第14話 ごめんなさい

 「どうかしましたか?アフェさん」

 エーテルを…守らないと…でもエーテルは犯罪を…だめ…私だって犯罪を犯しているんだから…守っても…だけど…それだと彼は許してくれるのかな…。犯罪者をかばう犯罪を…天国にいる彼は…許して…。……。

 「…ごめん…なさい…アフェ」

 「…なんで?なんで謝るの?」

 いきなりエーテルが謝った。黙っていてごめんなさいということ?別に…それは…気づかなかった私が悪かったのに…。

 「…その顔…まさか数ヶ月前に起きた殺人事件の被害者の自動機械…?」

 「え?」

 …エーテルが…誰かを殺している?それってどういうこと?確かに…数ヶ月前にこの近くで誰かが何者かに殺されたという事件が起きた。犯人は…まだ…捕まって…ない…?まさか…それの犯人さえもエーテルだというの?どうして…。

 「…肯定…します…嘘ついて…ごめんなさい」

 エーテルは自分のことを廃棄処分される予定の自動機械だと言った。だけどそれは偽りだった、嘘だった。自分が嫌われないために、匿ってもらうために…自分のみを守るための嘘だったんだ。…私と同じ…だったんだ。

 「…エテル…ご主人さま殺した…耐えられ…なくて…耐用限界…超えていた…生きたい…死にたくないから…自己防衛で…ご主人さま殺した」

 「機械がご主人さまを殺すなんてあってはいけません」

 「待って。…耐えられないってどういう事?」

 「そんなの…」

 「聞かないとだめです」

 「…。…エテル…エテルは…」

 エテルは…元々…廃棄処分される予定じゃなかった…。ちゃんと…ご主人さまにつく…自動機械だった…。だけど…ご主人さま…エテルを…ストレスを発散させるための「道具」…として扱ってた。その影響で…エテルの体…一部不安定になった…。永久機関の破損…機能の使用不可…知能の低下…エラーが…色々発生した…。…これ以上…エラーが発生したら…エテル…動けない。…死ぬ…永久停止…免れない…。殴られるのは嫌だ…蹴られるのも嫌だ…痛いのは嫌だ…逃げても…逃げられない…ご主人さま…認識したら…もう逃げられない…。…だから…生きるためにも…死なないためにも…ご主人さまを殺した。ご主人さまが…いなくなれば…エテル…自由になれるから…なりたかったから…殺した…。それは…変えられない…事実…

 …ご主人さまの…罵倒や暴力…全部…感情入っていた…。最初は…何も感じなかった…でも…受けいくうちに…ちょっとずつ…感情が理解できて…もう…嫌だ…って思えた…。怒りでも…感情は…感情だから…感情が入った攻撃を…受けいていくうちに…それがどんなものなのか…分かり始めた…感情が分かってしまったから…ご主人さまに…反抗「心」…抱いた。…耐えられなくなった…「正当防衛」…として…エテル…気にしていなかった…。だけど…悪いって…罪だって…そういう自覚はあった…。反省している……それだけは…分かって…。

 「…」

 私と同じような境遇を経験していた。似ているね…私達…。似て非なるもの…か。スノードロップと鈴蘭のような関係性…だね…。

 「…ごめん…なさい…」

 「機械に心がある…?」

 「そんなわけない。機械は「生命ではない」のだ。心なんて持ち合わせているはずがないんだ」

 違う。エーテルはちゃんと心を持っている。だから今でも涙が出そうな顔をしているじゃない…!どうしてみんなそれを分かってくれないの…!?

 「確かに普通の…いや「人間なら」正当防衛が成り立つだろう。命の危機が迫っているのだからな。だけど機械で命を持ち合わせていない種族に「正当防衛が成り立つ」と思っているのか?」

 「…」

 「…違う」

 「はい?なんですか?」

 「違うって言っているのよ!」

 大声で言う。あの時の…あの時の彼の母親のように。彼は許してくれないかもしれない。犯罪者をかばう、その姿勢を。

 だけどもういい。罪を重ねてもいいから…許してくれなくてもいいから。エーテルだけは奪わないで。そう願っても何もしなければあの時の私でしかないのだから。機械で無慈悲な私になってしまうから。私は機械じゃない。…違う。機械だってきちんとした命がある。道具じゃない。動いているのだから。この世界に存在しているのだから。…私は「生命」なのだから。自分から動いて変える力があるのだから。…もう傍観者はこりごり…だから…主張しよう。彼の母親のように…だけど…彼女のように失敗しない。絶対に…自覚させてやるんだ…!

 「生命じゃないとか…人間じゃないとか…そんな事言わないでよ!エーテルは…ちゃんと命がある…いやエーテルだけじゃない…機械だって…機械だって命があるんだから!」

 …ごめんなさい、コマン。

 私はまた繰り返してしまう。

 これは私のただのエゴ。エーテルとまだ一緒にいたいというエゴだから。

 …許さなくてもいい。人間は欲望深い生き物なんだから。

 そういう「生命」なのだから。

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