高見家の黒柴ようかんと、銀色の髪留め
私は高見家の黒柴、ようかん。私と親しかった小学3年の女の子が、『いじめがつらい』と書いたメモを残して校舎の窓から飛び降り、足に重傷を負った。
『私たちはやっていません』といじめを注意した教師たちに言っていた同級生のスマートフォンから『飛び降りろよ』『学校来るな』と書かれた20通のラインが見つかり、彼女たちは激怒した毒女王バチに腕を40回刺され頭痛や下痢、不眠などで苦しみ続けている。
女の子は5年生になった今も登校拒否が続いているが、強一と一緒に鎌倉駅の周りを散歩している私に会うと「ようかん!」と嬉しそうな笑みを見せ背中をなでてくれる。
―――人はどうして人を殺すの?私が田原家のインコ、タルトに聞くと『コロナが広がって、怒りをこらえられずに人を殴り、蹴る人間が多くなったからですね。
他にも、好きな人を自分のものにしたい気持ちやお金の貸し借り、男親や女親が、同じ家に住んだり付き合っている相手から息子や娘が殴られ、蹴られていても止めようとしない、止められない―――などです。
『他者に認められたい』とナイフやペットボトル、スマートフォンなどを学校前や電車内などで凶器として使い、人を殺す人間が多すぎます』とため息をついていた。
私も新聞で殺人事件の記事を強一や22歳の兄慎一、二人の父方の祖父箋蔵さんや茶色の毛と緑色の目を持つオス猫じょうぎと一緒に見ながら、人の怖さを痛感している。
―――2021年7月。『亮介、三日月の形の髪留めがある。美月に渡すなら銀色だ』聡が亮介の肩をたたき、百貨店6階のショーケースに並べられた紺や銀、濃い緑色など10色の髪留めを見ながら言う。『ロンドン三日月展 7月14日から9月30日まで』と書かれた緑色の旗が建てられていた。
亮介は銀色の髪留めを手に取る。タグにはロンドンの旗が書かれており、胸元に緑色の三日月が描かれた黒いスーツを着た店員の女性によると、明かりを消したテント内や映画館など暗い場所で発光するらしい。
「9月14日は美月の誕生日だ。あいつに買うか」亮介は小声で言い、茶色の短髪で30代の男性店員にプチプチと『ロンドン三日月展』と書かれた銀色の紙袋に入れてもらった髪留めをリュックサックにしまった。
―――9月14日、夜8時。上下紺の寝間着を着た亮介はテント内で児童書をひざの上に置いたまま美月と一緒に寝ている娘に薄手の茶色いコートをかける。
心拍数が上がるのを感じながら机の上に銀色の三日月の形の髪留めと『美月へ 今日で24歳になるから、これを贈る 亮介』とボールペンで書いた紺色と白の便箋を美月の前へ置く。
椅子に座って自宅の本棚に置いてあった児童書4冊と長編小説6冊を読み終え、
タルトの水色の羽をなでながら寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます