達がうじゃうじゃいる所だ。


 大黒は巨体に乗っかるスキンヘッドをさすりながら申し訳なさそうだ。

 

「今朝の件ですかねー。でも俺ら何も悪いことしてねーっすよね?」


 整った顔立ちからは考えられないほど軽い口調で真純ますみは隣を歩くスミレにたずねる。


「このタイミングで予定にもない召集令。間違いなく今朝の件ですね」


 お付きの四人の後ろを付いていく九郎の顔はどんどん陰りを見せる。


「各所ほっぽらせて執行部長を呼びつけるなんて、上もらしくないことするもんだぜ」

「どの道行けば分かる」


 大黒の言葉にかぶせるように短く呟いた紫桜しおうは淡白な視線で目前にある本部を見つめて腰ほどまである紫の髪歩を進めるたびに僅かに揺らす。


 お付き四人が頼もしい背を向けてくれるが、当の本人はやはり乗り気になれずにいた。


 もう、俺抜きで君ら四人で行ってくれたほうが絶対いいと思う。

 毎回あの会議参加してて思うけど、話よめなくて眠くなるんだぞ。

 寝たらみんなに迷惑かけるから意地でも寝ないようにはするけどさぁ・・・はぁ。


 だいたい、今朝の件ってどの件よ?

 強制執行以外だと『カルミア』のことか?

 あんな末端の雑魚集団を捕まえても何も出てこねぇだろ。

 他になんかあったか?

 

 考えるのが面倒になり相変わらずの虚無状態で浜渡所なんか比べ物にならない横にデカい本部を眺める。


「では、参りましょうか」


 心の中でひたすら愚痴りながら、九郎は隊服のポケットに手を突っ込んで、今日何度目かもわからないため息を堪えながら歩き出す。

 

 行きたくねぇ・・・。



 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る