大人編 アイリーンとルーク

       


 ルークのテントで毛布をかけられていたアイリーンは夜に目を覚まし、ルークと一緒にテント内でネギと豆腐入りのみそ汁を飲んでいた。

 「このマグロのお寿司、ルークが握ってくれたのね」「17歳から日本に来て10年間、銀座の寿司店で炙りサーモンやしめ鯖などをお客様に出したなあ。

 『店を開けられるのが午後8時まで』と去年4月に電話が来た後、解雇になった時は3週間、何もする気がしなかった」ルークはみそ汁を飲みながらため息をつく。

 アイリーンはみそ汁に入っているわかめと一緒に寿司を食べ、「アントニオは私にあなたへの暴言を書いたラインを送ってきた」と小声で言った。

 ルークは寿司を食べ終えたアイリーンのひたいに自分の唇をつける。丸太の上に止まっていたコミミズクのクローディアが、首を回しながら二人を見て鳴く。


 

 うれしそうな笑みを見せるアイリーンの肩に、クローディアが止まった。ルークが顔のまわりの羽をなでると、クローディアはあくびをした。

 「アイリーン、このコミミズクは鎌倉警察署の個室で父親や母親、その交際相手などから殴られたり暴言を受け続けた小中学生や高校生たちの気持ちを秋次郎さんと一緒に聞いてるクローディアだ」

 クローディアは「(先週の火曜日、43歳の母親と33歳の交際相手の男に蹴られて背中が腫れ上がった小学6年と4年生の男子が、個室で号泣してた‼

 二人は毒バチに腕を40回刺された後、下痢と頭痛、40度の熱が続いて家から出られない‼)」と激怒しながら首を回した。


「小町通りにある土産屋でメンフクロウの形のしおりを買ったんだ。本を途中から読みたい時に使ってほしい」

 ルークがメンフクロウが描かれたワインレッドのブックカバーをアイリーンに渡すと、「ありがとう」と言って愛読する日本の長編小説にはさんだ。

「町原知子さんの古本屋には、本好きな人に1冊の本を持って来て渡してくれるメンフクロウのムートがいるんだ」アイリーンは「結婚してから一緒に行こうね」とルークと手をつなぎ、嬉しそうな笑みを見せた。


 娘の梅や妻の聡美と一緒に豚汁と梅干し入りのおにぎりを食べ終えたアーノルドが、アイリーンに「俺はアーノルドです。気分はどうですか?」と声をかける。

 「銭湯に入りたいです」とアイリーンが言うと、「夜10時まで開いてますよ」と

笑みを見せた。

 「アーノルドさんはアイスクリーム屋から砂浜まで君を抱え、僕のテントに入れて

くれた」「ありがとうございます」アイリーンはアーノルドに頭を下げ、銭湯へと

向かった。


 銭湯から出たアイリーンは茶髪を首の後ろで結び、薄緑の半袖シャツとベージュの

ジーンズを着てテント内に戻った。

 ルークはアイリーンと一緒に日本の小説を8冊読んだ後、波音を聴きながら寝た。


 


 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る