子ども編 SNSは成人後も禁止

          

 

 秋花の先輩で頭の後ろまで短くした髪を薄紫色に染めている15歳の本間麗子は、毒バチに刺された腕が腫れ上がっているひなたとひかりに激怒していた。

「コロナで仕事がなく苦しんでる人や、家に帰りたくない子を助けようとしてる人たちがいるのに、あんたたちは野菜ジュースを服にかけたり彫刻刀を投げたりして他の子や桃をいじめることを楽しんでた!相手がどれだけ苦しいか、分かってるのか‼」

 麗子は机を両手でたたくと、自分のテントへと戻っていった。彼女も小6の時にいじめを受け、源泉中の女子マラソン部に入り秋花たちと一緒に走るまで人と会うことを怖く感じていたのだ。


 「本間。少し冷静になったほうがいい」水色のワイシャツに緑のズボン姿の細身の男性が、彼の母の実家から送られてきたレモンとハチミツで作ったレモネードを机の上に置いた。泉二郎の兄で源泉中学校のカウンセラー、滝温水である。

「あの二人、桃に彫刻刀を投げて笑ってたんです!」と大声で言う麗子に「今年の11月から、成人後もSNSが禁止になる。

 同級生や先輩から暴言を送られた小中学生や高校生が、線路に飛び込んだり校舎やビルから落ち死んだ事件で、テストも紙に戻り『授業でいじめをする子どもにスマートフォンを使わせない』ことになった」

 温水はため息をつきながら答えると、ハチミツを入れたレモネードをカップに入れて渡した。

 


 テント内で両親と一緒に児童書を読んでいたひなたとひかりは、ハンマーを持った34歳のイギリス人男性アントニオに小町通りのアイスクリーム屋に連れて行かれた。

 店内で抹茶アイスを食べていた26歳のイギリス人女性アイリーンとともに人質に取られ、冷や汗をかきながら床に座り込む。

 「(腕が痛い)」アントニオのハンマーと「いじめをしたのだろう?」という声が顔に近づき、二人は絶叫した。



 秋次郎が砂浜にやって来て、ルークや『ビーヘイバー』参加者たちに「温泉小の佐田ひなたちゃんと松谷ひかりちゃんがアントニオに連れ去られた。

 店内にはガラスが飛び散っていて、肩まである茶髪のイギリス人女性もいる」と冷や汗をかきながら言う。

 

 二人の両親が「田畑さん、ごめんなさい」と彫刻刀を見つめながら桃の両親、真希と和希に頭を下げる。

 「ルークさん、秋次郎さん。俺と美月も同行させてくれませんか」驚く3人に、亮介は「松谷と佐田は温泉小でバンド『温泉』の一員として、俺や博人、美奈たちと演奏しています。音楽を楽しんでくれているんです」と言う。

 「分かった」ルークは亮介に水色のメモ帳を渡し、「毒バチたちに渡せば、僕に届く」と言い笑みを見せる。

 秋次郎は亮介と美月を鎌倉警察署の車に乗せると、ひなたとひかり、アイリーンがいるアイスクリーム屋へと向かった。

 


 

 









 

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