第9話 似て非なるもの
今でも家にある、一輪の花。花言葉が分かって戒めなのか、忘れないためなのか、もしくはその両方なのか。様々な理由が考えられるけど残っている白い花。鈴蘭に似ているけど花言葉は全く違う花。エーテルにあげたのはちゃんとした鈴蘭で私の部屋にあるものは別物。…本当に似ているけど違う、似て非なるものだった。
「火加減は弱火で煮込んで」
「理解」
鈴蘭を見ると私の部屋にある花を思い出す。あの子の母親に渡されて「しまった」あの花のことを。あれは私にとって私の罪を証明するためのもので離してはいけない。罪を自覚していないって思われてしまうのだから。自然がほぼない世界で渡せるはずがない花を「渡された」。…恨まれていると理解した瞬間だった。両親に見せられない代物。言ってしまうとあの子の母親のところへ殴り込みに行きそうだから。罪を自覚した私は何の罪もない、むしろ恨んでいるあの人を傷つけてほしくなかった。
いつもとある日になると私はあの子の墓に行って花を供える。またしても白い花…カモミールという花を供える。「ごめんなさい」という花言葉を持つ花で謝罪の意思を示すいい花だと思った。その花が枯れるとまた私も花を供える。極端に寿命を伸ばせばいちいち供えずに済む。けど私にはそれが許されない。毎度来ることでちゃんと罪を自覚していると天国にいるあの子に伝えられる。これは償いでもあるのだから。
「主張。とても美味しい!」
「自分で作ったものは美味しいよね」
エーテルがいるから私は救われる。そしてエーテルも私がいるから救われる。互いに恩人同士。恩を返すために私はエーテルを教育して、エーテルは役に立つことで恩を返している。「努力」が報われる瞬間は私にとって嬉しいものでもある…そして「見たくない」瞬間でもあるから。
一日が終わった。エーテルはスリープ状態でベットに寝ている。エーテルと一緒にいるとどうしてもあの頃のことを思い出す。タンスの上にある花瓶…そこに添えてある白い花に目を向けた。あの子の母親に「渡されてしまった」花のことを。花の名前…それはスノードロップという花の名前。見た目は鈴蘭に似ている。けど花言葉は全く似ていない、恐ろしい花言葉を持つ白い花。
白とは綺麗という意味もあれば無邪気…という意味もある。無邪気はいつしか誰かを傷つけるかもしれない代物。何も知らない子供たちが一番怖い。エーテルもいつしか私を傷つけることもあるのだろうか、信じていないが。
スノードロップの花言葉…それは「貴方の死を望む」というものだった。でも望まれても仕方がないということをしたんだ。私は…。
…もう抱える必要もないのかもしれない。エーテルに隠し事するのは…なんだか申し訳ない気持ちになる。…そして私も…もう吐き出したいのだろうか。エーテルという心の拠り所が出来て…そこに心を置いて安心したいのだろう。…だからお願い、嫌ってもいいから。…吐かせて。
「…ねぇ、エーテル」
「返答。どうしたの?」
「…私のこと…知りたいって思ってる?」
「肯定。知りたい」
「…それなら私を嫌ってもいいから聞いて」
「…?」
もう隠し事はしたくないのだから。
嫌われてもいい、私は罪人だと思っているから。
…馬鹿が嫌いだと言った、でもそれは私自身が罪を認めたくないだけ。
エーテルと出会って認めるしかないんだと思った、だから私は言う。
「スノードロップ」を渡されるほどの私の悪行をね。
「…私は」
エーテルに言う。私の変えられない事実を。
ー私は人を私のせいで死なせた事があるのー
…つまり私は誰かを死なせてしまった…いや、美化しないでど直球に言う。
私は人を殺した事がある。…ただそれだけの事実だけど嫌われる理由にもなる、その事実を…嫌われたくないエーテルに言う。
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