ノエルちゃんの悲しみ

 ――アズマ、私……ずっと、ずっと好きだったよ……」



 ――でもね、本当はわかってたんだ……」



 ――アズマが見てたのは、私じゃなくてずっとマリカだった……」



 ――アズマ……やっぱり私じゃダメなのかな……?」



 ノエルはいつ覚めるかもわからない眠りの中で、過ぎ去った時に出会った大切な人たちの夢を見ていました。

 世界が救われたあの日から始まったノエルの悲しみは、一体いつまで続くのでしょうか?



 ――ったく、いつまでいなくなった奴のことを引きずってんだよ!」



 ――くよくよしてたって、あいつは戻って来ねーだろ?」



 ――だから、てめーはガキだって言ってんだよ!」



 そして、何故か聞こえてくるは、大嫌いなアレックスのデリカシーのない言葉ばかりでした。

 夢の中で感傷に浸っていたはずのノエルは、その言葉によってイライラが頂点に達し、怒りに震えながら飛び起きるのです。



 「……うるさいわね!! なんであんたなんかに、そんなこと言われなきゃいけないのよ!!!」



 目覚めたノエルは見知らぬ空間にいました。

 どうやら、革のソファーの上で寝かされていたらしく、さっきまで縛られていたと思われる縄と猿ぐつわが足元に落ちています。



 「こ……これってもしかして?」

 「へん! やっと起きやがったな、このクソエルフ! たくよー、面倒かけさせやがって!」



 振り向くと、ノエルがいるのとは反対側の壁際にアレックスが立っていました。

 しかも、悪態を吐いているのとは裏腹に、滅茶苦茶警戒しています。昨晩のことが余程トラウマになっているようです。

 そんなアレックスに、ノエルは不思議そうに聞きます。



 「あんたが……助けてくれたの?」

 「けっ! この館のド変態商人を追っかけてたら、たまたま見つけただけだよ! ご……誤解すんなよな!」

 


 つっけんどんな態度をとるアレックスですが、ノエルにはわかっていました。

 小さな頃から、ずっと忌み嫌われながら生きてきたアレックスは、孤独であったが故に他人への親愛の示し方を知りません。

 ですから、普段の粗野で乱暴な言動の裏側には、知らず知らずのうちに彼からの愛情表現が含まれていたのです。



 照れくさそうに視線を逸らすアレックスを見つめ、ノエルは彼には見せたことがない優し気な微笑みを浮かべて言いました。



 「来てくれてありがとう……アレックス」



 ノエルのしおらしい態度に、アレックスは顔を真っ赤にして助けたことを否定します。

 アレックスのわかりやすい態度を見て、今度はノエルがクスクスと笑いました。



 世界が救われた日から続くノエルちゃんの深い深い悲しみも、いつかアレックスくんという少々苦い薬によって、癒える日がくるのかもしれません。

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