第8話 残虐
「はい、三本目ぇ」
「うぎゃあああぁぁぁアアああ」
「耳障り。煩かったから四本目だよ」
司教の部屋。そこで行っているのは、悪魔による愉快な遊び。
最初は指の爪の間に針を刺しても歯を食い縛って痛みに耐えていた司教も、その指を少しずつ切り落とす段階になったら喚き出すようになった。
ああ、耳障り。本当に煩い。
「さっさとジゼとの契約書を渡しなよ」
「そ、……そんなことをしたら……! 神、がお怒りになられるっ!」
「どうして神が?」
「神は、神は申されたのだ……っ。ジゼ・ガゼットを、殺せとッ」
「はぁ? 何それ?」
神がジゼを『殺せ』と命じた? あの『イヴ』に固執した神が?
何故? なんて思いながら、五本目の指を削ぎ落した。
「……ぐ、……」
呻く声も静かになってきた。血が流れ過ぎて今にも気を失いそうな司教はぐったりとしながらも、何かに怯えているように見える。
あの狂い神が絡んでいる?
悪魔に唆されて禁断の果実という名の知恵の実を口にした馬鹿な女以外見えていない、あの神が?
「でもソレ、僕には関係ないよね?」
「な、にを……ッ」
手の中で小さな炎を幾つも作りだす。それを司教に向けて、笑った。
「――さぁ。僕の炎に踊り狂え」
早朝。何者かに惨殺された司教の遺体が発見された。
戦争において大量の死者を出したことへの神からの警告だと『魔女生成』に関与していた王族は恐れた。
『神の怒りに触れてしまった』
王は次は自分の番だと怯えて部屋に引きこもり、気を病んだ末にある日突然舌を噛み千切って絶命した。
王と司教が死んだことで戦争はあっけなく相手国の侵略という形で幕を引くことになった。
司教の躰には幾つもの悪魔の爪痕が残され、その臓物は引きずり出され、じわじわと苦しみながら殺されたのだと分かる遺体を残し、ひとりの魔女と、契約書が一枚だけ消えていた。
それに気付く者は、混乱する国の中には居なかった。
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