招かれざる訪問者
一方のノエルも、ふかふかのベッドに嬉しさ半分、ひとりぼっちの寂しさ半分で横になっていました。
アレックスがそうだったように、ノエルも難民街で出会ったドナに、幼かった頃の自分を重ねていたのです。
「……マリカ……会いたいよ」
幼い頃、ノエルたちの住む森は巨大な怪物に襲われ、壊滅の危機に瀕していました。
勇者と出会ったあの日、勇者と一緒にいた一人の異界の少女が、まだ小さなノエルに約束してくれたのです。
ノエルを含め、半ば諦めかけていたエルフ全てを守ってみせると。
ノエルはその少女のことを、実のお姉さんみたいに慕っていました。
「二人とも酷いよ……どうしていつも、私だけおいて行っちゃうの……」
かつてノエルが愛した異界の少年と少女、今はもう二人に会うことはできません。
そして、ノエルちゃんは今日も枕を涙で濡らし、過ぎ去った時を思いながら眠りにつくのです。
「……むにゃむにゃ……アズマ……うへへへ……」
そして、ノエルがぐっすりと眠っている丑三つ時でした。
部屋のドアが静かに開かれ、怪しい黒い影が部屋に入って来ます。
黒い影はゆっくりとノエルのベッドに近づくと、持っていた短剣を掲げて勢いよく振り下ろしました。
「な……なに!? 誰だ!?」
「おっと、こんな口うるさいクソエルフでも、今くたばられちゃ困るんでね。てめー、どこのアサシンだ?」
間一髪、アレックスの剣が不審者の短剣を弾き返していました。
真っ暗闇の中、眠ったノエルを挟んで、アレックスと謎の刺客は向かい合います。
「俺んとこにも、てめーみたいなふざけた客が来たからよー、もしやと思ったんだが……」
「く……失敗か!」
アレックスに仲間を倒されたことを知り、その刺客はとっさに逃げようとしました。
しかし、アレックスはそこまで甘くはありません。
「ばーか、逃がすかよ、ウスノロ野郎」
「な……速い!」
刺客はアレックスの剣の鞘を頭に叩きつけられ、床に崩れ落ちます。
誰の指示かを聞きだす為、生かしておくつもりでしたが、既に刺客は歯に仕込んだ毒をかみ砕いていました。
「ちっ! こいつもか、弱っちーがよく教育されていやがる……」
謎の刺客を倒したアレックスは、ノエルの無事を確かめるようにベッドに歩み寄ります。
「ったく、今の騒ぎで起きねーとか、一体どういう神経してやがんだよ」
ノエルは刺客に襲われたことなど全く気付かないまま、相も変わらず天使のような顔で眠っていました。
アレックスはそんなノエルに呆れますが、ある決心が固まったようです。
「こっちが下手に出てりゃ、ずいぶんとご機嫌なことしてくれんじゃねーか……。そっちがケンカ売るんなら、喜んで買ってやるぜ」
ノエルがぐっすりと眠る横で、アレックスは不敵に笑いました。
闇の中、闘争心に火をつけられたアレックスの赤茶けた瞳が、不気味に光ります。
「……むにゃむにゃ……アズマ……一緒に寝ようよ……」
「ちょ! てめ! おい、寝ぼけてんじゃ……!!」
そんなキメキメのアレックスの手を、寝ぼけたノエルがベッドへと引っ張ります。
突然のことにアレックスは足を取られて、ノエルに覆いかぶさるようにベッドに倒れました。
アレックスが慌ててじたばたするので、さすがのノエルも目が覚めたようです……。
「……ちょっと、なに? アズマ……じゃないの?」
「お……おい! 誤解すんなよ!! 俺はお前を助けにだな!!」
「な!? なんであんたが、私のベッドにいるのよ……?」
必死に言い訳するアレックスでしたが、もはやこの状況で彼女を説得するのは不可能というものでした。
「ちょ……待て! ここで魔法はヤバいって!!」
「こぉんのーー!! 変態チンピラ剣士ー!!!!」
月の綺麗な静かな夜でした。大きな閃光が夜空を照らし、目の覚めるような爆発音が町中に響き渡ったのです。
そして二人は、伯爵に手配してもらった宿も出禁となりました。
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