大人編 火事とパン屋の男性

               

           

 強一が「真希さん、ホースを伸ばしてください!」と大声で真希に言った。真希はほおにやけどを負いながら美月や男子大学生たちと一緒にホースを伸ばし、ベージュのテントにつきそうになっていた火を消し終え地面に座り込んだ。

 

 「火が消えたんだな。真希もみんなも、無事でよかった」桃と和希が駆け寄って来て、真希のほおに濡れたタオルを当てて冷やす。真希は二人とようかんに「ありがとう」と笑みを見せた。

 火を消そうとせず、地面に座り込んでいた純子は無言で秋次郎と一緒に鎌倉警察署へと向かった。


 ベージュのパーカーと紺のジーンズを着た黒い短髪のパン屋の男性が、「僕、横浜でソーセージや粉砂糖を入れたパンなどを売っている若原清太です」と言い、ソーセージとチーズを入れ焼いたパンとメロンパンを参加者たちに渡す。

 

 パイプ椅子の上に乗ったコミミズクのクローディアが、「(私は鎌倉警察署のコミミズク、クローディア。

 息子や娘を蹴り、泣かせる男女と再婚する父親や母親が多い‼)」と小説を黙読する亮介の肩に止まっているインコのタルトに話しかける。

 「はじめましてクローディア。わたくしは田原家のインコ、タルト。

 温泉小2年1組で高見家に来ることが多い海子も、37歳の母親冬子と付き合っている45歳の男にベルトと一緒に洗濯機に入れられ、泣きながら過ごしています」

 「(45歳の男は小学生の女子を段ボール箱に入れ、自宅に連れて行くことが多いわ。深夜に通りをうろつくから『うろつき男』と呼ばれ嫌われている。

 

 2週間前の水曜日、57歳の母親に顔にみそ汁をかけられ、『お前の顔なんか見たくもない!』と毎朝怒鳴られ続けていた小学3年生の男の子を鎌倉警察署の個室に連れて行って話を聞いた。   

 男の子は秋次郎が渡したタオルで顔を拭いた後、『お母さんが怖い』って大声で泣き出した。母親は息子に謝ろうともせずタバコを吸いながら過ごしている‼)」

 クローディアは激怒しながらパイプ椅子から下り、紺色のテントの前を通り過ぎて秋次郎の肩に乗った。



 ―――夜9時。銭湯から出た強一は黒柴のようかん、幼なじみで銭湯高校放送部の大貴と一緒に砂浜を歩きながら、「温泉小で大貴と出会い、給食や本紹介の時間に一緒に放送を始めた」と小声でようかんに言う。

 「温泉小4年の時に強一が放送室に上履きを忘れて、源泉中でテニス部の練習帰りだった慎一さんが取りに来た」と大貴。

 「6年の時に大貴が朝寝て夜起きる生活になって、2年間授業を休んで通院した。銭湯高校に入った後は朝6時に起きている」強一は大貴の肩をたたきながら言った。


 赤いテントの前で、大貴が強一とようかんに手を振り自分のテントに戻る。強一はテント内で、あくびをするようかんの耳をなでながら寝た。

 

 

 


 




 

 


 


 



 

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