悪魔に魂を売った男たち
つい先ほど、『島の館』から放たれた眩い閃光を見た後から、ジェラルド伯爵は浮かない顔をしていました。
部屋から人払いをし、ただ壁に掛けてある肖像画を見ながら、ずっともの思いに耽っていたのです。
しばらくすると、屋敷の一階から聞き覚えのある乱暴な騒ぎ声が聞こえてきます。
使用人たちは必死に制止しているようですが、全く聞く耳を持っていないようです。
「眠てーこと言ってないで、さっさとこいつの親父に会わせやがれ!!」
下品な罵声をまき散らしながら、扉を蹴り飛ばしたのはアレックスでした。
アレックスは縛り上げたグレンの首根っこを掴んで、部屋の中へ放り投げました。
「と……父さん! 助けてよ、この下賤な輩が僕に!!」
グレンは伯爵に助けを求め、ジタバタともがきます。伯爵は呆れた様子で顔をしかめました。
「おやおやアレックスさん、これは穏やかではないですね。息子が一体何をしたのですかな?」
「あーん? このド変態息子が島で何をやっていたのか、あんたも知らなかったわけじゃねーんだろ?」
伯爵はわざとらしく肩をすくめ、自分は知らぬ存ぜぬといった態度をとります。
少し時間をおいて、アレックスの後ろからノエルが入ってきました。伯爵が困った様子でノエルに問いかけます。
「これはノエルさん、あなたのお連れが少々ご乱心のようだ。ノエルさんからも何とか言って頂けませんかね?」
しかし、ノエルは伯爵の言うことには全く聞く耳を持ちませんでした。
それどころか、手から魔法で大蛇を出して伯爵を睨みつけます。大蛇はノエルの肩に乗って、伯爵に跳びかからんと様子を伺っていました。
「『サーチ・アンド・デストロイ』……本来は間者をさがし出す魔法ですが、拷問にも使えます……」
「ほう、その蛇で私を拷問しようと?」
「本意ではありません。ですが、『島の館』で何があったか全てを見てきました。これ以上罪を重ねるのはおやめ下さい」
平静を装っていましたが、ノエルは怒っていました。彼女が本気だと感じとったのか、伯爵は溜息を吐いて再び肖像画を眺めます。
「いいでしょう……確かに私は、息子とモリス会長の子供への感心できない趣味を知った上で、二人の要望する難民政策を行っていました……」
「わからないんです。いくら息子の頼みだとはいえ、『島の館』に興味のないあなたが、危険を冒してまで何故こんな非道を黙殺したのかが」
「そのことですか……ノエルさん、この絵に描かれているのが誰だかわかりますか?」
「……はい? 存じ上げませんが」
伯爵が眺める肖像画に描かれていたのは、少しグレンに似ていましたが、彼とは違い軍服を着て凛とした青年の絵でした。
「グレンには五つ上に兄がおりましてな、聡明で至誠のある自慢の息子でした……」
「もうお亡くなりに……?」
「もう十年以上前になるでしょうか。私と息子は隣国との戦に出兵して、戦場で息子は私を守ろうとして帰らぬ人となりました」
「もしかして、その息子さんを?」
「はい、モリス会長から子供を大勢生贄に捧げれば、死んだ息子を黄泉の国から呼び寄せられると聞きましてね……。今となってはそれが間違いの始まりでした」
幾重にも折り重なった人の弱みや負の感情につけ込んだ、狡猾な悪魔が起こした悲劇でした。
肩を落として後悔する伯爵に、ノエルは淡々と言い放ちます。
「たとえどんな理由があろうと、あなたたちのやったことは許されないことよ。しっかり罪は償ってもらうわ……」
「この話が明るみになれば、私は改易されて息子ともども牢獄行でしょう。悪魔に魂を売った当然の報いです……」
「そ……そんな、父さん!? 僕は伯爵家の……あああぁぁぁぁああああ!!!」
悲嘆に暮れる伯爵とグレンを見ながら、ノエルはこの事件の真の黒幕について思いを巡らせていました。
しかし、モリス会長も魔導書も消えてしまった今となっては、その存在を突きとめることはもう不可能です。
そんな状況の中、アレックスは今回の事件が、自分の良く知る男によって引き起こされたものだと既に感づいていました。
「あのおっさん、相変わらず胸クソワリーことばっかりしやがるぜ……」
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