第10話 白い心が赤く染まったあの頃

 昔、私は学校で優等生だった。学年一位を毎回取る天才児。みんな私に期待して、先生も私のことを誇りに思ってくれていた。学校が誇る天才児だって。両親も私に期待してくれた。みんなに期待されるのはプレッシャーだったけど私は臆することなく勉強を続けた。私の場合、勉強が好きだった。色々な知識が覚えられて世の中のことも過去のことも未来のことも知れるから。…だから勉強が好きだったからこそ馬鹿が嫌いだった。馬鹿は勉強しない奴らという「偏見」があったから。両親もそう言っていた。私の両親はお母さんは医者、そしてお父さんは大学の教授という頭のいい人達だった。頭が良かったから頭の悪い人たちの気持ちなんて分かっていないのに分かったふうに子供の私にこう言ったの。

 「馬鹿はわるいひと?」

 「そうだ。馬鹿は勉強をおろそかにして、それを良しとする奴らなんだ。しかもそれを自分の理解力のせいにする」

 「原因は努力しないからだと気づかない愚か者よ。アフェオンはこんな子にならなくてよかったわ」

 子供にとって親は神様。何でも知っているような存在だった。だから私もそれを受け入れてしまった、子供の純粋な心で受け止めてしまった。だからこそ私は馬鹿に対する「偏見」と「悪い価値観」が生まれた。子供なのに馬鹿を極端に嫌った。努力をすれば誰でも頭が良くなるのにどうしてそれをしないのか不思議で仕方がなかった。そして私のクラスにもいた、極端に馬鹿でクラスから除外されているような扱いを受けていた子。その子の名前は…コマン。コマン・オリジンという男の子だった。

 同級生の男の子。当時の私は小学二年生。…恐ろしいよね。小学二年生で誰かを殺してしまうなんて…。…ごめん、話が脱線した。

 その子はとても頭が悪かった。学年でいつも最下位を取っていて私はその子が嫌いだった。両親が馬鹿を嫌うように私もそれが遺伝された。教育と遺伝により馬鹿を嫌うようになった。だから私はその子と話さないようにした。だけど…そんなある日…その子から話しかけられたの。

 「ね…ねぇ…」

 「…なにかしら」

 「これ…教えてくれないかな…」

 話しかけてきた理由は分からない単元があるから教えてほしいとのこと。だけど当時のわたしは彼に対してひどい態度をとってしまったの。そのことは今でも反省している…人を殺したんだから反省しないと私は最低最悪になってしまうから。罪を正当化するつもりはないとだけ…。

 「何を言っているの?自分でやりなさい。馬鹿なんだから自分でやらないとだめでしょ?」

 「そうだそうだ!馬鹿なら努力しろ!」

 「そうよ。努力しないのだからいつまで経っても馬鹿のままなのよ」

 会話していたら近くにいた子が会話に乱入してきてね。その子に敵対して、私の味方になったの。…本当はコマンの方につくべきだったのにね。これで完全にいじめになった。…2対1だったから。

 「…ご、…ごめんなさい…」

 そしてこの会話が拡散されたのかみんな彼のことを罵倒するようになった。彼は私のせいでいじめの対象になった。それを私は見ているだけだった。私のせいでいじめになったのに。それを私は…気にすることもなく謝罪することもなく…ただ学校生活を続けていた。

 彼に対するいじめは日に日にひどくなっていった。私と関わり、私がひどい事を言ってしまったから彼はクラス中からいじめを受けた。それに彼がいつも学年最下位をとっている事を知っている人が学年内で広めた。だから小学二年生の中で彼は学年で嫌われものになった。…そして彼もついに限界が来たのか。ある日…ニュースが放送された。私の住んでいた地域にある家に遺体が発見されたという話。

 コマンの部屋に…彼の首吊り死体があったという。

 当時は「へぇ〜」程度しか思えなかった。だけど警察の人がこの家に向かって事情徴収された。コマンの母親が私の目の前に来て私にこういった。

 「この子が!この子が私の息子を殺したの!」

 しかし私は小学二年生、責任能力がないとされることで無罪にされた。学校生活にも支障がなくて普通に楽しく過ごすことが出来た。天国にいる彼は恐らく許せなかったんだろう。自分を殺した人物がのんきに普通に生きているなんて許せるはずがないよね。

 …そして数年後、私はまだ私の罪を自覚していなかった頃。高校一年生で有名な理系高校に入学していた時、部活で夜遅くなってしまったときに、家に帰る道の途中にコマンの母親がいたの。殺すつもりはなかったけど愚痴を物凄く言ってきた。私にはそう言われる理由がわからなかった。命の意味は理系だったからそこまで知らなかった。生命の起源などは分かっていたけど…命の大切がよくわからない時期だったの。

 「貴方は私の息子を殺した罪を自覚していないの!?」

 夜の中大声で言っていた。家の人達も窓を見ていてこの会話を聞いていた。そして最後…私はあれを渡された。

 「スノードロップ」…それを渡されて、彼の母親は私の死を望んでいるということが分かった。その理由がわからなかったから、次から図書館やインターネットで検索をかけていた。でもそれだけでは分からなくて…それで因果応報だったのか…数日後、両親が殺人事件に遭った。連続殺人犯として逮捕されたのはコマンの母親だった。私は…その人にありえない質問をしてしまった。

 「どうしてお父さんとお母さんを殺したの!?」

 深い悲しみに暮れていた私は息子を私のせいで失ってしまった人に…そう言ってしまった。矛盾していて訳がわからないと今でも思っている。どうしてあんな質問をしてしまったんだろうって。…理由は分かりきっていた。

 「貴方が私にしたことをそのままやり返しただけよ!いい加減、罪を認めなさい!貴方が罪を認めないから!貴方がいたから!息子も貴方の両親も貴方のせいで殺されたのよ!」

 復讐…それも私に対して。私に復讐をすると決意したんだろう。あの花を渡された夜から。恐らく、数年間…私に復讐したいという意思を我慢し続けていたんだろう。怒りを抑えきれなかったんだろう。息子を失った悲しみに毎日溺れていたんだろう。…あの時私が感じた深い悲しみ…それを私のせいで失った人も同じ感情を抱えていたんだとあのときにようやく気づいた。感情論や精神論は科学の世界では馬鹿馬鹿しいと思われているから。全て根拠などがないと認められない世界だったから。私は感情や人情に疎かった。…でも、それでも人を殺してしまった普通に笑顔で生きていた私は機械のように無慈悲だった。

 罪を自覚した私は彼の墓に行って墓参りをしている。反省しているって天国にいる彼に伝えるために。こんなことをして許されるとは思っていない。だけどこれは償いだからやらないといけない。面倒だと思ってはいけない。面倒だと思ってしまったら元の機械のような自分に戻ってしまうような気がした。

 機械は確かに便利で優秀だった。だけど感情や人情に乏しいという欠点がある。人間を平気で見殺しにしても何も罪の自覚がない。人が死ぬ、もしくは殺される時の悲しみを知らないから罪を自覚することが出来ない。昔の私はエーテル…貴方以上に機械らしい人だった。現在は人間らしい生活をしているけど、一瞬でも罪を忘れてしまうと機械の自分になってしまう気がして、ずっと記憶を奥底に置いている。そして毎日軽い悪夢を見るのは精神に異常が出ない程度に、罪を忘れないために私の脳が無意識に想起させているのかもしれない。

 子供は純粋で何でも受け入れる白い心を持つ。

 白は純粋という意味を持つ色で清潔な色だから。

 その代わりに他の色に染められやすかった。

 私はあのときに白い心を赤…つまり血の色で染めてしまった。

 まだ色あせていない、心の色…。

 …これが私の最低最悪な過去だよ。

 どんなに完璧を装っても、裏では完璧じゃない人生を送っているのかもしれないのだから…。

 私はこの世界に完璧な人間って存在しないと思っている。

 誰でも…裏は持っているのだから。

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