子ども編 ひなたとひかりの後悔


 ひなたとひかりは毒バチに刺され腫れ上がった腕の痛みとアントニオへの怖さで冷や汗をかきながら、両手で首をつかまれているアイリーンを見つめていた。

 小声で「やめて」と言われてもアイリーンの首を絞め続けるアントニオに、都立の小学校や温泉小で同じクラスの子を泣かせて嫌な気持ちにさせたことを痛感する。

 「(こんな顔で、泣いている他の子を椅子でたたいてたんだ)」腫れ上がった腕の痛みで床に座り込んだひなたの肩を、ひかりがたたく。殺意のある笑みを浮かべて近づいてくるアントニオに、二人は「嫌―――!!!」と絶叫した。


 「松谷、佐田!」店内に入って来た亮介が、二人に駆け寄る。「亮介先生‼」と泣きながら絶叫すると、入り口から「アントニオ。店から出ろ!」とルークの声がした。

 アントニオがアイリーンの首から手を離すと、店内に入って来たルークと美月がせき込む彼女に駆け寄る。床に倒れ込んで失神したアイリーンを、アーノルドが担架に乗せルークのテントへと向かう。

 秋次郎がアイリーンの首に保冷剤入りのタオルを当て、コミミズクのクローディアが首を回しながらテントの前でパイプ椅子に座るルークの肩に止まった。

 

 

 アイスクリーム屋で「この二人をどうしてかばう?」とアントニオに聞かれ、亮介は「彼女たちは泣きながら後悔している。いじめをしないように、教えていかないといけない」と答え、ひなたとひかりと砂浜に向かう。


 緑色のパーカーと茶色いタイツを着た小学3年生の女の子が、「ああ―――!!!」と絶叫しひなたとひかりに向かって片手に持ったナイフを投げる。

 亮介は16歳から1年間使っていたハンマーを片手に持ち、ナイフを折ろうとする。ナイフは二人に当たることなく、ズボッという音を立てて浜に刺さった。


 「お前たちが今行っている小学校では、ナイフを持って他者を刺そうとした者は

2年間登校できない」駆け寄って来た聡が言い、女の子の前に座る。

 「小1の時、同じクラスだったひなたとひかりに椅子でたたかれて、毎日泣きながら過ごしていました。

 先生に相談しても『いじめはありません!』ばかり言われて、図書室にいる時だけほっとできます」女の子は砂浜に座り込んで泣き出した。

 

 「人を殺してはいけない」聡は女の子の肩に両手を置いて言った。「菜緒ちゃん。ごめんなさい」ひなたとひかりが聡から渡されたタオルで目を拭きながら、菜緒に謝る。

 「北海道の小学校で過ごすようになってからも、『たたかないで‼』って言っても笑っていたあなたたちが嫌い。

 冷や汗かきながら絶叫してるの聞いて、小声で笑ってた」菜緒は二人のほおを両手で引っ張った。

 

 「菜緒。このナイフは俺が和食店で使ってもいいか?」「はい」と答え、菜緒は自宅へと戻っていった。

 




 


 



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る