第11話 感謝

 「…どう?気味が悪いでしょ」

 機械だから誰かの死なんて気にするかどうか分からないけど…。エーテル…「貴方」は私のことをどう思う?こんな話を聞かされて…しかも目の前にいる救世主が殺人犯だったら?絶望して出ていく?それともそうだと知っても私のところにいてくれるの?

 …前に私はこう思った。エーテルのこと犯罪を犯している機械なんだと。あれは完全にブーメランだった。ごめん…犯罪者なのは私も同じなの。だから「貴方」を責める権利なんてなかった。むしろいけないことだけど窃盗をしている「貴方」のほうが私よりかは綺麗なのかもね。窃盗のほうが罪が軽いし…それに…「貴方」は生きるためだったんだからね。私は別に生きるためでもない。快楽目的でもない。ただ一つの言葉だけで人を死なせてしまったのだから。

 「…質問。当機の意見、述べてもいい?」

 「…どうぞ」

 「感謝。じゃあ、述べる」

 エーテル…「貴方」は何を言うの?私に対しての罵倒?それとも絶望?失望?マイナーな事しか出てこない。でもそれでもいいの。私は…罪を犯してしまった人間なのだから。許されて受け入れられるはずがない…。機械でも…ほとんど心がわかるエーテルなら尚更…。

 「意見。罪を自覚して反省しているのならいいと思う」

 「…え?」

 どうして?どうしてそんな事が言えるの?謝罪はたしかにしている。そして反省も罪も忘れたことはない。だけどそれだけで許してくれるなんて…そんな甘い考えが通用するわけがない。彼だって私を今でも恨んでいるはずなんだ…。

 「永久に忘却しないのなら当機はそれでいい。罪もちゃんと反省して罰も受けているのならそれでいい」

 …罰…因果応報として両親を失った事…。でも…それだけじゃあ…!

 「それに確かにきっかけを作ったのはアフェ。だけど彼に対する悪口や悪い評判を拡散したのはアフェじゃない。別の誰か。責任転換じゃないけど…アフェも悪いけど他の人達の方が悪い」

 「でもそれを何もせず眺めていたんだよ!?何も感じないまま…!」

 自分の所業の後始末をすることもなく…ただ…勉強してうるさいなと思い続けていた…。…傍観者のクズ野郎なのに…なんで…?

 「主張。当機は罪を犯している生命も何かしらの理由があって犯した、犯してしまったと思っている。それに最初は2対1じゃなかった」

 …確かに…そうだけど…。二人で話しているときに他の誰かがいきなり話に乱入してきて…でもあれも…私が彼に勉強を教えていたら起きないことだったのに!それをどうして悪くないって…!

 「過ぎたことを呪っても何にもならない。当機、人間の感情や人情に疎いけどこれだけは言える。過去の事を呪っても何にもならない。縛られていても何にもならない。だからアフェが今できることをやる」

 「…出来ること…?」

 「ちゃんと反省しているって天国の彼に伝えて、そして彼のことを忘れない、罪のことも忘れず次は間違えないようにする。…それが一番だと思う」

 …

 「過去のことは変えられない。悔やんでも仕方がない。だから自分の時間を罪の償いに使用して今を生きてばいいと思う」

 …エーテル…「貴方」…本当に機械なの?私よりも心の救い方を理解している…。機械に心なんて分かるはずないって思っていたのに…本当…「貴方」は恩人だよ…。

 「…どう?これが当機が思っていること」

 そう首を傾げた。不安そうな顔で首を傾げた。…大丈夫だよ…。「貴方」…機械初のカウンセラーになる…?向いていると思うよ…。…ありがとう。罪を犯しているなんてみんなにも言えないことだったから…責任能力がないとは言え…誰かを殺してしまったことは事実なのだから…それを…過去に縛られていた私の現状に対する解決案を出してくれてありがとう…。…初めて、「貴方」に言うかもしれない。「貴方」は何度も何度も私に対して言ってくれたのにね。

 …私は「貴方」に救われた。

 「貴方」がいてくれてよかった。

 「貴方」は私の恩人で大切な子供だから。

 …私はいつかこの恩を返す。

 そして「貴方」にこの言葉を言おう。

 みんなが自動機械に対して言うべき言葉なのに誰も使わなくて、自動機械が働くのを当たり前だと思っていて使われなかった言葉…。

 それを自動機械である「貴方」に言うよ。

 私が初めて…言うよ。

 「ありがとう…エーテル」

 感謝の言葉を言うよ。エーテル。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る