異世界サブキャラ物語〜頑張ってサブキャラになろうとしたら歴戦の猛者になってた男の話〜

東ノ山

想いと力を繋ぐ刀

「親父っ!!!」


 膝に大きすぎる血のシミがつくられていくことに恐怖を覚えたからか、普段は寡黙な少年は極大の涙を溢しながら腕の中で今にも息絶えそうな男に怒鳴る。


「は、ハハ。初めて、呼んでくれたな」


 男は息子と呼ぶことにした少年が落とす涙が頬を伝っていく感覚にすら気付けない。

 が、息子が初めて発したその言葉に小さい言葉で応える。


「これから何度だって呼んでやるよっ!!だから死ぬなよっ!!おいっ!!」


 少年にも大人を抱えて動けるほどの体力はなく、ただただ叫ぶことしかできない。


 まだだっ!!

 頼むよっ!!

 生きてくれよっ!!


 街は火の海となり、家の中でも指折りの強者である部下たちは皆倒れてしまった。

 この惨状で助けがすぐ来るわけがない。 


 少年も自身で分かっているが祈ることしかできない。


 い、嫌だ。

 俺はまだあんたに・・・。

 何も返せちゃいない・・・。

 

 一人になりたくない・・・。

 

 消えることのない火の海は、少年の心をジリジリと燃やし始める。


「駿。よく聞け」

「は?な、何いって・・・」

「聞く、んだ」


 腕の中で血を流す父は最後の時に向かって備えるように血の気のない薄い顔で必死に訴える。


「お前が・・・『九桜九郎』を継げ」


 瞬間、それまでの風景は少年の視界から消え去り吸い寄せられるように少年の小さな瞳は男の目のみに向かう。

 

 あぁ、そうか。


「いいか―――俺達は、桜、だ」


 何度も聞かされた言葉。

 だから、この言葉は忘れちゃいない。


「分かってる」


 救ってくれた。

 飯を食べさせてくれた。

 生きる道を示してくれた。

 大好きな親父の言葉だ。


 涙が溢れぬように唇を噛みしめ目を瞑る。

 

 終わりじゃない。 

 新たな始まり。


「ぁ・・・ぁ―――」


 息子から返ってきた一言に安心した男は、か細いを上げるとそれを聞き逃さぬように少年は父を抱き寄せる。

 閉じた目と口の隙間から漏れる涙と声を誤魔化すように笑う。


 ―――愛してる。


―――――


 もう動くとはない父の腰に下がった二本の刀を取をかける。

 その瞬間、体中を今まで感じたことのない何かが満たしていくのを少年は感じる。



 ―俺達は『桜』だ。早く散る運命にある。だから、『九桜』の宝である『名』と『刀』を大切に継承してきた。

 ―じゃぁ、なんでそのお宝は『亡霊』なんて物騒な名前で呼ばれてんだよ。

 ―まぁ、確かに他人から見れば物騒極まりないかもしれんが・・・

 ―俺も他人だからそう思う。

 ―いやいや、駿は俺が拾って息子にしたから立派な身内だぞ。

 ―げ、マジかよ。

 ―ハッハッハ!!いいか?これは俺たち『九桜』を見届けてくれる大事な家族だ!お前がもしも『九桜』と『九郎』を継ぐときが来ればわかる!!

 ―分かりたくもねぇよ。てか継ぎたくねぇ・・・。



 刀から流れてくるのは、若くして散っていった歴代『九桜九郎』たちの何にも替えられない大切な記憶。

 そして、『九郎』に注がれてきた彼らの温もり。


 少年はかつて父に教わったように、刀を抜き刃筋を指に当てる。


 俺は、一人じゃないんだ・・・。


 わずかに滴る血が『九郎』の刀身に注がれ、幾人もの記憶の声が重なり一つの言葉になる。


 ―――共に歩もう。



 

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