第2話
大灯国の西岸唯一の交易都市『
ここでは毎日異国から物資を運ぶ船と大灯国の物資を異国へと運ぶ船が往来し大灯国各所にある灯ノ下の玄関の一つとして賑わいを見せている。
この国の国民性も相まって、昼夜問わず都市の中央から灯りが消えることはない。
つまり、何が言いたいのかというと少なくともこの都市の者達は働くことが生き甲斐なのだ。
異国風の建物がびっしりと並ぶ役人区の一角に『異国調査局 浜渡所』と人丈ほどの木札が掛かった建造物の二階の一室。
「・・・・・・」
椅子に背を預けて低くも高くもない天井をぼーっと眺める。
んーーーーーー。
あーーーーーー。
この体勢になってもう一時間くらいだろうか、途中からボケーッと口を開けたまま九郎は虚無に浸っていた。
まったくこの都市の人間とは思えないほどに活力の全く感じられない。
目元のクマより小さいんじゃないかと思うほど虚ろな瞳で九郎は怠を垂れ流す。
そう、何も考えたくなかったのだ。
あーーーーーー。
あーーーーーー。
あーーーーーー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・×・。
そんなことだから、部屋の扉が開いて部下が入ってきたことにも気がつくはずもない。
「九郎さん」
「なんだ?」
声が耳に入った途端、九郎はすぐさま天井から視線を外す。
副長のスミレはいつもどおり九郎が気が付くまで扉の前に無言で待つ。
「・・・総代より各所執行部長に召集令が出ております」
「ンン・・分かった」
九郎は絞り出すようにスミレに応えて立ち上がる。
はぁ、ガチかぁ。
行きたくねぇよぉ。
ただでさえここんところ休み無しの強制執行祭り。
何の用だよ・・・ったく!!
トボトボと無駄にデカい仕事机から回って掛台にある二本の刀を手に取り、一息ついてから接客用の椅子にかけていた隊服も手に取る。
「九郎さん」
「何よ」
「面倒なのは分かりますが、必要なことです」
見た目と透き通る声は歳相応なんだけど、本当に年頃の女性なのかと疑いたくなるくらい圧がすごい・・・。
「へ、へい」
「では行きましょう」
はぁ、まだ朝の十時ぐらいだぞ?
何かあるなら二日前までに知らせとけよ・・・。
なんの集まりだよ・・・。
なんの話をするんだよ・・・。
あそこ嫌いなんだよ・・・。
口にさえ出さなければ何を言っても大丈夫だと分かっているから心中では言いたい放題である。
他の執行部の
だいたい何だよ「総代」って。
局長でいいだろ。
ぶつくさと思ってるものも、扉を開けてくれたスミレに礼を言いつつ部屋から一歩出る。
廊下を歩いているとすれ違う浜渡所の職員らは頭を下げる。
しまいには一階の玄関口に差し掛かると職員達が手を止めて頭を下げだす始末だ。
「そんなことまでしなくていい」
静寂に包まれた正面口に九郎の細い声が響く。
「毎度のこと御配慮していただきありがとうございます。しかし、浜渡所に務める一同、頭を下げる相手くらい己で見極められます故・・・」
「我々の忠義を受け取ってくださいませ」といつものやり取りだ。
ぐぐっ。事務長のおばさんめ、いつもいつもいつも全然言う事聞いてくれない・・・。
なんだよコレ・・・俺があんたらに何かしてあげたか?
この職に就いて気がつけば、いつの間にか職員は増えてるし、全員が「馬鹿かよ」ってくらい朝から深夜まで元気に働いている。
こえーよ。
死にに行くのかと勘違いしそうな程の浜渡所総出のお見送りを貰った九郎は正面に停めてある車の後部席に身を預ける。
何なんだよあの人たち。
あんたらが遅くまで働いてるのは、闘う以外基本何もしてねぇ俺への当てつけか?
まぁ、最近闘ってすらいねぇけどさ。
以前に一度だけ、深夜に働いている職員たちに帰宅するよう促したことがあった。
だが、事務員たちのバッキバキの目と貼り付けた笑顔に跳ね除けられた事がトラウマになってしまった九郎は彼らが理解できずに申し訳なく感じてしまいそれ以来まともに寝付けたことがない。
そもそも、仕事探してもねぇんだよ・・・。
部屋の片付けは出勤したら誰かがいつも終わらせてるし、重そうな荷物を持ってやろうとしたら逃げられるし、「何かやることありませんか?」なんて部下に聞けるわけねぇし。
あぁ、もう嫌だ・・・。
そんな事を考えながら車に揺られていたら駅までは一瞬だった。
――――――
作者です。
自分で言うのもあれですけど、この主人公面白いですね笑
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