能ある鷹は爪を隠す笑
第1話
あっちの世界の皆、この世界舐め過ぎだろ。
剣と魔法の世界で愉快な仲間と冒険ごっこ?
貧しい家に生まれたが持った才能で下剋上?
今の俺を見てそんな甘いこと言えるやつ絶対おらん。
転生ならまだしも召喚。
召喚された瞬間から一文無し。
しかもパジャマ。
ただのファンタジーに憧れた人間に何ができる?
召喚先が浅い洞窟の底だったことだけが幸いだった。
壁にその辺の石ころで陽の入を刻み、陽が昇って落ちのるを30回繰り返した。
その間、洞窟だけは死守せねばと、まったく土地勘も無い、何がいるのかもわからん洞窟の外に出てはその辺の枝やら草やら食えそうなものを片っ端から拾い集めては持ち帰った。
食い物は不味い何種類かの木の実を石で潰してドロドロにしてから無理やり流し込んだ。
何日か適当な間隔を開けて雑草を潰しながら道をつくる最中見つけた小川のお陰で水は確保できた。
二、三日に一回だけ朝陽が昇る直前に走って小川で顔と下半身だけ洗って水を飲んだ。
もし、洞窟に何かが来たときのため洞窟入り口から大股で五歩くらいの位置に穴をほって、足止めくらいにはなってくれてと思いながら、拾い集めた固い枝を踏み折って天井に向けた状態で埋めた。
その場の思いつきだけだったが、どうにか生き繋ぐことはできていた。
偶々サバイバル知識なんて持ってるわけなんてない。
火は起こせないから寒いしそのせいで寝られない。
だから、外に出られる少しの間、全力で動き回って疲労をためまくっていれば寝れないかとも考えたが無理だった。
あぁ、思い出すだけで気が落ちる。
奴隷みたいになったり、戦働きさせられたりしてなんやかんやあって今は職につけてる。
死と隣り合わせのイカれた仕事だけど。
まぁ、死ぬ気は一切ないけど。
あの時とは違う。
救い救われ今の俺は一人ではない。
朝陽の昇る一時前、小勢からなる精鋭たちに油断は一切なくそれぞれがその時を待つ。
皆々、理解しているのだ。
己が死地に向かい、己が闘う。ということを。
少年の面影が消えた二十二歳を迎える彼の後ろに控えた猛者らは目前にある目標へ彼と共に歩を進める。
「何者だっ!止まれ!!」
優雅な外観を貼り付けた大豪邸と、門番・・・という職名と整った装備、そして高給を身に纏った憲兵の成れの果て。
精鋭達を従えた先頭に立つ男は、門番の言われるがまま立ち止まる。
「き!貴様ら!夜ふけに何用だ!」
「喧嘩腰かよ」
「愚行」
控えるうちの二人が呟くが、その声は慌てて抜剣をしてしまった門兵には届かなかった。
呆れる者もいたが、銀髪の女性が二三歩踏み出すと静まり返る。
「夜ふけに失礼する。異国調査局執行部の者である。この度、アレックス商館は大灯国指定違法取引ギルド『カルミア』の末端組織として認可された」
「はっ!!その印っ!!!貴様ら護守人かっ!!」
この門番、話を聞いていない。
しかし僅かに残っていた思考を巡らせたのだろう。
彼らの正体に気がついた門番の焦りの表情は限界を超えたのか怯える顔となり硬直してしまう。
精一杯の抵抗ってところか。
情けない。
こんなのが異国で騎士とか言われていた奴らなのか?
「・・・ええ。そうです」
「くそっ!ボスに伝えなければっ!!」
おぉ、命乞いをせずに雇用主の元へ行くとは・・・駄犬だな。
「矢二郎」
「うっす」
俺の声に即座に返事をした少年が術式の刻印により強化が施された術具を構える。
「スミレ続けろ」
「国土守護令その他関係法令に基づき強制執行を行う」
スミレの口から決まり文句が〆められた瞬間、銃声はなかったが背を向けて走る男は突如として身を跳ねバタリと顔を伏せ倒れる。
かつて東の小国に招かれた異国の使節団により伝えられた技術がこの国を大変させた。
技術革新は『近代化』と呼ばれ人々の生活は飛躍的に向上していった。
しかし、大抵の物事には裏表が両立してしまう。
人が近代化の『表』で幸せになれた一方・・・倫理観の違う異国人の一部はこの国における決まりを無視し、『裏』を持ち込むのだ。
その『裏』からこの国、大灯国を守護する為、政府は国土守護令とそれに付随して各種法令を発令。
そして、国土守護令等に基づき治安維持組織『異国調査局』を主要都市に設置した。
今ここにいる彼らも『異国調査局』の一員だ。
『強制執行』と呼ばれる業務を執り行う彼ら『執行部』は身に纏う『執行服』に刺繍された護守印を胸に合図を待つ。
「陽が昇るまでに終わらせる。行くぞ」
先頭の青年の合図により彼らの静寂が崩れ、それぞれがそれぞれの闘いに向かう。
この日、奴隷売買及び危険薬物売買等を行うギルド『カルミア』の末端組織アレックス商館の各拠点にて物資その他、奴隷及び商館館長の男と各拠点責任者以下従業員までが強制執行の対象となり身柄拘束、差し押さえとなった。
強制執行の最中、部下たちに全て任せ仁王立ちっぽく突っ立って事の行く末を見つめるだけの青年は思考を止めない。
お、おかしい。
部下の手前だしカッコつけてはいるけど、俺こんなキャラじゃねぇーよ・・・。
地獄から抜け出せたと思えばまた地獄。
その地獄がよーやっと終わったと思えばまた地獄。
どこに行っても血を見る羽目になる。
やばい、まじでやばい。
呪われてるだろ俺。
こ、こえーよ・・・。
極道やマフィアなんて目でもない奴ら相手にこんなことしてたらまじで背後から刺されるぞ?
誰か助けてくれよー。
あぁ、殺りたくねぇ。
けど・・・殺らないと解雇されちまう・・・。
まじで、どこで間違った?
どうしてこうなった?
あぁ!!サブキャラみたいにのんきに暮らしていこうと決めたじゃないか!!!
物語を記す身である私からすれば多分、佐倉九郎――君がこの世界に来てしまったことがそもそも間違いだ。
そして時は少し進み陽も昇りきった十時から始まる。
――――――
どうも作者です。
簡単に説明すると、色々とあって訳アリ設定になってしまった主人公が奮闘する話です。
だいぶ前にラブコメ投稿してたんですが、ネタキャラ多すぎて挫折したので、今度はファンタジーやってみることにしました。
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