サイモン一家の悩み
明くる日、サイモンの奥さんは二人に朝食を用意してくれました。
サイモンの家族は、奥さんに小さな娘が一人の三人家族です。聞けば、この町で代々商店を営んでいるというお話でした。
食卓を囲むと、アレックスは無遠慮にがつがつ食べ物を口に運び出します。
「ちょっと、恥ずかしいでしょ! 少しはお行儀よくしなさいよ!」
ノエルは堪らずアレックスをたしなめます。サイモン一家は苦笑いです。
「あははは……いいんですよ、昨晩はありがとうございました。それにしても、この町も難民が増えたせいで本当に治安が悪くなってしまいました……」
サイモンは二人に再度昨夜のお礼を伝え、町の治安の悪化をぼやきだします。
そういえば、追い出された宿屋の亭主も同じようなことを言っていました。
ノエルは不思議に思い、サイモンに問いかけます。
「治安が悪くなったのは、最近のことなのですか?」
「はい、数年前に領主が変わって以来、今の伯爵様は貧民救済の名のもと、領内への難民の受け入れを拡大させました」
「とてもいいお話に聞こえますが?」
「冗談ではありません。領外から犯罪者でもなんでも際限なく難民を入れるもんだから、素行の悪い難民による犯罪が増えているんです!」
最初は穏やかだったサイモンも、話しているうちに興奮し始めます。
ノエルはなだめるように話を続けました。
「領主は何か対策をとっていないんですか?」
「それなんですよ、伯爵様は難民が犯罪を起こすのは家や職がないからだと言って、町のはずれに大規模な難民居住区の建設を始めたんです」
「それにも何か問題がありまして?」
「もちろん、ただでそんなものできるわけがありませんから、財源確保に元々の領民には増税を課したんです。私たちは難民が起こす犯罪に怯えて、領主からは高い税金をむしり取られ、八方塞がりなんです……」
サイモンが重い話をしてる最中も、アレックスは遠慮なくパンをむさぼっていました。
ノエルが言葉を詰まらせる中、サイモンの奥さんが心配そうに口を開きます。
「それに、最近では小さな子を狙った人さらいが増えているみたいで……うちの子もまだ小さいから、心配です……」
とりあえずわかったのは、古くからの領民が今の領主に大きな不満を持っているということでした。
アレックスとノエルは、朝食を食べえ終わるとサイモン夫妻にお礼を言い、昼間の町へとくり出します。
「さっきの話、よくわかんねーが、悪党にとってはずいぶんと居心地の良さそうな町だな? 昔の俺だったら、是非居すわりたいところだったぜ」
「そうね、領主のやっていることの意図が見えないわ。こんな社会不安を起こしてまで、難民をどんどん入れるなんて……」
「そうか? 単に頭お花畑なウスら馬鹿なんじゃねーのか?」
アレックスはいつもの通りあっけらかんとしていましたが、ノエルはどうも何かが引っかかっているようです。
「まさかお前、この町の一件にデーモン・アドバートの野郎が絡んでるとでも思ってるのか?」
「わからないわ……でも、何か凄く嫌なものを感じるの。気のせいならいいのだけど……」
デーモン・アドバートとは、二人がさがしている悪い悪魔のことです。
インチキくさい紳士の姿をして、あるときはメフィストフェレスなどとも呼ばれ、巧みな話術で人の弱みにつけこむ狡猾な悪魔でした。
ノエルの表情があまりにも深刻そうだったので、アレックスはいつものように茶化したりしませんでした。
ノエルのこういう虫の知らせが、アレックスはよく当たるということを知っていたのです。
秋の陽ざしでポカポカする通りを、二人は町はずれの難民たちの居住区を目指して歩き出しました。
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